第06話 レクチャー受ければ戦えるものでもない

「早速じゃけどアサキちゃん、飛翔の魔法は覚えとる?」


 はるの唐突な質問に、面食らうアサキであったが、ぱちぱち瞬きしながら、すぐにこくりと頷いた。


「覚えてるよ。一回、練習してみたしね」


 制御出来ず、思い切り墜落したけど。


「ああ、ほうじゃったな。もっとしっかり訓練しときたかったけど、まさかこんな早くにザーヴェラーと戦うことになると思わんかったけえ。ごめんね」


 治奈は、申し訳なさそうに、小さく頭を下げた。


「そんな、謝らないでよ。だって、ヴァイスタと戦う地上戦の経験を積むことが最優先だったんでしょ? ……もしもわたしが、やっぱりまともに飛べないようだったら、地上からみんなをサポートをするから。でも、飛翔魔法を使って、どう戦えばいいの?」


 飛翔魔法をちょっと教わってちょっと試してみた、というだけでいきなりあんなのに挑んだら、間違いなく一撃で殺されてしまう。


「作戦自体は、ごくシンプルじゃけえね。まずは高く飛び上がっておいてな、落下しつつ、攻撃を避けつつ、そのまま切り掛かるか、運よく背中に乗れそうならば乗って、ダメージを与える。これを繰り返すのが、第一段階」

「繰り返すっていうと、じわじわダメージを与える戦い方のような感じだけど、ヴァイスタと同じで致命傷以外はすぐ回復しちゃうんじゃないの?」

「察しがええね。攻撃を繰り返すのは、弱点を探るためじゃけえね」

「弱点?」


 小首を傾げるアサキ。


「なんとなくな、こう、ガツンとした手応えがあるんだよ」


 代わってカズミが答えた。


「ここだ、って分かるから。あとはそこに、とにかくひたすら集中砲火を浴びせる。……そこにいき着くまでが地味なくせに命がけで、大変なんだけどな」

「でも、やらないといけないんだね」


 世界を守るためには。


「そうだな。でな、飛び上がったあとの話。落下しながら、制御は避けるための移動にのみ使って、つまりは魔力消費を抑えるわけだけど、飛翔の魔法中であることに変わりないから、他の系統の魔法は唱えられない。だから自分の武器に対して、前もって魔力的強化エンチャントしておくんだ」

「エンチャント?」


 なんだそれ?


「論よりなんとやら。ナルハがやってみせるね」


 話を引き継いだ成葉が、背中の大刀を抜きながら地面に屈んだ。


「ほおら、ゲームなんかでよくあるでしょ。魔法で、攻撃エネルギーを武器に込めておくんだ、こうやってさ。……イヒ・セイ・スターク」


 呪文の声と共に、成葉の両手が、ぼおっと青い光に包まれた。

 地面に置いたた大刀へと、その手を翳した。

 翳しながら、柄から、先端まで、ゆっくりと手を移動させていく。


 手から放たれた魔力を、吸い込んだ大刀が、青い輝きを放ち始めた。

 きらきらとした、綺麗な光だ。


「これがエンチャントだよ」


 柄を握った成葉は、立ち上がってにんまり微笑むと、自分の身体と同じくらいありそうな大刀を、ぶんぶんと軽々振って、背中に収めた。


 続いて、正香が口を開いた。

 みな別に、意識して順繰り持ち回りでアサキを指導しているわけではないのだろうが。


「攻撃の瞬間に魔力を放ち込めることと比べたら、エンチャントした武器の破壊力は弱いです。でも持続します」

「自由に呪文を唱えられないから、仕方ないのか」

「そうですね。着地をしたら、また飛び立つ前に魔力の込め直しが必要なのですが、でも、段々と込められる力は落ちていきます」

「え、どうして?」


 ただでさえ威力が弱いのに、もっと弱くなっちゃうの?


「唱え手が疲労するからです。……ですから、持久戦にはなるものの、そこまでの時間も掛けられないんです。それが、応援が間に合わないという理由です」

「そうなんだ……」

「ですが、もしも我々の魔力が尽きてしまったら、その時はとにかく逃げて、応援の到着を待つしかない。その間は、ザーヴェラーが一般市民を襲うことを阻止出来ないわけですから、最後の手段といえ……」


 と、その時である。

 飛行機がすぐそばを飛んでいるかのような、ぐおーん、という低く震える、大きな音が、正香の話を邪魔したかと思うと、次の瞬間、彼女たちの足元、地面に「巨大な白い影」が広がっていた。

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