天国にて

安藤州

読み切り

 また新しい仕事が来た。書類の内容にざっと目を通し、時計に焦点を合わせる。まだもう少し余裕があるのでしっかり目を通してから出発しよう。

 没年齢とか出身地は覚える必要がないからいいとして、問題は略歴。若いうちに一回目の死を経験して、神様の計らいで別の世界に転生して、神様からもらった魔法で不自由ない生活を送る。最近増えているパターンだ。自分に割り振られるのは初めてだが、上司の経験談という名の愚痴の聞き手になったことはある。それによると、連れ出すのが難しい人が多いそうだ。なんでも、「また転生させてほしい」とか「次はもっと大暴れできるところがいい」だとか、死んだら転生できることが彼らの中で常識になっていて、その経験から駄々をこねて天国に行くことを拒否するらしい。

 実際記憶を維持したままかどうかにかかわらず転生自体は意外と昔からある。ただ、基本的には生前に良い行いをした人とか、悪い奴に立ち向かった、いわゆる模範的な人間へのご褒美のようなものだったし、それ故に「もう悔いはない」とか言って辞退する人も多かったらしい。

 しかし、最近になって神様が積極的に転生を持ち掛けるようになった。何でも「自分たちのことを意識する人が減ってきた」んだとか。神様とか天国があると信じてくれないとうかつに現世に手を出せないのか。あるいは神様どうしでシェアの奪い合いをしているのか。正直言って上司の上司のことだからあまり良く分からない。自分にわかることと言えば神様は人間から高評価をもらいたいということと、そのためなら慈悲を積極的に振りまくということだ。その結果として後始末が大変な地縛霊もどきが増えたのだが。

 再び時計に焦点を合わせる。ちょっと早いがもう出発するとしよう。


 それにしても、転生する人たちの多くが死ぬことに関しては特段気にしないのはなぜなのだろうか。一度経験しているというのに。

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天国にて 安藤州 @bo-kansya

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