無口な幼馴染に大嫌いって言ってしまった
柊月
第1話
別サイトに投稿しているものをこちらにも!
既に別サイトでは完結済みの作品です。
*****
「は……?今なんて仰いましたの……?」
「? だから、ティリアーナとジークはお似合いだよなって話だ」
何がおかしいか全く分からないと、さも当たり前の事を言う様に言った目の前の男に、ティリアーナは叫びそうになった。ティリアーナの友人も、その男の鈍感さに頭を抱えて思わず溜息を零す。
「……ニコラス、どういう意味かしら……?」
「ティリアーナとジークが結婚すれば万事解決だろう?2人は付き合っているんだから何も問題ない筈だ」
「ごほっごほっ……ニカ、一旦黙ろうか?」
首を傾げて疑問符を浮かべるニコラス。今度こそティリアーナは目の前の鈍感男にキレそうだった。和やかに進んできた私的な茶会は一気にぶち壊され、辺り一帯は春には似つかわしい吹雪が吹いている。
「……ティリ、気持ちはよく分かるけど一旦飲んで落ち着こう」
「……えぇ、そうするわ」
巻き込まれたティリアーナの友人―――ジークフリードは苦笑を浮かべながらティリアーナを窘める。
まぁ何故こんな話になったかと言えば、最近ジークフリードの周りを彷徨く男爵令嬢の話になり、解決策として、ジークが婚約者を作れば収まるのでは、となった所で冒頭のニコラスのアレだ。
王太子のジークフリードの側近であるニコラスの発言も、主とティリアーナを思っての事で善意でしか無いのだが、それがティリアーナの地雷だとは気がついていない。
―――今までの私のアプローチは何だったって言うのよ……!
ティリアーナは内心憤慨していた。
どうすればニコラスを自身に振り向かせられるかと、幼馴染のジークフリードからアドバイスを貰いながら必死に口説いてきた。なのに、この有様だ。
と言っても、ティリアーナの口説き方にも問題がある。
彼女は、世間一般的に言えば典型的ツンデレ成分保持者。しかもかなりツンが過多のツンデレだ。意中の相手の前では尚更。
ジークにニコラスの手を握ってみたらどうだと言われれば、
『さ、寒いから、温めているだけですのよ!』
と言い、
デートに誘えばどうかと提案されれば、
『か、買い物を手伝って頂戴!』
と言い。
素直に言えず、毎回ジークの前で落ち込むティリアーナだが、これでもかなり分かりやすい方だ。寧ろ彼女の想いを分からない男の方が少ないとジークフリードは思う。
それなのに、何故だ。何故自分の側近且つ友人はここまで鈍いのか。
心の機微には聡いくせして、恋愛は全く分からないと言うのはどんな原理だと1人ごちて、ティリアーナに同情した。
「……ニカ、僕達は全く恋人でも何でもない。普通に良き友人同士だ。何処の情報だか分からないが、それはデマだよ。取り敢えず君は発言を取り消した方がいい」
「そうか……それは悪かった。……ティリアーナとジークが治める国は良いだろうと思っているのは事実だけどな」
ティリアーナは限界だった。ジークフリードもそんな彼女を横目で見て、ティーカップを持ったまま石化した。微笑みを浮かべながら固まる王太子は、つつけば風で飛んでいきそうだ。
熱くなる目頭をぐっと堪えて、ティリアーナは静かに立った。普段は公爵令嬢として抑えている感情。しかし今この場では、様々な怒りや悲しみを全て吐き出してしまった。
「ニコラスなんて大嫌いよっ!!!!この朴念仁なんて知りませんわ!!!」
瞠目するニコラスを傍目に、ティリアーナは背を向け、逃げるように邸宅に戻って行った。
**
取り残されたニコラスは、目を見開いたまま微動だにせず、ただティリアーナの去った方をじっと見つめていた。ニコラスの頭には、涙目で飴色の目を吊り上げて、ドレスの裾を翻した彼女の表情が焼き付いて離れなかった。そして、あの捨て台詞も耳にちゃんと残っている。
ほら見ろ、とジークフリードはニコラスを見て肩を竦める。全く困った友人達だとも。
ニコラスは名前の分からない焦燥に駆られていた。普段知っている、あの笑った顔も、拗ねている顔も、得意げな顔も、少し不安げな顔も、どれにも当てはまらない表情。どうして彼女が怒ってしまったのか分からない。
「ティリアーナ……」
ぽろりと息を吐くように零した彼女の名前を拾ったジークフリードは、ニコラスの肩を慰めるように叩いた。
「………ニカはよく考えた方がいい。ティリの事も、その胸の内の名も理解するまで」
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