「act18 行く先は」
帰ってきたガイナとガブリエラは早速食事の支度をして、クリームシチュー作成の後四人で食卓を囲んでいた。
無言で料理を口へと運ぶカナメの様子が気になっているのか、じっとガブリエラは視線を送っている。そんな視線に耐えかねたのかカナメは「……美味い」とだけ伝えた。
「ふっふー、そうでしょー。懐かしいわよね、こういう感じ」
「え、懐かしいって何が?」
「え、ワタシそんなこと言ったかしら? でも確かにこうやって大人数で食卓を囲むっていう経験は家を出て以来あまりなかったし、懐かしいと言えば懐かしいかもしれないわね」
「四人は大人数って言うのかよ……」
『失礼な、私を含めて五人ですよ、マスター』
ンなことァどォでもいい、とカナメは言って本題に入ろうとする。
「もしオマエらが厄災の獣を討とうってンなら、行くべきとこは王都シューメンヘルだな」
「そうなの?」
「あそこでは厄災戦に参加する戦士を募集している。オレは事情があってそこには参加できねェが、真っ当な人間なら見てもらうことくらいはできるはずだ。特にオマエらはウリエルと行動を共にしてたってンだ。そのことを王が知ってやがるなら尚更有利に働きかけてくれるだろォさ」
あまり考えていなかったが、よく考えれば当たり前のことかもしれない。一つの強大な敵に立ち向かうなら味方だってまとまった方がいいに決まってる。バラバラの一が十人いるより固まった十の方が強いはずだ。
しかし、ガブリエラの口から出た言葉はカナメにとって意外なモノだった。
「アナタは、一緒に行かないの?」
「————」
——こンな甘い言葉に心が揺らぐほどまだ甘ちゃんだったなンてな。デスのことを言えねェ。
「……オレは別口で行くってだけだ。ルシフェルも放っておけねェしな」
「ルシフェルって、まさかリヒートがお前のとこにいるのか!?」
「あァ、そォだが、って知り合いか?」
問われたガイナは簡単な経緯を話すと、納得したように何度も頷きながらシチューを口へと運ぶ。
「——なるほど。虚数を彷徨ってるヤツなンて珍しいと思ったら。安心しろ、アイツは無事だしオマエらに迫るほど強くなってる。こっちは心配いらねェからそっちはそっちの心配をしな」
「何か心配事でもあるってのか?」
「最近厄災獣の子の活動が活発になってきた。特に王都周りに目撃情報が多いってことは」
「ワタシ達が向かう途中、子に遭遇する可能性が高い……ってコト!?」
「——小さくて可愛い影が見えたが、それは置いといて。つまりはそォいうことだ。警戒だけはしっかりしておけよ」
「おう、忠告ありがとう」
食事をみんなが終えたとこでガブリエラが食器を片付けて戻ってくる。水属性魔法使いであるガブリエラにとっては食器洗いなんて朝飯前なのである! いや、もう夕食後ではあるが。
「さて、オレはアイツ待たせてるからもう行くが、オマエ達は明日出発するならここに泊まっていってもいい。鍵は、くれてやる。どーせ使い捨ての家だったンだ、貰い手がいた方がいい」
「この屋敷が使い捨て、だと?」
「そう紹介してもらったが……、そォいやミカエルとヌルはどこに行ったンだ? ココ、そのヌルからもらったモノなンだが」
と、カナメの口から聞き覚えの無い名前が出てくる。当然キールは知らないとして、ミハエルとついこの前まで行動を共にしていたガブリエラとガイナにはヌルという名前の人物に心当たりがなかった。両者が顔を見合わせているのを不思議に思ったカナメは少しだけ思案して、「あの薄ピンク色の髪した女だ」と言うと、両者はなお首を傾げる。
「ヌルじゃなくて、アノコはツヴァイスっていうのよ」
「ツヴァイス? ……まァ、似た人間は世界に三人はいるって言うし、言われてみれば胸の大きさも違った気がするし、違う人かもな。変なこと聞いてすまねェ」
「…………オトコノヒトっていつもそうですよね。胸しか見てないのかしらぁ?」
「……ただわかりやすい相違点として挙げただけなンだが、そこは否定しねェ。大きな胸、小さな胸、どちらが好きなンて人の勝手だが、胸が嫌いな男はいねェよ」
うんうん、と激しく首を縦に振る男二人。
——そ、そう言われてみればガイナもあの時胸ばっかり……。
「って何考えさせんのよ! と・に・か・く! ワタシ達も今から行くわ。それでいいわよね、ガイナ、キール」
「あぁ、問題ない」
「善は急げ、ってな。俺様も早く行きてぇ」
「そォか、ならここでお別れだな。次に会うのはおそらく厄災戦だ。その時までにもっと強くなってることと信じといてやるよ」
それだけ言って次元を裂いてその場から消える。取り残されたガイナ達も互いの顔を見合わせると屋敷の外へと出た。
次の目的地はユゥサーと共に修行したところでもある王都シューメンヘル。
——でも、このままだとキミ、タナトスを倒す前に死んじゃうよ?
ガイナの中で少しずつその存在は大きくなっていく。そして、その予感は見事に的中するのだった。
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