「act05 再会と」
王の間。この国の王ヴィクテム・シュメーロが座する広間。大層大きな扉を開けば、赤いカーペットが長く続き、その両端にはおそらく魔法協会直属魔装師団であろう人物が五人。当然にっくき顔も並んでいる。あとはほとんど面識のない人ばかりだ。
そしてその中央奥、大きく椅子に座っているのはヴィクテム。詳しい年齢はわからないが、白髪と皺が多く一見六十くらいに見えるが、発する気迫は老いぼれという雰囲気ではなく現役の騎士団長だと言われても疑わないほどだ。
やがて先導していたアレイスターは立ち止まると、
「ヴィクテム王、連れて来たぞ」
……確かに非常識な男だとは思っていたが、まさかこの世界で一番偉いと言っても過言ではない人に向かってタメ語など十の歳の子供でも絶対にやらないだろうそれを簡単にやってのける。当然決して褒められたことではないのでご注意!
「貴様……。王に向かってなんて言葉を! やはり貴様は師団長の器足りえなかった。いいや、それどころか今ここにいる資格すらもない!」
大声で不快感を露わにしているのは第一師団団長であるイテグリア・エイカム。彼は正義感が強く、なにより規則、秩序を求める絵に描いたような騎士である。顔もよく、人当たりも(基本的に)良いため女子からの人気は高いのだが、一つだけ本当か定かではない噂が流れていることくらいは内情に疎い自分でも知っている。
「私に敵対心を向けるのは大いに結構だが、それが嫉妬からきているものならお前は今、この空間で一番醜い存在ということになるな。そんな人物から好かれているヴィクテム王の内心など推し量るべくもないな」
男色家である、という噂だ。おそらく女子からも人気が高いのに、あんまりにも女の影がないからそうではないか? と言われたものが独り歩きしているだけだと思っていたが……。
「っ……! 貴様はぁ! 私だけならばまだしも、王を、我が王を侮辱するなど万死に値する! 今すぐ処断してやる!」
「やめろやめろ、お前達は。この間を血で汚すことは許さんぞ、エイカム」
「……はっ、申し訳ございません。私としたことが、王の瞳に汚らわしい血を焼きつけてしまうところでした。王よりの至言、一生この胸に刻むことを誓います」
と、言葉だけ聞けばただ気持ち悪いほどに心酔している人間の言葉なだけに聞こえるが、その表情は悦楽としており、叱られたことに悦びを感じている。あの顔には少しだけ憶えがある。
——噂がホントかどうかは知らないけれど、とんでもないヘンタイだってことは理解できたわ。
「まあまあ、彼がそういう人だってことはわかってたでしょー? 確かに王様に向かってあれはないと思うけどー、わざわざ挑発に乗っちゃったぐー君も悪いってことでりょーせーばいでいーんじゃない?」
「コメッタ、そんな奴らはどうでもいいから本題に移ろうぜ。愛する妻が待ってんだから早く帰りたいんだよ」
「プリカエル君も愛妻家っぷりを発揮するのは結構だが、御前だ。せめて建前を使うことくらい覚えたまえ。君までイテグリア君と対立するつもりかね」
最初は左手手前にいたコメッタ・ディセイヴァー。次にプリカエル・プラクタ、最後にリダウテン・ハウリッド。頭から、甘いもの好き、愛妻家、信神者である。え、紹介が雑い? いいのよこんな下っ端達、ファイン共々意識するほどでもないわ。
「はあ……。王、これで全員揃いました。恐れながら進言いたしますと厄災戦の時は刻一刻と迫っている中、人類側には未だ余裕というものは微塵も見られない状況です。早急に話を始めた方がよいかと」
確かにこうして気を抜いている場合ではないのかもしれない。この中で一番まともなのは悔しいがファインだということが証明された。実際多少こちらに視線を向けていたが、私情よりも今やるべきことに目を向けることができるのは彼女唯一と言ってもいい長所だと思っている。唯一、だ。ここは重要だぞ。
「まあ待て、そう急くなファイン・アンデ・シュタイン。焦っていては成せることも成せん。それにだ、まだここに全員揃ってはいないぞ」
その言葉にヴィクテム以外の全員が首を傾げる。どうやら他の存在というのをここにいる誰も知らないようだった。
「あの、もしガイナのことを言っているのでしたらあいつはまだ来れる状況ではありません」
「ふっ、そう畏まらなくともよい、キール。それに確かに彼にも期待はしているが、私が言っているのは彼ではない。あと二人、私が個人的にスカウトした人物がいる。…………頃合いか。入ってくれ」
その言葉が発せられると共に自分達が入ってきた大きな扉が開き、みなの注目を集める。
……が。
——そんなバカな。アナタは……、アナタ達はッ!?
「よお、随分と遅れちまってすまねぇな! ミハエル・エドガー、ただいま到着したぜ」
呼吸を忘れそうになるほどの衝撃だった。久しぶりに会った、とは言っても数ヶ月で魔力の質がかなり変質している。それにそれだけじゃない。もっと最悪だったのは彼の隣にいた少女の存在だった。
「ツヴァイス・アンデ・シュタイン。地獄のソコより舞い戻りマシたっ! アタシも厄災戦に加ワラせていたダきますので、ドウゾよろしくおネガいしますネ!」
最後に見た時とは別人かと見違うほど変容していた乙女、いや悪魔嬢の姿がそこにはあった。
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