第179話 観光案内


「おぉ……ここが人間の国かっ! 大きいのぉ……」


 サキュバスの女王である、サンドラ女王。その案内をするのは、僕とリアーヌ王女、それにエイラ先輩の三人だ。他のサキュバスに関しては、別の人が対応してくれることになった。


 彼女の容姿は一見すれば、サキュバスには見えない。今は騒ぎを起こしたくないと言うことで、尻尾など目立つものは隠して欲しいとお願いした。それを「うむ……当然じゃな」と理解の言葉を示してくれた。


 自由奔放なお方にも思えるが、人間に対しても理解があるのは喜ばしいことだ。


「リアーヌ。ここでは人間が暮らしているのか?」

「はい。ここ第一結界都市には数多くの人が暮らしています」

「他にも結界都市とやらはあると聞いたが……」

「全部で七つになります」

「七つ……よくもこれだけのものを、七つも生み出し、維持しているのは感嘆すべきこと。やはり、人間は面白い」


 ニヤリと笑うその表情をチラリとみる。


 声もどこか弾んでおり、楽しそうな雰囲気を纏っていた。こちらとしても、雰囲気の悪い中、案内しても互いに辛い思いをするだけなので、どうやら杞憂に思ったようで安心した。


「さて。人間の食べ物を、食してみたいが……あれはなんと言う?」

「あれはサンドイッチですね」

「ほぅ……香ばしい匂いじゃ」


 サンドイッチの出店。


 そこでパンを焼く香ばしい匂いがしていた。


「いかがですか?」

「一つもらおう」

「分かりました。ユリアさん」

「はい」


 買い物に関しては、僕かエイラ先輩がすることになっている。


 そして僕はサンドイッチを一つ欲しいと頼んだ。中でも一番人気のハムチーズサンドを注文。ハムとチーズ。それに新鮮でみずみずしいレタスも挟んであって、この周りで美味しいと有名な商品だ。


「サンドラ女王。どうぞ、お召し上がりください」


 紙に包んであるサンドイッとを受け取ると、それを彼女に渡す。それを見て、「ほぅ……」と呟くと思い切りかぶりと躊躇なく口に運ぶ。


「躊躇なく言ったわね……」


 先輩は驚いた様子だった。僕も同じ感想だが……。


 果たして、気に入ってもらえるか……。


「ん! 美味いっ! 美味すぎるっ! キャサリンが豪語していただけはあるのっ!」

「お気に召していただけたようで、嬉しい限りです」


 リアーヌ王女は笑みを崩さない。

 

 この手の対応には、どうにも慣れている様子だった。


「なるほど……ふむふむ」


 その後も食べ続け、あっという間になくなってしまうサンドイッチ。


「よし。次に行こうっ! 次じゃ、次っ!」


 意気揚々と進んでいくサンドラ王女。


 どうやら掴みは悪くない。


 そして僕らは、スキップでもしそうなほど上機嫌なサンドラ王女の後についていくのだった。

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