飼い犬の臨終

死の床にあり横たわる

か弱い腹のさざ波と

歯と舌だけの空気の螺旋

いずこに向かうわけもなく

何も映さぬ至黒しこくの眼

かつてはくわえた白い骨

かつては巻かれた首輪さえ

取り囲む人の両手で抱え

誰も何かも言うこともなく

今は何か今は何者か

誰が主か誰か名前を呼ぶのか

静かに見守る息絶えていく

誰も何かも言うこともなく

静かに水面みなもが整っていく

何が起きたのか

息が止まったのが分かるのは

犬の死んだずっと後からなのだ

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