本編 あとがき
前作、短編集【masquerade】を経てついに完結編の公開となりました。
【masquerade】収録の【白昼夢 10years later】から【最終幕 人形劇】のエピローグに繋がり、時間軸は完結編に繋がります。
完結編のテーマはリアルとネット(虚像)の境界線、人と神の境界線。
登場人物達を繋げている〈自殺〉は裏テーマでもあります。
完結編は2018年設定の話です。2020年の現在はまたSNSを取り巻く環境も変わり、インスタグラムはいいね数が非表示の仕様となりました。
これも自分や他人の投稿のいいね数を気にしたくない、競ったりしたくないというユーザーの声があったからなんですよね。
世間を騒がせた『インスタ映え』も十代の間ではもう古い価値観のようです。流行りの移り変わりは速いですね~。
本作は〈人間を書くこと〉を重きにおいて執筆しました。
人間が持っている色んな狭間、境界線をテーマに。人は白黒ではなくいつだって灰色な気がして、いつもどこかの狭間で揺れている生き物なのかもしれません。
早河家と木村家、ふたつの家族を中心として描かれる物語のなかで登場人物たちも様々な何かと何かの狭間で揺れています。
最後なので過去イチで長文のあとがきです!!
いつものように好きに語り散らかしているので読みたい項目のとこだけ抜粋したり、ゆるりと斜め読みしちゃってくださいませ🌸
▼早河家の物語
主人公の早河の登場がプロローグを除けば第二章からになります。
本編シリーズの【第六幕 砂時計】から完結編まではvsカオスとの闘いが続くので早河探偵事務所の依頼人はいないのです。最終幕と完結編では早河探偵事務所に早河が滞在している場面がほとんどないので、四谷の探偵事務所の出番も少なめ。
完結編の依頼人を強いて挙げるなら警察庁のお偉いさんになった阿部警視監でしょうか。
順調にエリート出世街道まっしぐらの阿部警視監は作者のお気に入りキャラなもので完結編にまで出番があります☆
今回の早河は娘の真愛が誘拐されてからは真愛の行方を追いつつ貴嶋の情報も集め、警察内部にいる敵をあぶり出す作戦を考え、佐藤と共闘し……今回も頭脳戦で忙しいなぁ。笑
目的の遂行のためなら犯罪者とも手を組む。これは【最終幕 人形劇】からの流れです。刑事ではなくなった探偵の立場だからできることでもありますね。
本編シリーズに比べてヒロインのなぎさの登場シーンが少なめですが、本作でのなぎさは早河の仕事をサポートする助手ではなく彼の妻であり、子どもを誘拐された母親の立場にいます。
完結編で言えばヒロインの立ち位置は美月が正しいでしょう。(この美月の立ち位置については次の項目で書いてます)
しかし早河にとってのヒロインはいつまでもなぎさです。なぎさにしか見せない甘い顔をした早河を書くの好きです💕
〈早河シリーズ〉のヒロインはやっぱりなぎさですし、なぎさにしか出来ない方法で早河を支えています。
第五章は早河夫妻の見せ場!娘を救出するために懐かしの探偵と助手コンビが復活✨
早河の隣にはなぎさがいるのがしっくりくる~この安定感。なぎさが早河を「所長」と言っていた時代が懐かしい。
早河さんはエビフライはタルタルソース派だそうです🍤🍤🍤
▼キングの救済
今回はキングを辞めたい男とキングになりたい女が登場します。
最後の物語では〈犯罪組織カオスのキング〉とは何か……を考えました。
早河シリーズに馴染みのある方は普通にキング=貴嶋になりますし、彼がキングを名乗ることが自然になっていると思います。
【最終幕 人形劇】で本当のマリオネットは貴嶋自身だったことが明かされます。父親の先代キングの思い描くレールに知らず知らずに乗せられていたわけです。
タイトルの〈魔術師〉とは貴嶋のことでもありますが、本当の魔術師は貴嶋に逃れられない呪いをかけた父親の
キングとは世襲でもあり、父親からの逃れられない呪いでもあり、重荷でもある。貴嶋は生まれながらにキングになることを定められていました。
一方、男尊女卑の家庭で育った千秋はキングになりたかった女。彼女にとってのキングとは権力の象徴なんでしょうね。
生まれながらにキングの宿命を背負う貴嶋と唯一無二のキングの称号にこだわる千秋。
