第24話 嗚呼、素晴らしき男の身体


結局、あの後は自室で爆睡。

まぁ、体が勝手にベッドに入って目を閉じちゃうんだもん。

寝るしかないじゃない?


レイニーさんもかなり疲れた感じだったし…




そして、翌日…目を覚まして気づく。


「ん~…おはよーございます。…あれ?」


普通に喋れるし、動ける?


「おはようございマス…

あ!ナガノ君、どうしたんデスか!?

【ハーレム】から【一般市民】に変わってマスよ!?」


「レイニーさん!おはようございます!

そうなんです、今朝は何か普通に喋ったり動いたり出来て…どういう事なんでしょう?」


レイニーさんが小鳥の瞳でじーっと僕を見つめるながら首をかしげる。

…小鳥がうきゅ?って感じで首を傾げるその仕草がめちゃめちゃ可愛いんですけど…!

しばらく考えると、結論が出たらしい。


「!そうデスよ!!ナガノ君は『マリクル族』デスから、昼間は男性なんデス!

体が男性になったから女性限定の状態異常【ハーレム】が自動的に剥がれたんデスよ!!」


「おお!!」


なんと!!

確かに、今の僕の股間にはご立派様が鎮座している!

そのおかげか!!

ご立派様さまだ!助かるなぁ!


あの操られた状態だと、自分自身に状態異常回復を使って一言か二言喋ったり、密着された瞬間にわずかな反撃をしたりするのが限界だったんだよね。


【一般市民】なら、あの野郎に対して攻撃こそできないものの、行動や言動の自由…と言う意味では「操作」されずに済む!


「…なるほど…性別が変わるとあの男の祝福ギフトは無効になるんデスね。」


ふむふむ、とレイニーさんが頷く。


「だけど、コリカンのヤツ…僕が『マリクル族』って事を知らないんですかね?」


知っていたら、何かしら対処して来そうなものだが?


「多分、知らないのではないデスか?

ダリスのような遺跡都市の探索系冒険者や東方出身の方はともかく…

マリクル族は西側諸国と交流のある部族では無いデスし…」


むしろ、亜人のあまり寄り付かない地域を拠点として生活していた場合。

下手したら「変幻種」と言う存在自体を知らない可能性まであるらしい。


僕はこの世界で初めてコミュニケーションを取ったのが偶然モフキウイ族のオズヌさんだし、

レイニーさんもエルも【変身】するし…

「変幻種」って亜人の中でもメジャーだと思っていたんだけど、人口比率で言うと、むしろ少数派であるらしい。


…確かに…そう言われると、このステイタス異常って人型限定だもんな。


「変幻種の方って【変身】できる事をあまり公に言わない人も多いんデスよ。

鑑定士も特定の依頼が無い場合は人の能力を他人に言わない事が常識デスし。」


なお、レイニーさんも基本的には【変身】できる事を公表していないタイプだそうだ。

…変な他人に色々自分の情報を知られたら身の危険を感じる、との事。


うん…それは、僕でも薄々分かるようになってきている。


レイニーさんって本当の小鳥サイズに変身できる事、そして【鑑定】と言う祝福ギフト内容をふまえると…

情報収集系の能力はちょっとヤバイくらいハイスペックなのに対し、自己防衛する為の戦闘系能力は乏しいからね。

自分の能力を公表するのがマズイのだろう。


僕自身、割と平和な情報化社会である日本出身だから「情報」と言うモノの強さも怖さも知っているつもりだ。

さらに…こちらの世界が自衛能力の無い人に対してどれだけ厳しいか、徐々に感じつつある。

そう考えると、自衛の為の情報遮断は理にかなっていると思う。


まぁ…僕もレイニーさんの事を言えない偏り方してますけどね。


…むしろ、『鑑定偽装』まで施してもらっちゃってるし…。

この依頼終わったら…もう少し…

せめて、自己防衛できる程度には何か戦闘系技能を身につけたいなぁ。


「…でも、あの男が知らなくても【俺の嫁】か【ハーレム】の女の子が知っていれば、あの野郎に情報が行くんじゃ……ん?

いや…行かないか?

