ゲーム少年

椛屋

侵略者

 その当時はコンビニエンスストアなんてものはまだ極々僅かな存在でそれを知る者も少なく、21時にはあらかたの店がシャッターを下ろすのが当たり前だった時代。


 週末の夕方ともなれば買い物をする主婦や子供連れでごった返し、自転車チャリなんかで通ろうものならとてもじゃないが通ることすらままならずに立ち往生してしまうほど混雑する商店街は東京では珍しくはなかった。


 商店街で繁盛していない店など皆無な程の好景気の中、店の主人の趣味なのかそれとも「遊んでいるスペースを有効活用してみませんか?」とリースアップ品を安く買い叩いては設置先を探す業者にそそのかされたのか、それらは人の集まる場所となれば必ずと言っていい程置いてあった。


 住宅街、商業地区、工業地帯。下町だろうが山の手だろうが問わず人のいるところであれば当然何らかの店はあり、そこには決して低くない頻度でそれが置いてあった。


 通常の露天式の釣り堀だけではなく、この頃はまだよく見かけた雨天でも楽しめる屋内式の釣り堀、パン屋や金物屋の軒先、喫茶店。ちょっとしたテーマパークだったデパートの最上階にも。街の中にそれだけあれば当然それの専門の店だってある。


 小学校や中学校の近くに必ずあった、駄菓子屋兼学校指定のなにがしかの物品が取り扱われていたあの手の商店は絶好のスポットだった。



俺はその時代の、更に数年遡った話からしなくてはならない。



────



 「おい、やってみろよ」

 昨日の報道番組でそれの社会現象レベルの熱気を取りあげていたのを観た親父がデパートの最上階に俺を連れて行き、小学生未満の子供の普段の小遣いからしたら狂喜乱舞する数の百円玉を俺に握らせて席に座らせた。


 握った百円玉の塊から一枚を、親父と喋っていた店員に促される形でテーブルの右側にある投入口におっかなびっくり投入する。次に、ここを押すと始まるよと”始まるボタン”の場所を指で教えられる。それが初めて教わる、このテーブル状の物体に関する作法だった。


 画面ではすぐに白いイカともタコともつかない、目のついた細かい絵の群れが波打ちながら隊列を組んで横に移動し始める。画面端まで行くと一段下に降りる。店員に画面を指さされ、「下のをレバーで左右に動かしてボタンで弾が出るからそれで敵を撃ち落としてね」と言われるままに操作する。キーンと音がして発射した弾丸が画面上部に消える。イカともタコともつかない奴が時折フンのように左右にうねったものを落としてくる。それにが当たりザーッと音がしてが砕け散る。フンは避けなければいけないと直感する。


 何度目かでフンを避けつつ、よくわからないが波打って一歩一歩一段ずつ下に降りてくるこのイカともタコともつかない奴を全部撃ち落とさなければいけないことは理解できた。射線上に4つある、何度も射撃して穴を開けなければその先に弾がとおらない物体が邪魔でもどかしかった。躍起になって邪魔なそれを壊そうと撃ち込んでいるとあのイカともタコともつかない奴らがどんどん距離を詰めてくる。横では親父が店員と談笑している。二人が何を話しているかなんて全く耳に入ってこない。


 ブッブッブッブッと不気味な足音と、キーンという射撃音、ポニャというイカともタコともつかない奴の破裂音。時折最上部でけたたましい音と共に存在感を撒き散らしながら通過していく円盤。あれは撃ち落とせるのか?そんなことを考えている暇もなく、数を減らし速度を増したイカタコ共は一番下まで到達してしまった。


 親父の話では店員いわく、俺は「筋は良い」らしい。

その日の俺は親父が辟易するほどにイカタコの話をし続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る