第07話 ワンフォーオール! -アサキの日記-
「転校二日目。
つまりは魔法使い(マギマイスター)としての生活も二日目だ。
といってもただ魔道着へ変身して戦ったというだけで、魔法なんか使ってはいないけれど。
時系列で書こう。
ちょっと長い日記になっちゃうけど、私もしっかり話をまとめておきたいから。
昨日、ヴァイスタという謎の存在と戦ったことを、昨日の日記に書いた。
今日はそのことについて学校で、治奈ちゃんたちから話を聞いた。
ヴァイスタ。
真っ白でぬるりテカテカした、ゼリーを固めたみたいな、人間みたいに二本足で立つ悪霊だ。
どこからくるのかは不明。
でも、どこを目指すのかは分かっている。
霊的な「中心」。
具体的な場所で言うと東京の、平将門の首塚の近くにある神社ということらしい。
もしもヴァイスタがそこへ辿り着いたら、この世界が終わってしまうというのだ。
どう終わるのかは、まだよく分かっていない。
どこの誰が何を根拠にそうなると言っているのかは分からないけれど、とにかく間違ってもそんな事態にはならないように、ヴァイスタを寄せ付けない結界が全国のいたるところ何重にも張られている。
メンシュヴェルト、というヴァイスタと戦う組織があって、人知れず色々と動いているらしい。
その、メンシュヴェルトという組織に所属して、実際にヴァイスタと戦うのが「
クラフトというリストフォン型のアイテムで、魔道着姿へと変身して戦うんだ。
昨日、治奈ちゃんが一人で何体も相手にして苦戦していた。
残った最後のヴァイスタが、私を襲って、私を庇うために治奈ちゃんが怪我をして、それで、私が治奈ちゃんのクラフトで変身することになった。
でも本来は、私を仲間に誘って、私のためのクラフトを渡すつもりだったのだそうだ。
私が捨て猫を見つけて、可愛そうとかなんとか泣いていたものだから、戦いに向かないんじゃないか、善良そうなのに辛い思いさせるのも可愛そうだ、と躊躇していたらしい。
私のことを気遣ってくれるのは嬉しいけど、そうした話を聞いたからこそ、私は彼女らの仲間になることに躊躇いはなかった。
私だって友達のためになることをしたいし、
それに、誰かがヴァイスタと戦っていかなければ、この世界が滅んでしまうというのだから。
ならば、そういう能力のある者が、やるしかない。
能力も何も私なんかまだまだだけど、スカウトを受けたという自分の潜在能力を信じて頑張るしかない。
放課後、校長室へ行って、校長と話をした。
驚いたけど、なんでも校長もメンシュヴェルトのメンバーなのだそうだ。
結界はどこにでもあるわけではないが、結界のあるところの中学校や高校には、まず魔法使いがいるとのこと。
十代の女性が、一番魔力が高いからなのだそうだ。
なのでメンシュヴェルトは、そういう学校と裏で手を組んでいる。
戦力のバランスを整えるために、保護者の職場に裏で手を回して転勤つまり生徒の転校を促したりもしているらしい。
やりすぎな気もするけれど、世界の存亡が、とか言われると私程度の身では何も言えない。
魔法使いの装備は、杖とかそういうイメージから大きく離れていて、刀とかナイフとか棍棒とか。
クラフトはリストフォン機能を持っているのだけど、そこから入れるネットのサイトがあって、好きな武器や細かな装飾品を選ぶのだ。
そんなのでその武器が変身時に出てくるのかなあ、と心配していたのだが、驚いたことにちゃんと出てきた。
つまりは、今日もまたヴァイスタが現れて、戦ったのだ。
昨日は治奈ちゃんのクラフトを使ったが、今日は私のためのクラフトを使い、私専用の赤い魔道着で。
変身したら、しっかり剣を右手に持っていた。
今でも不思議だ。
その戦いだけど、二手に分かれて、治奈ちゃんと正香ちゃんがまず一手。
私は、和美ちゃんと成葉ちゃんと一緒に。
でも結局、私は全然戦えなかった。
二人の足を引っ張るだけだった。
誘い出すだけ、という最低限の役割すらこなせなかった。
ただそこにいるだけの方が、よほどマシだったのではないか。
まだ二回目の戦いだから仕方ない、と成葉ちゃんは慰めてくれたけど。
頑張らなきゃな、と思う気持ちと、家族に秘密にしていることの罪悪感。
帰宅後、そんなことを考えてぽーっとしているところ、直美さんに「隠し事してない?」と聞かれて飛び上がるくらいびっくりした。
でも、罪悪感ばかりではない。
少しずつ、楽しくもなってきている。
みんなでこの世界を守っているんだ、その一員なんだ、ということを誇らしく感じる自分もいる。
何故なんだろうな。
どの学校でも暗くてなかなか友達の出来なかった自分が、(きっかけはメンシュヴェルトに誘うという目的であったにせよ)すぐに数人の友達が出来たこと。
それも、私自身の前向きな気持ちに繋がっているのかも知れないな。
いいよな、仲間って。
同じ誘われて魔法使いになるのなら、この天王台第三中学に呼ばれて本当に良かった。
私も早く魔法を使うことや魔道着で戦闘することに慣れて、みんなを助けられるようになるぞ。
ワンフォーオール!
オールフォアワン!
って、テンション高くなって恥ずかしいことを書いてしまった。
もう寝よう。
おやすみなさい。
明日もみんなが笑顔でありますように。」
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