第四章の病院と第五章の車の中で二度描写がある〈タマゴロールと缶コーヒー〉のくだりや、隼人の付き添いで病院にいる美月の警護をしていたのは千秋なのでその辺りでダンタリオンの正体に気付く人は気付くかなー?って思っています。
第四章の病院での千秋と芳賀の会話にまさかの核心が含まれていました。
作中に明記していますが、土屋千秋は【最終幕 人形劇】に登場しています。
登場ページは第一章(1-3)と第六章(6-10)のなぎさが珈琲専門店Edenを訪れる場面です。
このページでは千秋は大学1年生で名無しの登場キャラでした。
最終幕で千秋の名前の記載をしなかったのは、あのページはなぎさの視点なのでカフェの店員の名前なんて相当親しくしていないと覚えていないよなぁと。
私は店員さんの名札はあまり見ません。担当さんが決まっている店なら別ですが、スーパーのレジの店員さんやパン屋でいつも接客してくれる店員さんも、そう言えば名前はなんだっけ……
事件として見ると、未成年者集団自殺(第一章)→子ども達の誘拐(第二章)→映画館飛び降り自殺(第三章)→隼人の殺人未遂と殺人未遂の容疑で佐藤を手配(第三章&第四章)→美月拉致(第四章)→美月とキングの殺人未遂(第六章)と、複数の人間達がそれぞれに犯罪を実行しているために事件の様相も変化していきます。
この内、貴嶋の直接的な命令があったのはなんと美月の拉致だけで他は新世代のカオスのメンバーが計画していたことでした。
本編シリーズからの読者さまほど貴嶋への先入観があると思います。どうせ今回も貴嶋が悪いことやらせているんでしょ~と早河や美月以外のキャラクター達も思っていたんですよ。
新世代カオスは皆が目的がバラバラで一致団結していないところが弱点でしたね。昔のカオスは一致団結☆してたじゃないですか。アレでも。
作者としても愛着あるのはやっぱり本編シリーズに登場する旧世代のカオスの皆様ですね。殺し屋ケルベロスも変装の名人ファントムも莉央の保護者のスコーピオンも皆さん個性が強くて好きです。
シークレットゲストとしてスパイダーさんも登場してます。
貴嶋が脱獄してまで会いたかった存在は美月であり早河であり、貴嶋には早河、美月、佐藤、
貴嶋と千秋の決定的な違いはここですね。
最終幕で莉央が命を懸けた意味もようやく身を結びます。貴嶋はキングだけれど、キングとしてじゃない、貴嶋佑聖という人間として扱ってくれる人達が周りにいました。
莉央が死んでしまっている完結編で、貴嶋の内面に近付けるのは早河と美月だけ。
【最終幕 人形劇】でもそうでしたが、早河サイドと同時進行して貴嶋サイドの物語を進める時はキーパーソンの美月がいい役割をするんですよ。
【人形劇】も【魔術師】も、貴嶋に捕らわれた美月の視点(悪側を外側から見る)がなくて完全な早河の視点(正義側)だけだと、貴嶋とカオス側が何をして、何を考えているのか描けませんからね。
美月の立ち位置がヒロインではなく“キーパーソン”に当てはまるのはそういうことです。それも主人公側ではなく主人公と敵対する側と深く関わるキーパーソン。
美月は貴嶋サイドの物語を読者側にネタバレせず描写するために欠かせないキャラクターでした。
あとは意外と早河シリーズ本編で貴嶋が銃を撃つ場面がないんですよ🤔理由は雑魚の始末は部下が殺るから貴嶋が手を下す人間は限られるっていう。
彼が銃を持つ場面があるのは、シリーズ最初の影法師と最後の人形劇、この完結編くらいですね。
キングは獲物を一発で仕留めますよ……。無駄に綺麗な顔で『そろそろ逝こうか』って相手に言いながら残酷に……頭を……(顔が最高に良い)
貴嶋の死刑が執行された時は早河も美月も泣くかもしれません。そこまでの未来は描かないけど私も泣くかも……。
貴嶋は愛されるダークヒーローだったと思います。長い間、お疲れ様でした。
▼衝撃?納得?上野さんの秘密
完結編にして初めて上野さんの内面を掘り下げました。
上野さんサイドの話をいつか書きたいと思っていて、でも本編シリーズに挟める余裕はなかったので完結編でスポットライトを当ててみました。
上野さんの美月への恋心に衝撃を受けた方もいれば、まぁそうなるかもね、納得。の方もいらっしゃるかな?
