第08話 だからこそ、日々を楽しく -アサキの日記-

「今日はとても楽しいことがあった。


 昨日の日記に書いた、人気アイドル歌手である星川絵里奈のチケット。なんとカズミちゃんも、手に入れようとしていたらしい。貧乏だし買うわけないだろ、とか言っていたくせに。

 でもやっぱり、あまりの人気のため手に入らなかったとのこと。

 だから、数日前から治奈ちゃんたちと計画していた、あれを実行したのだ。

 学校の近くにある公園で、「カズミちゃんリサイタル大作戦」を。


 リストフォンを使って舞台映像や伴奏を用意して、私たちがお客さんになって、カズミちゃんに歌わせたのだ。

 最初はわけが分からずにうろたえていた彼女、でもさすがというべきか、あっと言う間に慣れたら、まあはしゃいじゃって。


 以前も聞いたことあるけど、カズミちゃんの歌、本当に上手だった。

 歌う時だけ声が妙に高くかわいらしくなるの、なんでだろうな。

 全然かすれてないし。

 反対に、なんで普段はあんな低くてかすれてるんだろうとも思うけど。

 歌声の方が実は地声で、普段が声色だったりして。


 もともとは、キーホルダーのお礼にちょっと奮発して、私から星川絵里奈のチケットをプレゼントするつもりだったのだけど、一転して出費ゼロどころかこちらがプレゼントを貰うことになっちゃった。


 でもカズミちゃん、とっても喜んでくれて、抱き着いてきたりして。

 私までなんだかほんわか嬉しい気持ちになって、泣きそうになってしまった。


 そのあと何故だかプロレス技でぎちぎち締め付けられて、痛くて本当に泣いちゃったけど。

 カズミちゃんの、ああいうところだけはやめて欲しいなあ。でもまあ、照れ隠しでそういう態度をとってしまう不器用なところが、かわいらしくもあるのかな。


 ヴァイスタと戦うための仲間として、私たちはいるわけだけど、疎外感とはちょっと違うけどまだ私だけちょっと入り切れていないようなものを感じていたので、だから今日のことは良かったのかな。


 私が、というだけでなく、みんなもみんなともっと仲良くなれた気もするし。


 戦いは、怖いよ。

 いつ自分が生命を失うか分からない。


 でも、この世界がなくなるのはもっと怖い。

 親しい誰かがいなくなるのは、自分がいなくなるよりも嫌だ。


 だから戦う。

 怖いけど戦う。

 だからこそ、日々を楽しく送るんだ。

 悔いは色々あるかも知れないけど、せめて楽しく。


 さて、そろそろ寝よう。


 明日もみんなが笑顔でありますように。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る