第19話 実のある合宿になったのかな

 カタン

 コトン


 小気味よく揺れている。

 車窓から見える田園風景が、ゆっくりと後ろへ流れている。


 カタン

 コトン


 車両内はガラガラで、ほとんど乗客はいない。


 七人掛けシートに座っているのは、


 へいなるおおとりせい

 反対側には、あきらはるりようどうさきあきかず


 強化合宿から帰る、JR常磐線車両の中である。


「……とかあるわけでな。ほじゃけえ、アサキちゃんと同じくらい、うちらにとっても中身のある合宿にはなったのかな」


 明木治奈が、満足げな笑みを浮かべた。


「基本は、治奈さんが常々おっしゃっている通り日々の生活や鍛錬ですけど、でも今後のために色々と考えることは出来ましたね」


 大鳥正香、いつも通りのおっとり口調である。


「なにより楽しかったしな」


 昭刃和美が、片あぐら組みながら器用に身を乗り出しつつ、にかっと歯を見せて子供みたいに笑った。


 その言葉に、治奈がぷっと吹き出した。


「どの口がいうかの。出発前はアサキちゃんに、遊びじゃねえんだってあんなに脅すようにいってたくせに」

「だってさあ、最初にそういっとかないと、あまりにだらけてもアレだろ」


 肩あぐら組んだ足首を、ぐっと自分へと引き寄せながら、隣に座っているアサキへとちらり視線を向けた。


 眠っている。

 カズミと反対側に座っている治奈に肩を預けてアサキは、くー、と小さな寝息を立てている。


 アサキの足元にあるバッグを見ると、ファスナーのスライダーからキーホルダーがぶら下がっている。

 真っ赤な変身ヒーロー、カズミがあげたバクゲキレッドのキーホルダーを、さっそく身近な物につけているのだ。

 それに気付いたカズミは、ちょっと微笑ましい表情になって、アサキの寝顔を見続けていた。


「マジックで落書きしてくださいといわんばかりに、ぐっすりだなあ」

「それだけ頑張ったってことじゃ」

「ま、そうだな。よくこのカズミ様のシゴキに耐えたよ」


 微笑を浮かべながら、手を伸ばしてそっと、アサキの頭を撫でた。

 と、その瞬間、撫でてた左腕のリストフォンが、ブーーーーーーと振動した。


「はぎゃあああああああああ!」


 頭にリストフォンを押し当てられる格好になったアサキが、振動に頭骨をガツガツガツガツ直撃されて、夢から一瞬で叩き起こされていた。


「カズミちゃんっ、どうしてすぐそういう悪戯するのおおお!」

「いや、ごめん、わざとじゃない。急に緊急メッセージが着信してさ。なんだろ?」


 カズミは、アサキの頭から手を離し、リストフォンの画面を見た。


「あ、あれっ、わたしのも、なんか、着信している」


 アサキはまだ眠そうながらも驚きに目を見開いて、自分の左腕にはめられたリストフォンの画面を見た。


 治奈、正香、成葉も同様に。


「なんだよ、こりゃあ……」


 カズミの、驚き不安がる声。


 当然の反応だろう。

 何故ならば、五人のリストフォンには、同じように、こう表示されていたのである。




 真実が真実であると思うのは傲慢か。

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