第13話
つい、うふふと笑って導師を見下ろすと、導師の真顔が俺を見上げた。
「そこから動くなよ、じっとしてろ」
「うん」
そう言ってから、導師は頭を動かさず、視線だけで辺りをくまなく観察していて、俺は内心でものすごくうきうきしながら、導師の次の指示を待っている。
「よし、ちょっとだけ動け」
両手の平をぱっと地面につけると、そこから数匹の虫が一斉に飛び出した。
そのうちの一匹を、導師はお口でお見事キャッチ。
「うまい!」
むしゃむしゃと、捕まえた大きなバッタを食べる導師。
「お前もやってみろ」
「はい?」
「うまいぞ」
「……」
そんなことを言われても、俺に出来るわけがない。
いやいや、バッタを捕まえることは出来るだろうけど、それを食べろと言われても、ちょっとしんどいかも。
「うん、無理」
また飛び出した一匹の虫を、導師はぱっと前足ではたいて、たたき落とした。
それを口にくわえて、美味しそうにほおばる。
「自分で食うものくらい、自分で取れないでどうする。修行とは、まずそこからだ」
「虫なんて、食べないよ」
「食べられないのか?」
俺は、大きく首を横に振った。
「人間は、虫を食べないわけじゃないけど、あんまり食べない」
「なんだそれ」
「食べないわけじゃないけど、食べる人もいるし、食べない人もいる」
「どっちだ」
「どっちなんだろ」
「私は、お前のことを聞いているんだ」
導師は草むらの陰から、じっと俺を見上げる。
「お前が虫を食う奴なら、私についてこい。食わない奴なら、そこで黙って見ていろ」
がさごそと音を立てて、導師は草むらの中へと消えていく。
言われたことをしばらく考えてみたけど、少なくとも俺は今までに虫を食べたことはないし、これからは……どうなるのか分からないけど、とりあえず食べる予定は今のところないから、今は黙って見ておこう。
時々思い出したように飛び跳ねる、導師の焦茶色の背中を見ながら、俺はゆっくりと後ずさりして、土手の上に腰掛けた。
高みの見物。
だけど、これじゃ俺の修行にはなってないような気がする。
「あの逃げた猫を、捕まえに来たんですか?」
その声に振り返ると、小学校四、五年生くらいの、すごくお上品で高そうな服をきた、賢そうな少年が立っていた。
「よかったら、僕も手伝いますよ」
少年は、にこっと笑って腰を下ろす。
「僕、動物、大好きなんです」
そうして、あれこれ一人でずっとおしゃべりを続けながら、ぶちぶちとその手に触れる草をかったぱしから抜いていく。
「猫は、警戒心が強い生き物ですからね、こちらから近寄らずに、寄ってくるのを待つ方がいいんです。あの猫の好きなおもちゃとか、おやつは持ってますか?」
首を横に振る。
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