第06話 わたしは単なるドジっ子です

 壁掛けテレビには、ボクシングの試合映像。


 ソファにごろんとりようどうしゆういちが寝っ転がって、柿ピーを摘んでいる。


 テーブルの横にある一人掛けソファには、アサキが座ってテレビ観戦を付き合っている。


 ここは、令堂家の居間である。


「えー、また入ったのか?」


 修一は、ビールを一口ぐびり、柿ピーを流し込んだ。


「うん」


 アサキは小さな笑みを浮かべ、小さく頷いた。


「アサキのクラスだけ、もともと生徒数が少なかったから、とか?」

「いや。わたしが入る前までが、どのクラスも同じ人数だったらしいから、現在は二人多いのかな」

「え、なんでそんな集中してるんだよ」


 壁掛けテレビの、日本人と外国人の殴り合いを見ながら、またビールをぐびり。


「さあ」

「分かったぞ。他のクラスに問題児が多いんだろ」


 せいと同じようなことをいっている。


「わたしのクラスのカズミちゃんが、一番の問題児だよう。授業サボるしさあ、すぐに殴るし、急に叫ぶしさあ。面白いギャグやれって強要してくるんだよ。……新しく入った子も、気の強さで負けてない感じだったなあ。二人、さっそくやり合ってたもんね」

「つまり反対に、そういう手の付けられない子を集中して面倒見ようってことか」

「えーー、わたしも問題児ってことになるじゃないかあ」

「違うの?」

「わたしは単なるドジっ子です」

「自分でいうかそれ」


 えへへ、とアサキは笑って、頭を掻いた。


 単に、話をはぐらかしただけだ。

 義父母に養って貰っている身として、学校生活のことはなんでも聞かせてあげたい。でも、転校生が偏るのは魔法使いの関係だなどと、正直に話すわけにはいかないからだ。


「さて、と、猫にご飯あげよっと」


 はぐらかしついでに立ち上がったアサキは、大きく伸びをすると、食器棚一番下の置き場から幼猫用のキャットフードを取り出した。


 においか、音か、それとも気配で気付いたか、カーテンの陰から、ささっと飛び出した白と黒の二匹の子猫が、アサキの足元にまとわりついた。

 黒い方が、足によじのぼろうとして、柔らかな爪をかりかりと立てる。


「痛いよお、ヘイゾーってば。いまあげますから、もうちょっと待っててねー」


 ヘイゾー、黒い方の名前だ。

 白い方はバイミャン。

 ネットで調べた中国語の、ヘイバイをもじったものだ。


 治奈と一緒に公園で拾った猫だが、結局、貰い手が現れず、ここで飼うことになったのだ。


 水を取り替え、皿にキャットフードを入れ、床のトレイに置くと、ヘイゾーとバイミャンは水泳の飛び込みのような実に激しい勢いで、頭を突き入れて、争うように食べ始めた。


 しゃがんだ姿勢で、その様子を見つめているアサキ。

 その顔には、微笑みが浮かんでいる。


 二匹の食べっぷりが心地よくて。

 拾った時にはあんなに小さく弱っていたのが、いまこんなに元気たっぷりということが嬉しくて。


「小さいから、どんどん大きくなるよな」


 いつの間にか修一が、床に両手をついて、覗き込んでいる。


「そうだね」


 自分も、同じだと思う。

 魔法使いとしての実力がまるでないからこそ、だからこそ、どんどん伸びているのを感じている。

 なんのための実力かというと、それはヴァイスタを倒すためだけのものだけど。

 でも、そうやって頑張ることが、自分が生きる上での自信にも繋がればいいなと思う。

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