第5話

「あら、この子も頑張ってるのね」


テレビ画面を彩るのは、今大人気のアイドルグループ、そのセンターを勤める女の子の、生き生きとしたダンスシーン。


「桜坂花百合隊のちりりんと言えば、いまや泣く子も黙るトップアイドルじゃない」


「お姉ちゃん程じゃないけどね」


振り返ると、そこには再び悪夢のような光景が広がっていた。


俺の天敵その二。義理の妹、三番目の連れ子、荒間千里、十六歳。


「お姉ちゃんも来たの?」


テレビに映っている姿とは似ても似つかない、地味な格好。

白のブラウスに、紺のジーパン、ノーメイク。


「だって、今日はお父さんの命日だもの」


「忙しいのに、よく時間取れたわよね」


千里は、俺の目の前にどかっと座ると、大きな紙袋を取り出した。


「で、これは、お兄ちゃんへの、お誕生日プレゼント」


袋の中身は、自分たちのCDアルバムと、数十枚のサイン色紙。


「ほら、予約殺到で売り切れ続出してるじゃない? うちの店でも売ったら、ちょっとは売り上げに貢献できるかなぁーと思って」


「さすが賢い!」


「でっしょ~」


全く血のつながりのない義理の姉妹が、手を取り合って喜ぶ。


全員、他人同士。なのに、家族。


「じゃあさっさと拝むだけ拝んだら、自分ちに帰れよ! お前ら二人ともクソ忙しいんだろ、俺と違って!」


「まぁ、そんな冷たいこと言わないでよ」


「そうだよ、お兄ちゃん」


「血は繋がらなくても、兄弟は兄弟なんだから」


二人は仏間に入ると、三つ並んだ位牌を見上げた。


仏壇の最上部には、俺の母さんの位牌。


他の二人には悪いと思うが、どうしてもこの位置だけは譲れないし、譲る気もない。


だから、次の段には、尚子の母さんだった人の位牌と、千里の母さんの位牌が並べておいてある。


この配置も、譲れない。


「うちの母さんのも、並べてくれてんだ」


尚子はそう言って、仏壇の鐘をチンとなした。


それぞれ三つ並んだ位牌の前には、三組のお供えが同じようにしておいてある。


そういえば、尚子がこの家で手を合わせるのは、初めてのような気がする。


「あの人が、『私もお供えしてほしい』って、言ったから」


「骨は向こうの実家に、持って行かれちゃったもんね」


尚子は、俺の父親と名を連ねた、位牌を見上げて言う。


「お墓も、どこにあるのか、知らないんだ、私」


「他のお願いは、何にも聞いてあげてないし」


俺の母親が死んでから五年後、尚子を連れた、自分より十一歳年上の女と、親父は再婚した。


当たり前のように、俺との関係は最悪だった。


「でも、こうしてちゃんと飾ってくれてるから」


俺の母親と連名の位牌を見て、私も同じようにお供えしてほしいって言ったのが、最期の言葉。


「言われたから、やってるだけ」


「ふふ、ありがと」


尚子の母親とは、うちに来てからもほとんど口をきかなかった。


反発しまくってるうちに、勝手に病気になって、勝手に死んだ。

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