第03話 けー! えー! ぜっと! ゆー! えむ! ……

 天王台第三中学の、アサキたちの教室である。

 現在は、一時限終了後の休み時間だ。


「それで三人揃って、遅刻ギリギリ五秒前だったのかあ」


 へいなるは、はははあと笑った後、


「バカだなあ。三人とも」


 容赦なくズバっと刀で斬り下ろした。


「なんでバカの人数勘定の中に、うちが含まれとるんか、理解出来んのじゃけど」


 不満顔でそういうのは、はるである。


「だって一緒になってすっかり聞いちゃってたんじゃんか。遅刻までしそうになって」

「ほじゃけど……」


 バカはいいすぎじゃろ、と口をもごもご。


「まあ、あたしの歌声に魅せられちゃうのは当然だよなあ」


 机に足を乗せ、頭の後ろで手を組んでいるカズミは、ふふんと笑うと調子に乗った表情でまた歌い始めた。


「♪ はじめて手を取り合って歩く渚 ♪」

「ねーっ、カズミちゃん、ほんと上手なんだよおお。 ♪ おくのおすなああきらぎたあひかるねええ ♪」


 アサキもつい一緒になって歌っちゃう。


「♪ はてなくうひるおがるううほしぞらのおおお ♪」

「怪音波で勝手にハモってくんなよ! あたしまで超絶ヘタだと思われるだろがああ!」

「そこまで酷くないよ!」


 といいつつ、ふと教室全体見回すと、男子女子、みんな苦虫噛み潰した顔をしていたり、もだえていたり、苦しそうに耳を塞いでいたり。


 バツ悪そうに肩を縮めるアサキ。


「わ、わ、わたしのことはともかくっ、カズミちゃんがとても上手なのは分かったでしょお? ……音楽事務所のオーディションとか受けてみたらあ? 目指せアイドル!」


 右手を突き出すアサキ。


「ははっ、なにいってやがんだこの小娘は。でもまあ、そうなれたなら、ガサツな自分からは卒業出来るかも知れないなあ」


 カズミ、褒め殺しにまんざらでもない表情である。


「受かってさ、デビューしたらさ、歌って踊れる魔法使いだね」


 魔法使い、のところだけこそっと声を潜めてアサキ。


「そ、そうだな」

「よっ、マジカル天使カズミン! K A Z U 我らのアイドルラブリーカズミ!」

「いやあ、ははっ。つうかセンス古いんだよお前は!」


 ボガン!


「あいたあっ!」


 褒めても殴られるアサキなのであった。

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