「act16 Lost」
「ん、あー。もしかしてファインちゃんか? いやー、しばらく見ないうちに大きくなっちゃって。おじさんは嬉しいぞー」
頭をポンポンと叩くマキナ。実際おじさんなのだろうが、その声色や風貌からはとても百歳を超えているとは考えられない。どんなに増して見積もっても三十前半が限界だ。というか本当にあのマキナ・クォーノスなのだろうか? 顔は誰も見たことないのだからどこかで入れ替わっていてもおかしくはない、かもしれない?
——いいえ、問題はそこじゃありませんわ。何故この男達は私を警戒して、彼らに背を向けているのか、ということですの。
「一体なんのつもりですか?
「まあ落ち着けって。これにはのっぴきならない事情があってな? 俺から話すから待っててよ」
軽く言うマキナに渋々承諾——すると見せかけて鳩尾へとグーパン一撃。思いのほか綺麗に決まったのか空気を吐きながら膝を地面にこすりつける。
「——これでとりあえず話は聞いてあげましょう。三分で終わらせなさいな。それ以上は我慢いたしません」
「がっ……はっ……。さ、さんきゅーね……」
そうとだけ言うと今度はこちらに背を向けてデスと呼ばれる少年の方を向き直した。一体何を話そうというのか。もしかしてこいつの仲間? だとすれば処すだけだが……。
「おい。やるにしてもタイミングを考えろ。今は勝利の美酒に酔う時なんだ」
まさかの行為自体は肯定するのかこの馬鹿者は。どんな理由があろうとも殺人なんて許されていいはずがない。しかも息子が殺されているのになんとも思わないのか?
と、ガイナの方に視線を動かすと微かに指が動いたような気がした。まさか生きているのかとも思ったが即座に希望的観測を捨てる。魔力が身体を巡っているような反応は感じない。風か何かで動いただけだろう。
「未成年に酒はだめだろう?」
「いやそういうことじゃなくってな?」
突っ込むとこそこかよ。こいつらは馬鹿なのか?
「……まあ、いいか」
「良くねぇですわ!!」
「三分口を挟むなって言われてなかった? ボク、キミみたいな女は嫌いだね」
まずい。思わず突っ込んでしまった。
「ごほんっ。話を続けなさい」
「……時間は有限なんだ。一刻を争うのはわかっているはずだ」
「それはわかってるけどさ。それでも説明する時間くらいはあっていいんじゃないか?」
「話したところで原罪を持つ彼らに理解できるはずもない」
「それでも少しくらいは戦力があった方がいいはずだ」
「アイツら相手に魔法は使えない。機嫌を取るのなんてそれこそ無駄な被害を出すだけだけだと思うわけだけれど。そう、これはボクの優しさでもあるのさ」
「なあ、ヌル。こいつ本当に優しいのか? 俺はドン引きだぞ……」
「なっ……!? す、少し不器用なだけよ……。うん、きっとそう。そうに違いない……」
先程から意味の分からない話を永遠と続けている。しかもこちらのことは完全に見下しているときた。
「——三分。さあ、作戦会議は終わったのでしょうか?」
「まだ二分五十二秒だ」
不機嫌そうにデスは言ったがそれ以上に不機嫌なのはファイン。大体三分待っているのだってかなり我慢しているというのに、彼ときたらわざわざ煽るようにそう言ってきたのだ。
「まあいいけれど。罪無き子はボクが十分に活用させてもらう。これは決定事項だ。決して揺るがないよ」
「——そうですか」
最初からわかっていたことだ。このデスと呼ばれた青年はなんの躊躇いもなしにガイナの胸を貫き、さらにはマリンさえも追い詰めている。そんなヤツが自分の意見を譲るなんて最初からありえない選択肢。ならばこちらも取る選択肢は一つだろう。
「魔力回天。堕天構造構築。天性臨界」
ほう、と感嘆の声をあげたのはデス。今まではそこに落ちている羽虫の死骸だと認識していた存在が腐って往く光景に、初めてそれに興味を持つ。
——マリン・ガブリエラ。いいえ、マリン・ブリテンウィッカ。どうやら貴女のことを馬鹿にはできないようですわ。だって
「最ッッッッッッ高にブチギレていますのッ!! 極大魔法展開!
彼女が持つ中ではおそらく最強と言っても過言ではない極大魔法。悪魔との契約を行うことによってのみ解禁される契約魔法でもある。既に多量流した血液がさらに身体から抜け出る。意識を保つのすら限界。だがそれでいい。あの非人間達さえ焼くことができればそれでいい!
と思っていたのに。
パリン! と大きな音を立てて発生した禍々しい炎は消え失せる。魔法が不発だったわけではない。魔力が足りなかったわけでもない。全く理解できない現象がヌルが右手を前へと突き出しただけで平然と行われていた。
「私の異能はあらゆる神秘を否定すること。信仰によって捨てられた私にはぴったりの力だとは思わない、お・ね・え・ちゃ・ん?」
意識が揺らぐ。ヌルが何か言っていたようだがそれすら耳には入ってきていなかった。地面へと伏すと辛うじて動いた頭でガイナを肩に担いだデスを睨みつける。こちらに一瞬だけ視線を流すと口元を緩めて闇の中へと消えていった。
そして未だに意識の戻らないマリンを見つめる。
——ごめんなさい。
視界が赤でもはや何も見えていない。どこまで行っても赤、赤、赤。それがファインの最後に見た光景だった。
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