何歳になっても恋心は宿ります。私は年の差は気にならないので上野さんが少しずつ美月に惹かれていく気持ちもわからないでもない。
これが美月を性的に見ていたらアウトなんでしょうけど別にそうでもなくて、側で彼女の笑顔を見守っていけたらいいなと願う足長おじさんのような愛情に似ています。
元カノの恵子の初登場は本編【第五幕 揚羽蝶】です。揚羽蝶に登場させた時点で完結編での恵子の役割は決まっていました。
だからこの時からもう恵子の美月への見方は辛辣ですね。
竹本邦夫の秘書だった恵子の兄のことは【最終幕 人形劇】で一文だけでさらっと記述してあります。ほんとに、さらっと書きすぎて私もこの記述をどのページに書いたのかうろ覚えで最終幕を読み直して探しました💦ウォーリーを探せをやった後の気分です……。
該当ページは最終幕の第二章(2-10)です。
千秋や恵子に関連した小話が出てくる【最終幕 人形劇】は完結編への伏線の嵐ですねぇ。
作者自身もどこに伏線を仕込んでいたか忘れていたりします(>_<")
▼『運命の赤い糸はなぜ赤い色をしている?』
物語を読む前からキャッチコピーのこのフレーズが貴嶋の言葉だとわかっていた人はかなり早河シリーズに毒されていると思います。
こんなまどろっこしい台詞を言う人は貴嶋さんくらいしか早河シリーズにいません。笑
『糸が赤色の理由は赤が血の色だから』この仮説は私のオリジナルです。
赤い糸についてネットで調べましたが糸が赤色の理由はどこを閲覧しても載っていなくて。図書館にあるような文献を見れば赤い糸の理由も載っているのかもしれません。
地球上のほとんどの哺乳類の血液は赤色だと思いますし(いや、どうなんだろうな……哺乳類なら赤色かな??)、命の色が赤色だから運命の糸も赤色ってロマンチックじゃないですか?
このオリジナル仮説は気に入っています💕
美月と佐藤と隼人の白昼夢カップルの三角関係と、生存している佐藤の逮捕。
早河となぎさ、主人公カップルが相思相愛の現在、早河シリーズの恋愛パートで決着をつけなければいけない問題は白昼夢カップルなんですよ。
最後の話は最初の話【白昼夢】に戻ります。完結編は白昼夢から続いてきた美月と佐藤のラブストーリーの完結でもあります。
ロケーションにもこだわり、白昼夢が静岡の海、完結編は神奈川の海。早河シリーズの物語は夏の海で開幕して冬の海で幕を閉じます。
美月と佐藤の関係は美月が結婚していることから不倫に見えてしまうかも……。していることはね、確かにそうです。
しかしこの二人の関係は不倫なんて言葉で括れるものではなく、そこには12年続く愛があります。
【白昼夢】では子どもと大人の狭間の17歳だった美月も完結編では28歳。佐藤は45歳。
28歳女性と45歳男性の立派なアダルティなので何が起きてもおかしくない。
12年前は越えてしまった最後の一線。
過去に男と女の一線を越えた二人の理性と本能の狭間、究極のギリギリの選択。
息も乱さず格好よく銃撃戦してた45歳が17歳年下の好きな女の前では雄のフェロモン全開なところがね、佐藤さんそういうとこなんだぞ。あなたのファンはそういうとこにノックアウトされてるんだぞ!!(大声)
第七章のバスルームとベッドのラブシーンは切なく美しいけど生々しく、を目指しました。
本番行為(挿入)のない性行為をペッティングと呼びますが、挿入よりもペッティングを書く方が生々しく感じます……。
性行為は生殖行動なのでとても本能的で、していることは汚ならしい行為ですよね。
その汚ならしい行為を私は綺麗に表現したい。
温度や湿度、シーツや衣擦れの音や息遣い、質感を読者に感じさせられるような、儚さと美しさも感じられて汚くなくいやらしくない、綺麗な官能シーンが書けるようになりたいものです。
目標は〈ぬめり気と匂いのある性描写を描く〉ですね。
ぬめり気と匂い、だいじ。お風呂シチュエーションの方がぬめり気や匂いの雰囲気が出て書きやすいので私の小説にはお風呂シーンが多いですね、はい。(><)
早河と貴嶋、美月と貴嶋、美月と佐藤と隼人、作者も読者も納得のいく関係性の結末とはどんなものだろうかと考えた結果はお読みいただいた通りです。
読み手によって様々な感想があるとは思いますが、これが早河シリーズで生きてきた彼らの答えでした。
次はスピンオフのエピソードがふたつ。
【episode1.人魚姫 the last scene】と【episode2.父親奮闘記】このふたつのスピンオフで早河シリーズは終幕します。
episode1とepisode2を合わせて20ページちょっとくらいの短編です。
彼らの生き様とその先の未来を見届けてあげてください。
あとがき END
→完結編スピンオフ に続く
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