第03話 ウメちゃんの妹、それと正香ちゃんへの不安 -アサキの日記-
「楽しみだ。
と、私の日記には珍しく、気持ちの描写から入ってしまった。
何が楽しみかというと、また、魔法使いとしての強化合宿をすることになったのだ。
ウメちゃんがスタンドプレーに走る傾向にあるので、そこを改善したいということ。
間違いなく向上している私の魔法力に対して、直接指導をしてより洗練させたいということ。
この二点を改善向上させることにより、我々天王台第三中学の魔法使いは集団としてさらに強力になる。という考えで、須黒先生から話を持ち掛けられたのだ。
以前の合宿は、ただ遠いというだけで観光旅行のような気分になってしまう面もあったが、今回は近場でみっちり鍛錬をするというだけに過ぎない。
それのどこが楽しみか、ということだが、
普段と違う変わった環境に身を置くことによって、私の知らないどんな私が見られるのか。ということだ。
須黒先生は、ハードなトレーニングになるといっていたけど、
お前について来られるか、とカズミちゃんにはからかわれたけど、
でも、私だって成長しているんだ。
しっかりとついていって、そして、まだ見ぬ新しい私への扉を開けるんだ。
頑張るぞ。
そうそう、合宿の話とは変わるけど、記しておきたいことがある。
今日、ウメちゃんが一人暮らしをしている部屋へ、初めて遊びに行ったのだ。
物があまりないせいもあるけど、とても綺麗に片付けられた部屋だった。
同じ女子として見習わないとな、と思った。
遊びに行こうと言い出したのは、カズミちゃんだ。
ウメちゃんをからかうだけならまだしも、備蓄品のカップラーメンまで勝手に作って食べちゃって、今日もいつも通り悪逆非道の限りを尽くしていたけど……
たぶんあれが、カズミちゃんなりの不器用な思いやりの表現方法なんだろうな。一人っきりで誰も友達が来ないんじゃ、寂しいのじゃないかと。喧嘩相手もいないんじゃ、寂しいのじゃないかと。
実際ウメちゃん、息を荒くして激怒しつつも、表情がイキイキとしていたものな。
その部屋で、ウメちゃんの子供の頃の写真を見た。
正確には、勝手に見て怒られた。
現在と変わらず目付きは悪いけれど、現在と変わらずとってもかわいい顔だった。
その写真には、ウメちゃんとそっくりな顔の女の子が写っていて、双子の妹だって。
妹ということ以外、話したがらなかったんだけど。
いや、同じ顔をしているから、妹だと教えてくれただけで、何も言いたくない様子だった。
妹さんと、何かあったのかな。
以前、治奈ちゃんに史奈ちゃんという妹がいることを知ったウメちゃんが、やたらと嫌味を言ったり絡んでいたことがあったんだけど、それも関係あるのかな。
仲が悪くて喧嘩しているとか、それくらいならまだいいけど。
悪いこと、悲しいことじゃ、なければいいけど。
ああ、そうだ、
その写真について、もう一つ気になったことがあるんだ。
ザーヴェラーとの戦いの後に、ウメちゃんが、祥子と呼ばれていた魔法使いと戦っていたこと、以前日記に書いたけど、
その子が、一緒に写っていたのだ。
私服姿の写真だから、その頃にもう魔法使いだったのかは分からないけど。
祥子という子は、ぶすっとした表情なのだけど、前列に立つウメちゃんは、端に写っている妹と一緒にそれはもう楽しそうに笑っていて。
だから、全体としては楽しい、和気あいあいとした写真なのだろう。
後に二人が、武器を交えるような間柄になるだなんて、あの写真を見て誰が信じられるだろう。
……誰なんだろう。
あの、祥子という人は。
過去にウメちゃんと何があったのだろう。
話が横に横にスライドしていくようで、日記がまるでまとまらないのだけど、気になったことといえば、もう一つあるんだ。
ウメちゃんの話はもうおしまいで、今度は正香ちゃんのことだ。
なんだか上の空になっていることが多い、などと様子がおかしいこと、以前も日記に書いたことがある。
あれからも注意して見ているのだけど、やっぱり、時々おかしいのだ。
塞ぎ込んでいるような、イライラしているような、悲しいような。
普段はまったくそんな素振りはないのだけど、時折見せるそうした表情が、なんだか切なくて。
私の思い過ごしかも知れないけど、でも、たぶん思い過ごしではないのだろう。
それとなく、本人に聞いてみた方がいいのかな。悩んでいるなら聞くよ、って。
余計なお世話かな。
十代の女子が当然に持つ普通の悩みなら、別にいいんだけど。
まあその可能性も充分にあるだろう。
だって、こんなボケボケしている私にだって、色々な悩みがあるくらいなんだから。
もうしばらく、様子を見るしかないか。
さて。
もう遅い。寝よう。
明日は、いい合宿になりますように。」
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