第6話 密室の検証

 井筒警部は薬師寺暢彦の部屋の前に立ちはだかるように立つ。そして残った人物達に話を訊くように手帖を取り出した。そんな中、九龍頭は再び薬師寺暢彦の私室に入る。

 部屋は綺麗に片付けられている。必要最低限のもの以外は何も見当たらない。部屋に入り、まず真正面には腰高の窓がある。出窓のようになってはいるが内側には何も置かれていない。入って左側には九龍頭の頭くらいの高さの洋服箪笥がある。洋服箪笥の上には薬瓶のような小瓶と、水の入ったグラスが置かれている。話によれば、薬師寺は持病があり、薬を毎日服用していたという。小瓶の中にはその薬が入っているようだ。数粒の錠剤が見える。

 扉を閉めると、九龍頭はその扉の状態を注意深く見た。丸型のドアノブには小さな傷ひとつない。ドアノブの下にはロックする為の摘まみがある。そこにも何も見当たらない。


――という事は、犯人は薬師寺さんを殺害した後に部屋から出て、密室を作った可能性はほぼなさそうだな。

 

 薬師寺は恐らく部屋に入ると、自分で施錠をしたようだ。九龍頭は部屋の右手にある本棚を見た。

 作家である事が頷ける。古い文献や写真集……特に目立つようなものはなさそうだ。文机の上には薬師寺が愛用する万年筆があり、インク壺に突き刺さるように置いてある。

 九龍頭は窓に目を向ける。窓は何の変哲もないクレセント錠のかかった窓だ。ここからの出入りも勿論ない。

 念のため、九龍頭は窓を開け、外に目を向けた。そこは広々とした池がある。ここから外に出ようとすれば、この池に落ちてしまうだろう。しかし……


――窓からも出入りがなかった。だとすれば、薬師寺さんしかこの部屋に出入りをしていない。それなのに、彼は殺害された。しかも、焼死。何か仕掛があるはず……何か……

 

「九龍頭さん、よろしいですかな?」


 九龍頭を呼びに、扉を開いて井筒警部が入ってきた。九龍頭は肩を竦めて首を傾げる。

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