…うん、行かないなぁ。」


「え…?どういう事デスか?」


一人で言って、勝手に納得してしまった僕の言葉にレイニーさんが疑問を差し挟む。


「いや、アイツ、他人から『情報』を聞こうとしていないんですよ。」


「…?」


「単に『見た目によるイメージ』でヤツにとって『都合良くて、それっぽいストーリー』を

気に入った女の子の口から喋らせてる、だけだと思うんですよね~。」


「どうしてそう思ったんデスか?」


僕はレイニーさんに持論を展開する。

実はその理由はいくつかあるんだけど、まずはコレ…


「第一に、『相手の能力を知ったうえで操る』なら、僕は『獣使い』じゃなくて、絶対『回復術師』だと思うんですよ…。」


僕が女神のお姉さんから選んだ祝福ギフトの【回復魔法】は、チート級!


それなのに【獣使い】なんて特殊能力を与えて来たのは、昨日は肩に小鳥レイニーさんを乗せた状態で、アイツに謁見したから…じゃないかなぁ?


回復系は既に一人居るみたいだから、アイツのハーレム内でキャラも被るし。


本当に操られて記憶にある事を喋っちゃうなら

『僕は、日本から来た転生者です。

そして、地下牢に捕らえられている隊長さんの依頼であなたを倒そうとしています。

ほかにも仲間が潜伏しています。』って話をしてしまうはずだ。


他にも、リリィレナさんと僕が初めてここで目覚めた時に会話した内容…

その時、僕は咄嗟にレイニーさんの事をきちんと名前で呼んじゃってたんだよね。


なのに、あの野郎の前で「ピヨちゃん」なーんて呼んでいる事をリリィレナさんから疑問視されなかった。

これこそ正に、情報伝達に不具合が発生している…

つまり、ヤツが情報を『聞こうとしていない』証拠だと思うんだよね。


さらに、操られてたからこそ言い切れる訳だけど、僕、別に村なんて焼かれていないし、奴隷だった記憶も無い。


あんなの単に、僕をここに置いておく口実と、背中の怪我から連想したヤツの妄想、複数いるハーレム少女達の中で、僕に対するキャラ付けだと思うんだよね。


「えっ!?あの、昨日の奴隷の話って…ホントの事じゃないんデスか!?

…スイマセン…ワタシも…てっきり、ヤツに過去の傷をえぐられたのかと…」


「ちょ!?そんな訳ないじゃないですか!?

僕、そんなつらい過去があったよーな性格だと思います!?」


「あ、そこは全く思えないデス。」


即決で言い切るレイニーさん。


「……いや、デモ…え?…ウチに来た時に奴隷の首輪してマシたし…

背中の傷は明らかに大量の鞭の痕っぽいデスし…」


「えっ!?背中の傷ってぶつけた痕じゃないんですか!?」


「いえ?どう見ても鞭の傷デスよ?

…なので、詳しい話を聞くのは止めておいた方が良いかとエリシエリ様とも話していたんデスけど…」


「マジですか!?」


いや待って!?

そっちの方が驚きなんですけど!?


てっきり、起きた時の爆風で背中ぶつけたアザだと思ってましたが、この背中…そんな風になってるの?


いや、背中なんて普通見えないから、気づかなかったよ!

別に痛くも痒くもないし。


どおりで、着替えの時にエリシエリさんが最初、微妙そうな顔をしてた訳だ…!!

そうか…もしかすると、本当に性奴隷的な酷い扱われ方をされていた身体って事はあり得る話なのか…?


一緒に保管された宝箱のアイテムもアレだったしなぁ…。

オズヌさんと出会う前…このボディが、どういう経路をたどってあの洞窟みたいな部屋で長期保管されるに至ったのか…全ッ然知らないし。


でも、まぁ…この身体、別に不具合…

どこか痛むとか、体が動かしづらいとか、そう言うものは全く無いから別に構わないけどね?


むしろ逆に、こんな顔面偏差値高い体に入っちゃってるのが僕の魂だから、身体に申し訳ないくらいだし。


「エル君と同郷だとは感じマシたけど、てっきり…オズヌさんが奴隷から助け出して来た子なのかと思ってマシた…。」


だがこれだけの傷を背負った元奴隷の子供にしては、警戒心は欠落してるわ、大人に対する恐怖心は無いわ、好奇心は強いわ…

まるで、平和ボケした所から来た世間知らずでマナーの良い観光客っぽい、ちぐはぐな印象だったらしい。


う、うん…人間観察が微妙に適切だな、レイニーさん…!

あたらずと言えども遠からずだ…!


