「act11 精神の奥、そこには」

「なーーんて、大人しくしているワケがナイじゃないデスか。ふふっ、マダマダお子様ですね」


 悪魔嬢はそう呟くと舌で唇をぺろり、と舐めると彼が寝ているベッドへと潜り込む。ガブリエラが身体を拭く時以外は基本的に布団を被っているので非常にぬくぬくである。寒さが堪えるこの季節には助かる。やはり人肌が一番心地よい温度らしい。


「デモ寒いのナンてアタシ知らなーい♪」


 服を脱がせるとガブリエラほどのボリュームはないものの、それでも大きな胸を押し付け直接体温を感じる。温かく柔らかく、それでもってしっかりと鍛えられた身体に指を這わすと、なんとも言えない高揚感で満たされた。熱を持って火照った頬を触る。悪魔嬢がまだ人たる証拠、多少の恥じらいは残っているらしいが、それだけの火照りではない。


 今度はよく鍛えられた腹に軽く口づけをして、上へ上へと舌で濡らしていく。


 ——ちろり。


 彼の身体が跳ねる。意識は未だ戻ってはいないが身体の感覚はあるのか。それが悪魔嬢にとってはたまらく嬉しいらしく、もう一度そこを舐める。


「あはっ。オトコノコでもココって感じるンダ。カワイイっ♪」


 えいやっ、の勢いでもう一度。


 ——ちろり、ちろり。ちろり、ちろり。ちゅっ……ぱっ。


「アアアア、楽しいっっっ……! ——あー、わかってますよ。ホントの目的からハズレテルって。スコシくらい楽しンデもバチは当たらないデショー?」


 殺人を許容できるほどの人間性は捨てていないのはそうだが寝取る、とガブリエラに宣戦布告したのは本気だった。結婚しているならともかくただの状況約束である恋仲、いくらだって覆せるので彼女は正直焦ってはいない。そんなことよりも今夜はやりたいことがあるのだ。


 やることは単純、彼の精神に干渉して何故目を覚まさないのか、理由を探りあわよくばそれを解決することだ。こうして人形に触っているのも中々美味しいものを感じたが、


「さあ、ガイナちゃんはイマ、ドンナ夢を見てイルの? アタシにも共有させて——」


 互いの額を合わせて意識を集中させる。接している額から自らの意識を相手へと流し込み、精神の奥、彼の意識を叩き起こすために深く、深く深く潜り込んだ。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「だーかーらー、キミの身体には既に神秘を扱えるだけの力が宿っている。ソレを扱えるかどうかはキミ自身の腕にかかっているんだ。死にたくなければ神秘を自由自在に扱えるようにするんだな」

「とはいってもな……。神秘と魔法の違いもイマイチ理解できてない俺にできるのか? 実際こんだけ練習しても上手くいかないわけだし」

「神秘とは神や天使が使う超常で、魔法はソレを借りる技術のことだってあの女熾天使いも説明してただろうが! ボクが実践してあげたっていうのにまっっったく理解していないな、キミってヤツは!」

「しょ、しょうがないだろ。馴染みがないものをすぐ使えるようにしろって方が無理だ!」


 悪魔嬢はあくまで精神の主、ガイナに気付かれないくらい遠くからの会話に聞き耳を立てていた。話の内容は聞こえるがどういう流れでこの話をしているのかは途中視聴ではわからないことである。精神の中と現実の中で時間のズレがあるのかの姿が時々途切れ途切れ動いていた。


 だが悪魔嬢はそれ以上に奇妙な存在に目を付けている。そう、ガイナと共にいるである。がいるのは間違いないのだが姿形がまるで認識できないのだ。


 ——アレは、何カナ? アタシの目デモ認識できナイなんテ。でも、アレがイルおかげでガイナちゃんが神秘を扱えテル。逆に言エバ、ね。ワザワザ人間性と神性をワケタのにはナニカ理由がアルのかな。……違う、カミサマのヤルことに合理性を求めチャダメナンだったけ?


 結局のところカミサマってやつは長生きで、その暇を潰したいから面白そうなことをするってだけなのだ。


 ——そのクセ創造物が自分の手から離れそうになれば気分で壊す。だからワタシはアイツらから離反したのだ。命を気分で弄ぶヤツは、例え創造主であろうと許してはおけなかった!


 ——ふふっ、あんまり怒らないで。そのおかげでアタシはアナタに会えたんだから、悪いことばっかじゃないよ。そして、今度こそちゃんと神殺しを成せれば問題なっしでしょっ?


 ——それは……そうだな。今度こそやれる気がする、ワタシとキミならば。


「——誰だ?」


 無駄話をしすぎたせいか油断していて気配を察知された悪魔嬢は即座にガイナの精神から撤退する。もう少し彼を眺めていたかったが、存在を察知されれば色々と面倒なことになりそうだった。それに——


「セッカク特訓シテルんだもの。ガイナちゃんの邪魔シチャダメだよネっ」


 ……などと良い雰囲気を出して退室したはいいがこの女、しっかりガイナに夜這いをしていた悪魔嬢であるということをお忘れなく。

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