「act02 男の友情」
「あばばばばばば」
「やっふぅぅぅぅぅぅぅ!」
現在昼頃、俺は今キールという少年と一緒に『遊園地』と呼ばれるところで『ジェットコースター』なる乗り物に乗っている。誰が考案したか知らないがそいつは多分悪魔かなにかだと思っている。なんの補助も無さそうなレールの上を滑車が高速で走るだけのシンプルな遊具だというのにこれが存外怖いのだ。
乗り終えてグロッキーになっている俺の隣で流石都会っ子なのか、キールは次何に乗ろうかと地図を確認している。このゲロマシンにはできれば乗りたくないものだがウリエルから修行の第一歩、そのために仕方なく応じる。
さて、何故俺達が悠長に遊んでいるのかというと、それは一時間くらい前に遡らなければならない。
あれはキールが意気揚々に自己紹介をした後のことだった――
さてと、と椅子から腰をあげたウリエルは咳払いをして話を続ける。
「いきなり修行を始める、とは言わない。しかもガイナ君、キール君は我が妹よりも格段に弱い、そして経験も浅いと見受ける」
格段に弱いかどうかはさておき経験が浅いというのは確かにそうかもしれない。ろくに厄災獣のことも知らないうえにそもそも戦いの経験もあまり多いとは言えない。格段に弱いかどうかはともかく、だ。
「すごい根に持ってそうだね君。まあいい。ので、だ。二人と我が妹は修行段階を分けようと思っている。本格的な内容は二日後に話す」
「二日後? 明日からとか今日からとかではなくて?」
聞いたのはキール。どうやら彼も修行内容だとか詳しい事情は聞いていないようだった。ガブリエラはなんとなく察しがついているようでまたすごい苦い表情を晒している。各々の反応を見ておおむね満足そうに首を縦に振ったウリエルは口を開く。
「まず君達二人には親睦を深めてもらいたい」
「親睦?」
そう言って渡されたのは二枚の紙切れ。読み書きもあまり得意ではないガイナは解読に時間がかかったがキールには見覚えのある紙だったようで、
「これは、遊園地のチケットですよね」
「ゆうえんち、とな?」
「ざっつらい! 遊園地というのは色々な遊具で遊べる場所のことだ。そしてそれはこの国の最大の繁華地でもある。そこで君達にはまず今日親睦を深めてもらいたい」
曰く、戦いにおいて個々の実力は勿論だが良い連携をとって戦うことができればその戦力は単純な二倍ではなく絶大な力となるらしい。
昔から戦うときは一人で連携というのも即興でツヴァイスと少しやったくらいなものであまりその重要性がピンとこない。人付き合い素人のガイナにとってすぐに理解できるような内容ではなかったが流石は熾天使い、その言葉には謎の説得力があった。
――そういえばツヴァイスどうしてるのかな。無事にあそこから脱出できてればいいけど。
「若い年頃の男二人であればすぐに打ち解けるだろうさ。夕方また城門まで来てくれればオレが迎えにいこう。それまでは自由行動、つまりは今から解散!」
てなわけで現在。ゲロマシンを十分に堪能した二人は休憩と称して昼食を取ろうとしていた。ウリエルがくれたチケットには食券もついていたので余程贅沢をしなければお腹は満たせてデザートも食べられるって寸法である。
さて、問題は何を食べるかだが。
「任せる」
食事の種類について知識が多くないのでこういうのは知識のある者に任せるのが適切というやつだ。
「任せる、と女に言うヤツはモテねぇが男に言うヤツは信頼のうらっ返しだと俺は思っている。はっ、任せとけ! 必ずうめぇと言わせてやるぜ!」
連れられるがままに行った場所は少し派手な店構えのお店。丸テーブルの中心に回転式の、これまた丸テーブルが置かれているというなんとも不思議な造りである。聞けばテーブルを回転させて多量の料理を並べても誰でも取りやすいようにとの工夫がなされているとのこと。成程、考えたな。
メニュー表は読めはしたものの固有名詞というのはやはり知っていないと理解できないものでその文字列からはどのような料理があるのか皆目見当もつかない。
「二番に三十八番、それと二十番と二十三番をお願いします。……飲み物は水でいいよな?」
相槌。どのみち水以外の飲み物で知っているものは一つも無さそうである。
「そういえばさ、お前あの『閃光のマキナ』の息子だってな」
「ん、それがどうしたんだ?」
料理を待っている間の雑談としてはやや話し込みそうな内容だと思う。
どうやら、というかやはり親父は有名人らしい。すごい剣幕で迫ってきた顔は、
「顔、見たことあるよな。どんな顔してた?」
何を変な質問を、とは思わない。何故なら、
「俺も見たことないな」
マキナはいつどんな時に見ても顔の上半分を包帯でぐるぐる巻きにしておりずっと一緒に過ごしていたはずのガイナですらその包帯の下を見たことないのだ。気になって何度も見ようとしたが結局失敗に終わりやがて諦めてしまったくらいである。何故頑なに素顔を見せたくないのかその理由もイマイチはっきりとしていないが、この様子だとやはり誰も知らないようだ。
「厄災獣を封印した大英雄の素顔に迫れる絶好の機会だと思ったのになー」
「…………………………………………いま、なんと?」
「あん? 百年前に現れた厄災獣を封印した大英雄って言ったんだケド、まさかお前……」
「あ、あぁ。知らなかった……」
「あんな偉業を成した人物が身近に居ながらご存じでない!? そんなバナナだぞ!」
――初耳だ。圧倒的初耳。それじゃあなにか、俺の親父は百年前に厄災獣と対峙してそれを封印したその人だったということか。どうりで有名なはず。どうりでどこでも名前を聞くはず。むしろ知らない俺の方がこの世界では異端なのだと知る。
しかしいくら顔半分が見えないといってもあの顔はどう見ても三十代のソレである。そして厄災の獣の話なんぞ聞いたことがない!
「ちなみにお前の父親は世界で唯一アレを封印できた人物だケド、俺のじいちゃんは世界で唯一アレを地面に膝つかせた大魔法使いなんだぜ!」
「つまり俺とキールは厄災獣繋がりがあったってわけか。凄い偶然だな」
「これが神様の仕業なら感謝しねぇとな。同世代で同じ戦場に立つ人間なんていなかったからすっげぇ心強いぜ。長い付き合いになりそうな気がするからよ、これから相棒って呼んでもいいか?」
「相棒……。いいねその響き、気に入った。これからよろしくな相棒!」
「おうよ相棒!」
出会って半日もしないうちに意気投合。見よ、これが若さだ。
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