「あ、あと、アイツが他人の情報を重要視しないって感じたもう一個の理由なんですけど、アイツの能力って…外からの情報がほぼ必要ないじゃないですか?」


「…それは、確かに!」


だって、アイツに近づく男はどんなに強力な力を持つ戦士であろうがオートで「無能」に格下げできるし、目にした女は全員自分の思い通りだし。


僕と同じ世界から来たなら、世界は男と女で出来ている、と思っている事だろう。


ま、神様から貰う祝福ギフトで【ハーレムの王】なんて代物をリクエストするような奴の頭の中に

「性的少数者」なんてものは存在しないだろうし。


下手したら「これで死角は無い、俺強エェェェ!」とでも思ってるんじゃないかなー?


まぁ、こっちの世界もほぼ男と女で構成されてるっぽいけどさ。

でも、僕みたいな「昼夜性別逆転種族」が存在する、とかオズヌさん達みたいな「変身すると獣になる種族」が居る、とか、完全に想定外なんじゃないかなー?


「…なるほど…ナガノ君、とりあえずワタシは相手の情報をオズヌさん達に伝えに行きマス。」


「分かりました。あと、あの、リリィレナさんの…」


「えーと、ルークスさんデスよね?」


僕は、酒場で飲んだくれていた青年の特徴をレイニーさんに伝える。



「ではまた、夕方までには戻る予定デスけど…昼間は『操られている設定』を忘れないでくだサイね?」


「そうですね…。」


うわ~、アイツをお兄ちゃん呼びで慕うのか~…難易度高いなぁ…


「あと…無理はしないで欲しいんデスけど…いくつかお願いがありマス。」


レイニーさん曰く、一つは、リーリスさんと隊長さんが捕らえられ居る地下牢の位置を把握する事。

ただし、確認のみで実際に助け出そう!とは考えないように、との事だ。


もう一つは、一般のメイドさん【上級市民】にも状態異常回復をかけてみる事。

そして最後の一つは、あの男が居ない隙を見て【俺の嫁】の異常が発生している5人の内、誰かに状態異常回復をかけてみる事。


ちなみに、おススメされたのは属性特盛妖狐ちゃんでした。


いや、何でかと言うと、清楚セーラーさんとR指定お姉さまは【狂気】、

ハイレグエルフさんと無表情ラバースーツさんは【憤怒】、

属性特盛妖狐ちゃんが【絶望】と言うステイタス異常が隠れているらしいんだけど…


万が一、【俺の嫁】を引っぺがした時に【狂気】や【憤怒】が発動されたら怖い…と言う事らしい。


【絶望】なら、まだ…その、僕に被害が少ないだろう、との事。

…しかし、あの一番明るくてアホっぽいムードメーカーな感じの言動の妖狐ちゃんが【絶望】…か…

なんつーか……同じ異世界人として恥ずかしいよ…。


最初の指令は僕の立場上、難しいかもしれないが、残り二つは逆に僕にしかできない。


「わかりました、試してみます。レイニーさんもお気をつけて!」


僕は、部屋の窓、

明るい所で見ると、ガラスと言うよりまるで透明な何かのウロコみたいだな…を小さく開いて、手のひらサイズの小さな黒い小鳥を空へと放つ。

チチッ、と小さく鳴いた小鳥は風を切って町、外区へと飛び去って行く。


さて、こちらの世界…僕達一般市民は大概、日の出と共に起きだして、日の入りと共に寝てしまう…と言う現代日本人にはびっくりの生活が基本なのだが、この屋敷…色んな意味で夜が長い分、朝のスタートは遅いみたいだ。


レイニーさんを送り出して暫くしてから、ようやくメイドさんが声をかけに来た。


「『おはようございます、お嬢様。もうお目覚めですか?』」


「あ、おはようございます。」


「『朝食の準備が整っております、こちらの服をお召しになって食堂へ参りましょう。』」


「は、はぁ…これを…?」


メイドさんが持ってきたのは、少女用の服…

だけどこれも凄まじい衣装だよなぁ…


まぁ、一番簡単に言うと白いレース製で所々に透明ピーズの付いたハイネック萌え袖ロングドレスって所かな。


レース製なので、当然、体のほぼすべての部位が透けて見える変態仕様で、一応、胸と股間部分だけは白い絹?ちょっと光沢のある感じの下張り状のスカートが有るけど、肩とかお腹とか、その辺りは全くカバーが無い。


レースと言っても、柄が細かい訳じゃないんだよ。


何この肌色要素の多いレース…

…子供に着せる服では無いと思うんだけど…


この雰囲気…もっと大人な…エリシエリさんとかに着せたら、めっちゃ似合いそうな感じの、上品且つ色っぽく神秘的な衣装なのだ。


つーか、こんなの、どうやって着るんだよ…?

