第60話 謁見



 翌日。僕は王城にやってきていた。シェリーの方は任務があるらしいが、一方の僕は王城に来て欲しいとの命令が下る。それに従って僕は早朝から王城へとやってくる。ここに来れば他の特級対魔師の人と会えるのかもしれない……そう思っていたが、どうやら今回はそうではないみたいだ。



「特級対魔師序列13位のユリア・カーティスと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「女王陛下がお待ちです。こちらへ……」



 中に入ると僕は侍女の方にそう言われ案内される。なんでも謁見する機会を与えられたらしいが、一体僕に何を求めているのだろうか?


 そんなことを考えながら、僕はこの都市を守っている要でもある女王に謁見することになった。現在、七つの結界都市の結界を維持しているのは女王だ。この結界都市を守っているのは昔から女性の方が適正が高いとかで、女性が王となり、その役割を担うことが多い。そのため女王がこの都市では一般的な存在となっている。しかし民の前に姿を表すことはほとんどなく、ただ本当に象徴として存在しているに近い。それでも、王族を神の使いとして信仰する人間は多々いる。何故ならば、この結界を維持しておりのは他でもない王族の人たちだからだ。



「それでは、どうぞ……」



 侍女の人が大きな扉を開けると、赤い絨毯の敷かれた先には女王らしき人がそこにいた。椅子に座っているも、眼差しは僕の方をしっかりと捉えている。それに、初めは気がつかなかったがここには結界が張ってあった。僕はそれを知覚するも、入れと言われているのだからそのまま進んでみることにした。すると、結界は僕の侵入を拒むことなく、そのまま中へと進むことができた。



 荘厳な雰囲気だ。ステンドグラスが至る所に散りばめられ、微かに黄昏の光が差し込んできてさらに神秘的な雰囲気を生み出している。



「ユリア・カーティスさん。初めまして……」



 そして僕は女王陛下の前にたどり着いた。初めに思ったのは似ている……ということだった。流石に血が濃く現れているのか、リアーヌ第三王女とよく似ているが……その美貌は衰えをみせることはない。リアーヌ王女を生んでいるということは、年齢は割といっているはずだ。


 だというのに、そこにある美貌は20代前半。いや、もしかすれば10代にも見えるかもしれない。長い白金の髪に、スッと通る鼻に薄い唇。目もまた、まつ毛がかなり長くとても大きく見える。それにやはり、均等に配置されているそれは人間を超越しているような存在にも思える。確かに、神の使いだという主張もある程度は理解できるものだ。



「お初にお目にかかります、陛下。特級対魔師序列13位、ユリア・カーティスと申します」


 

 僕はその場に跪いて、頭を下げた。こんな時の礼儀作法などあまり知らないが、頭を下げるべき相手だということは理解している。そうして挨拶を交わすと、女王は口を開く。



「先刻の襲撃。あなたのおかげで防ぐことができました。王族を代表して感謝を……」

「いえ、滅相もございません。ただ為すことを為した、それだけです」




 依然として、低い姿勢のまま僕はそう答えるが、少しだけ空気が弛緩するのを感じた。



「ふふっ……」

「如何致しました?」

「リアーヌに聞いた通りの人なのね」

「伝聞されている内容が良いものだとよいのですが……」

「リアーヌはあなたのことを大変気に入っているし、そして信頼しているわ。それに今回ここに来ていただいたのも確認のためです」

「確認?」

「えぇ。特級対魔師には色々とお世話になりますから。あなたのお姿や、それに性格なども確認したくて。ダメでしたか?」

「いえ、滅相もございません」



 少しだけ首を傾げてそう言ってくる陛下は、こういうと難だが少しばかり可愛いと思ってしまった。しかし、今はそんな不謹慎なことを考えている場合ではない。



「一つ質問、よろしいですか?」

「はい、構いませんよ」

「……襲撃があった際の結界についてですが」

「……その件は未だに謎なのです。この結界の構造を知るのは王族の中でも数人。今は私が主に結界都市の結界を維持しています。あの日もいつも通り、魔力を込めて結界の維持に努めていました。ただ、結界を維持するための聖域……そこには誰もいなかった。それに誰かが侵入すれば分かりますし、聖域への入り方は私しか知りません。だというのに……」

「解除されたと?」

「はい。私はその時、軍の方々と今後の方針について会議室で話し合いをしていました。しかし、私たちは結界の中に閉じ込められ、結界都市の結界は解除され……あの時の悲劇に至りました……」

「そうですか……」



 あの時、特級対魔師たちも囚われていたが他の人間も囚われていたと聞いた。それは女王陛下も含まれていたのだ。解除できる人間は、女王陛下しかいない。だが、陛下にはれっきとしたアリバイがある。だからこそ、やはり考えるべきは第三者……ということになる。やはりこの件は一筋縄ではいかないのだと再認識した。



 それからしばらく、僕は陛下と会話を交わしてこの場を後にすることになった。




「それでは、陛下。これで失礼致します」

「リアーヌと今後も仲良くしてくださいね」

「……はい」



 最後にそう言葉を交わして僕はその場を去っていった。でも、この時にすでに状況は大きく動き始めていた。僕はそんなことも知らずに、ただゆっくりと歩みを進めるのだった。

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