第80話 追憶 7
「……あら、帰ってたの?」
「あぁ。本国は一応勝利したそうだ」
「統一戦争だっけ?」
「そうだが、形だけの勝利だな。まだ戦争は続くだろう」
「加勢はしなくていいの? サイラスも戦力になるでしょ?」
「……俺の場合はこちらの活動が優先だ。それに俺など魔人の中では下の方。戦力的に見れば雑兵にすぎない」
「……人類最強が魔人だと雑兵だなんて、とんでもないわね」
「そもそも肉体のスペック、それに黄昏に適応できるかどうかが重要だ。人間は黄昏には適応できない。実験体も色々とあるが、微妙なところだな」
「そうね」
箱庭。クローディアはいつものように実験をしていたが、そんな矢先にサイラスがやって来ていた。彼は時折こうして本国に帰ることがある。魔族にも国があるのか、と初めて聞いた時は意外に思ったクローディアだがそもそも人間とそこまで差異はないのだ。国を持っていても不思議ではない。
クローディアは概要しか聞いていないが、今の黄昏での現状はこうらしい。
魔族は3つの勢力に分かれている。魔人、亜人、魔物。そこでの勢力争いは絶えず行われている。それはもう百年にも及ぶ。以前は人間と戦うためにその力を合わせたが、その後はどの種が世界を支配するのかで問題となりそのまま戦争へ。その戦争は決定打がないまま、引き続き今に至る。それに驚いたことに、黄昏という現象がどこから生じたのかそれは誰にも分からないらしい。
人間との戦いに勝利し、局地に彼らを追いやった後に突如として生まれた黄昏。その研究もまた、魔人たちは行なっている。しかし未だにそれは不明。と言っても、魔族を強化していることは間違いないので3つの勢力ともに黄昏に関して放置している。
そんな中、魔人たちはこの現状を打破しようと色々と行動を起こしている。今回の人間に対する計画もその一端であるが、メインではない。魔人としては上手くいけばいいだろう程度のものでしかない。そのため、助力はサイラス一人しかいないのだ。
そのことを聞かされてクローディアは特に何も思わなかった。魔人たちもまた、自分を利用しているのなら同じようにするだけだ。ただの利害関係で成り立っているも、それでよかった。彼女は自分の目的が達成できれば、他には何もいらない。そう考えていたのだから。
「そういえばペットだっけ? 準備はどうなの」
「
「思ったけど、いつもワイヤー使ってるけどそれって……」
「これはワイヤーではない。厳密にいえば、
「ふーん、そんな理由だったんだ」
「さて雑談はいいだろう。行くぞ」
「分かったわ」
二人はそうしてその場を後にするのだった。
◇
「ユリアくん、雑魚は僕がやるよ。君はあのでかいやつを」
「分かりました」
「……その魔眼、使用時間は?」
「全力を出しても三時間は行けます。黄昏の中では一日キープしてたこともありました」
「上出来だ。じゃあ、行こうッ!」
「はいッ!!」
黄昏での移動中。サイラスはユリアの能力を測るために、敢えて
そうしてサイラスは後方で戦うふりをしながら、ユリアを観察する。今回は個体の中に赤い結晶を持つものがいる。それはとある実験の結果生み出したものだが、果たして……。
と、サイラスが考えていると状況はすぐに収束する。
「ユリアくん、終わったのかい?」
「はい。少し手間取りました」
「再生……だったみたいだね。この個体は見たことあるのかい?」
「いえ初めて見ました」
「僕も初めて見たよ。しかも速い。君の剣戟をもってしても、再生速度を上回ることはできなかったね」
「見てたんですか?」
「うん。だいぶ前からね」
嘘は言っていないが、本当のことも言っていない。サイラスは改めてユリアの認識を変える。
(技量はクレアに近いが……流石に物理特化型なのか、戦闘力は高いな……)
そう考えるも、口では全く別のことを言うのだった。
「ない、ですね」
「うん。ないね。でもおそらくそれが、超速再生を司っていたんだろうね」
「合理的に考えるとそうですね。でもそれが、自然に発生したものなのか……それとも、何者かに埋め込まれたとか?」
「第三者がいると?」
「可能性の話ですが……」
「ふむ。第一結界都市に着いたら、議題にあげよう。実は今回は特級対魔師が珍しく全員集まっての会議があるんだ。ユリアくんも参加ね」
「え!? 聞いてませんよ!? そんなの!」
「それと王族主催のパーティもあるから」
「え!? それも聞いてませんよ!?」
「うん。今言ったからね」
「ま、まじですか……」
「まじだよ。それとパーティには他の城塞都市の優秀な人材、それに軍の上層部の人間とかも招いているから」
「はぁ……分かりました。はい」
超速再生を司る結晶。それはフリージア・ローゼンクロイツの遺産。今回は
どうやら計画は順調に進みそう……だと。
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