と、思っていたら、メイドさんが手伝ってくれました。


一応、パンツの方の下着はそのままで大丈夫だし、スカート状になっている布もあるので、まぁ、男だとは気づかれないかな?


この身体、傍から見るとどっちの性別の時も基本中性的だし。


出来あがった格好を鏡で見ると…まるで妖精の姫君?!と見間違うような神秘的なまでに可愛らしい美少女が完成してました。


実際、今は美少年なんだけどな。


そこに、子供特有のしなやかで危なっかしいほど華奢な感じの体つき、オパールの様な瞳と髪…と。


確かに!

この手の神秘系衣装…無駄に似合う…!

さらに、メイドさん達がアクセサリーの代わりに、その神秘的な感じの対極にあたる武骨な首輪と手錠、足枷のようなものを両手両足に装着する。


ただし、内側には柔らかい布がセットされており、手首足首を傷つけないような配慮がなされており、さらには、途中で切れた感じに演出された鎖まで付いてますよ。


腕の方は萌え袖の中にセットして、袖がきちんと広がるように心配りまで為されている。


あーッ!

煮凝ってる、煮凝ってるよ!

ヤツの性癖がッ!!


…でも、ぶっちゃけ、萌え袖って指が外に出ないから不便だよね。

…この袖…切り落とせないかなぁ…

靴もレースで編まれたような繊細な…衣装とお揃いの物を渡されるので、それに足を入れる。


「あ。僕の元の服や靴、捨てないで下さいね?」


「『かしこまりました。…一度、洗濯を行い、こちらの部屋に戻させていただきます。』」


こちらの衣装…めっちゃ見た目は良いけど、色々動きづらいんだよね。

元の服の方が着心地、動きやすさ、防寒性ではダントツ上である。


「『…では、お嬢様、食堂へ参りましょう。』」


「食堂って昨日食事した部屋ですよね?」


「『左様でございます。』」


メイドさんが深く頭を下げた隙に、彼女にも状態異常回復をかけてみる。

レイニーさんの話だと、彼女は【上級市民】に当たるはずだが…

昨日は色々あって、一般のメイドさんにまで手が回らなかったのだ。


えい!状態異常回復っ!!


よし、ちゃんと今回は指先から出たぞ!

ばきゅ~ん、って感じだな。


…このやり方なら、ちょっと離れた位置にいる人にも回復魔法を当てられるかも…

光が直撃すると、彼女はビクリ、と体を震わせ、驚いたように自らの手を見る。


「…え?…な、何で…?」


「あ、あの大丈夫ですか?」


「…ッ!!は、はい…その、何でもありません!」


不自然なくらい挙動不審にわたわたするメイドさん。

自分に状態異常回復が発動した事を認識でなかったらしく、急に自由になった体に戸惑っているっぽい。


「…あ、あの、食堂へご案内させていただいたら、私…ちょっと…その…

…実家へ戻っても構わないでしょうか?」


焦った様子でそう口走るメイドさん。


…自宅に戻っていないのかよ…

どんなブラックな職場だよ。


「もちろんです。

あの、昨日の食堂なら、僕、わかりますから、もう帰宅されても大丈夫ですよ?

きちんとお休み、取ってくださいね。」


「!あ、ありがとうございます!!」


メイドさんは僕の言葉を聞くと、パタパタとどこかへ去ってゆく。


暫く見送っていたが、彼女がまた戻ってくることは無かった。


…うん。

一般のメイドさんは、一回、状態異常回復してあげれば異常は消えるっぽいな。


…まぁ、ヤツの近くに行ってしまうとまた発動するかもしれないけど…。


でも、僕も、昨日の夜はあの男に会って【ハーレム】の状態異常を喰らうまでは普通に行動出来たもんな。

…よしよし。

ちょこちょこと回復してメイド軍団の数を減らして行きましょうか。


何か、アイツに操られたおかげでわざわざ口頭で「状態異常を回復したい!」と宣言しなくても、魔法が上手く発動するようになってきましたよ。


色んな所から魔法を出せるようになってきてるし…

なんか、妙な修行をしてる気分。


そんな訳で僕は、食堂に行く道すがら一般のメイドさん達を辻回復の餌食に…

と、思っていたんだけどこういう時に限って案外メイドさん達に出会えませんでした。


残念。


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