第4話 人族

風渡りは男たちを連れて、獣人がこちらの話が聞こえないように配慮した場所で口を開く。


「あなた達の話を聞かせてください」


小柄な男がリーダー格の男の機嫌を伺うように視線を向けると、その男は話してみろというふうに顎でしゃくって見せた。


「ここ最近の話じゃねぇ。子供が次々に行方不明になってる。獣人の仕業にちげぇねぇんだ!!」

「あなた方は直接見たわけではないんですね」

「それはそうだが!他に考えようがねぇ!!」


子供が突然居なくなって焦るのは当然だ。しかし妖ではなく獣人のせいだと疑っていないのは不思議に思える。彼らが人を浚う理由がわからない。


「何故、獣人たちの仕業だと?妖の可能性とは考えなかったのですか?」

「10年前くらい前にも子供が消えたことがあった。あの時も子供が消えてここへ抗議しに来たら風渡りが居た、そいつは自分が解決してみせるから心配しなくていいと言ったが、子供は帰っちゃ来ない!その当時子供が消えることは無くなったがまた消え始めた!同じだ!全く!!」


その年数を聞いて風渡りはどきりとした、自分の父親がいなくなった時期と合致する。あの封印の陣は父親のもの?考えてみても分からない。風渡りになるものは皆同じ術を使用するため 誰がその陣を引いたのかを読み取ることは不可能。

けれどもしかしたら、という可能性が心の中でざわつく。


「あなた方の言い分は分かりました。調べてみますのでここはお引取り下さい」

「黙って引き下がれって言うのか!あんたはっ!!」


男たちの目が敵を見る目に変わる。


「ここで争ってもなにも変わらないと言っています、大丈夫。私は風渡りです。必ず解決してみせます」


この獣の里には何かある。あの建物をきちんと調べれば何かが出てくるはずだ。


「どうだか、お前さんもまた消えちまうんじゃないか?」


はっと鼻で笑われる。


「なんとかしてみせます」


風渡りはそう言ったが、一度信じた風渡りに裏切られたことのある彼らの信頼感は皆無だった。


男たちは風渡りに任せることを納得したわけではなかったが、三日と成果を出せなければ乗り込んで調べていいと伝えると彼らは渋々と獣の里を後にした。風渡りとてそんなに時間をかけるつもりはない、子供の命に関わる危険がある。


先ほどの場所へと戻ると、そこにはもう若君の姿も他の住民の姿もなかった。代わりにどこからやってきたのか、梅の傍からいつも離れなかった柚子がひとりぽつんと立っていた、めずらしいこともあるものだ。


「かぜ、わたりさま」


ぽつぽつと小さな声で梅が話しかけてきた。人見知りの彼女が1人で話しかけるのには勇気がいったことだろう、その気持ちを汲むためにも風渡りは彼女に近づき、視線を合わせるために膝を折った。


「なんでしょう」

「ここにいないほうがいいとおもうの」

「どういうことでしょう?」


言っている意味が分からずに聞くと柚子は眉を下げた。


「おきゃくさんが来ても、おわかれするまえに、みんな。いなくなっちゃうから…」

「教えてくれてありがとうございます、でもこのことを言ったということはあまり他の人には言わないほうがいいですよ」


風渡りが言うと柚子は素直に頷いた。柚子とてここで育ったとはいえ種族が違う、それにましてや妖と人の子。理由をつけてこの子供をどうこうしようとするのはこの里の者にとっては安易なことだろう。

真実を知るにはあの建物を調べてみるしかない。

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