第94話 ソフィアな日
「あ、ユリアじゃ〜ん! 久しぶり!」
「ソフィア、奇遇だね。それに本当に久しぶりな感じがするね」
「ね〜。でも、会ってない期間はそんなに長くないけどね〜」
「確かに、そうか……」
「それにしても、髪バッサリいったね」
「あぁ……うん。ちょっと思うところがあってね」
「そっか」
「うん」
あれからイヴさんと別れて街中をブラブラとしていると、次は偶然ソフィアに会った。みんな作戦の前に色々と買い物をしたいのだろうか。特に女性はそういうのが好きだと聞く。そして僕はそのままソフィアと並んで歩みを進めていく。
「ユリアは大丈夫なの?」
「……あの件のこと?」
「うん。一級対魔師には通達がいってるから」
「……大丈夫だよ。僕そのものに変わりはないしね」
「そっか。いや……そうだよね。ユリアはずっとそう」
裏切り者の件はすでに軍全体に情報が広まっているも、僕、シェリー、先輩のことは情報規制がかかっている。一級対魔師の中でも今回の作戦に参加する者にだけその詳細が伝えられているらしい。その事実を知ってるも、ソフィアはいつものように接してくれる。やはりこういう友人は本当にありがたい。無駄によそよそしくすることもなく、馴れ馴れしいこともない。
改めて、僕はソフィアと知り合って良かったと思った。
「まぁそんなに過大評価されても困るけどね」
「なにぃ〜? 全くもう、嫌なとこで謙虚なんだから。今は特級対魔師、序列零位でしょ? もっと堂々としたらいいのに〜」
「うーん……でもそんなにすぐに立ち振る舞いを変えるわけにもなぁ……」
「そういうもん?」
「僕の場合はね」
「へぇ〜」
「そういえばソフィアは一級対魔師になったんだね。おめでとう」
「ありがとう! いやぁ〜、エイラ先輩に特訓してもらったからね」
「こういうと失礼だけど……すごいキツそうだね」
「……そりゃあすごかったよ。ひたすら基礎の反復ばっかり。でも根性でああしろ、こうしろとは言われなかったから。ちゃんと理論的に教えてくれたし」
「先輩らしいね」
「だよね〜」
「ちなみにソフィアは何してたの?」
「買い物かな。これからの作戦でいるものとか、まぁ後は趣味的な?」
「付き合おうか? 荷物持ちくらいならするよ」
「お! 本当に!? あ……でもなぁ……シェリーに……」
「シェリーがどうかしたの?」
「え!? いや、なんでもないよ! じゃあ着いてきて! 一緒に買い物をしましょう!」
「なんか急に口調が変になったね」
「いいから、いいから……はいレッツゴー」
「はーい」
◇
「……重い」
「ははは、ごめーん。買いすぎたね〜」
あれから二時間ほど街で買い物をした僕らは、手に大量の荷物を持っていた。ソフィアの購買意欲は凄まじく、あれやこれやと次々に様々なものを購入。僕とソフィアで手分けしてもかなり一杯になっているほどだ。
別に身体強化を使うまでもなく、この程度の重量ならば普通に持って帰れるが……なんか視覚的に重い。この量を両手に下げているだけで、気分が重くなる……そんな感じだった。
「ユリア、ちょっとあそこ寄って行こうよ」
「どこ行くの?」
「ほら、あそこ」
そう言って、彼女はある場所を指差す。
「川?」
「うん……少し涼んでいこうよ」
「わかったよ」
僕とソフィアは荷物を持ちながら、近くにある川の方へと近寄って行く。軍の宿舎の近くには小さな川が流れている。僕らは川辺に着くと、そのまま荷物を降ろす。僕はその場に座ろうと思うも、ソフィアは何やら地面を見つめている。
「何か探してるの?」
「石!」
「石?」
「うん。久しぶりに水切りでもしようかなって」
「なんか懐かしいね」
「競争しない?」
「いいけど……僕、多分下手だよ」
「いいの、いいの。こういうのは一緒にやるから意味があるんだよ」
と、促されるので僕もよく水が切れそうな石を探す。幼い頃にはよくやった記憶があるも、僕はとても下手くそで回数は10回にも満たなかった気がする。
「じゃあいくよ〜」
「お手並み拝見といこうか」
「よっと!!」
ソフィアが綺麗なアンダースローで石を投げると、水の上を石が跳ねていく。一回、二回、三回と跳ねていき……15回ほど跳ねたところで石は水の中に沈んでいった。
「う〜ん。20回はいけると思ったけどな〜」
「うまいね、ソフィア」
「まぁね〜。じゃ、次はユリアの番ね」
「おっけい」
僕は見つけた薄い石をソフィアと同様にアンダースローで投げると、石は水面を駆けていく。昔は下手だったけれど、今の僕は色々と器用になっているのか……というのも、その石は20回ほど跳ねて沈んでいったからだ。
「あー、負けちゃったかー」
「……昔は10回もできなかったけど、上手くいくもんだね」
「なんだ〜、嫌味かぁ〜?」
「い、いやそう言うわけじゃないけど……なんだか成長したんだなって。といってもただの水切りだけど」
「……私はお兄ちゃんとよくやってたんだ」
「お兄さんか……」
僕は、行方不明になっているソフィアのお兄さんの話を思い出していた。
「うん。もういなくなって長い時間が経つけど、時折一人でこうして水切りをして……思い出してるんだよね」
「……そうなんだ」
「うん……今回の作戦、きっとこれは人類にとって大きな一歩になると思う。私はお兄ちゃんの分も黄昏で戦い続けるよ。それに、ユリアたちも一緒にいるしね」
「そういわれるとちょっと気が重いけど……全力は尽くすよ」
「今のユリアの全力って聞くと、なんだか凄まじそうだね」
「……そうだといいけど、やっぱり魔人は僕みたいなやつがゴロゴロいるだろうね」
「こわぁ……でもそんな世界で戦うって決めたんだよね。はぁ……なんだか色々と大変だな〜」
「ま、頑張っていこうよ」
「だね。よし! もう一回勝負!」
「望むところだ!」
そうして僕とソフィアは年甲斐もなく、水切りでしばらく遊ぶのだった。
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