第59話 第一結界都市
あれから第二結界都市にも行き、とうとう僕たちの出張も終わりが近づいて来た。最後にやって来たのは第一結界都市。あの襲撃からそれほど日は経過していないというのに都市内部の修繕などは大分進んでおり、ある程度回復はしているらしい。結界都市は、中央区、北区、南区、東区、西区に分かれているのだが、その中でも被害が酷かったのは北区と中央区。その二つの区域以外は被害も少ないので、何とか生活は遅れているようだった。また軍の基地、施設もそれほど被害はない。特に酷いのは中央区の市民街と王城付近だったが、それも少しずつ回復に向かっているようだった。
「……」
「シェリー、元気だしなよ」
「だって……」
あの晩。正確に言えばシェリーが酔いつぶれた晩のことだが、翌朝彼女は全ての記憶をしっかりと覚えていた。僕に対して何をやったのかまで、しっかりと覚えていたのだ。僕は気にしない、と言ったがどうにもシェリーはそれでは割り切れないようで未だに引き摺っていた。
「まぁ、あれに懲りたら酒はほどほどにすることだね」
「う……そうね。そうするしかないわね……」
そうして僕たちはいつも通り宿舎に荷物を置いてから、黄昏へと赴くのだった。
一閃。
「いやぁ、助かりますよ。特級対魔師の方がいるとだいぶ違いますね」
「いえ。こちらこそ、色々と助かりました」
「それにしても、そちらの方もすごいお強いですね。お二人とも若いのに、凄いですね」
「……恐縮です」
僕たちはその後、少しだけ雑談をしてそのまま軍の基地へと戻っていく。
「……?」
「どうしたの、ユリア?」
「いや、別に……」
まただ。誰かに見られている気がする。僕は念には念を入れて、
「何もない、か」
「ユリア、みんなもう移動しているわよ」
「分かった、すぐにいくよ」
僕は何かある気がするも、そのまま結界都市へと戻っていくのだった。
◇
「……行った?」
「行ったな」
「はぁ……あぶなぁ……もう少しでバレるところだった……」
「クレア、自分の力を過信するな。相手もまた我々の知り得ない能力を保持している可能性もある」
「相変わらず、クライドは慎重だね」
「お前が無用心すぎるのだ。といっても、ここで遭遇するとは私も油断しすぎていたな」
「で、都市には入るの?」
「いや、しばらくはここで待機だ」
「えー、暇じゃーん」
「仕方あるまい。無闇に都市に入っても何の益もない。それに、私は都市には入れない」
「あ、そっか。行けるとしても私だけか。そりゃ、止めといたほうがいいね」
「……そこは分別できだけの判断能力はあるのか」
「正直、私一人でも色々とできるけど……特級対魔師を複数人相手はきついね。それに今はあの人もいるみたいだし」
「お前もやっとまともな思考ができるようになったみたいだな。昔の猪突猛進さはまだ残っているが」
「まぁ……あの戦争を経験すれば、いやでも引くことは覚えるよ。それに上には上がいることも知ったしね」
「そうだ。魔人といえども、死ぬときは死ぬ。だからこそ、最善に最善を尽くすのだ」
黄昏、危険区域レベル2。そこには二人の魔人がいた。一人はクレアと呼ばれる少女。もう一人はクライドと呼ばれる男性。二人とも長めの黒いコートに身を包み、ユリアたちが去っていった方向を見つめていた。
黄昏危険区域レベル10に存在するオーガの村を蹂躙した後、二人は第一結界都市へと赴いていた。それはあることをするためなのだが、二人はこの場で待機せざるを得なかった。しかし偶然か、ちょうど狩りをしているユリアたちを発見したのだ。クレアがユリアを知覚した瞬間、二人はその存在を隠した。本当にぎりぎりであった。二人の魔素の痕跡はわずかに残ったものの、ユリアの知覚にはかろうじて引っかかることはなかったのだ。
といっても、クレアの方は別に戦闘になってもいいと思っていたのだが。
「もし戦闘になってたら、勝てたと思う?」
「……勝てる、と断言したいところではあるが……彼と、それにもう一人いた女はかなりの手練れだった。苦戦はしていたかもな」
「そういえば、あの女も特級対魔師なの?」
「こちらの情報にはないな。特級対魔師ではないだろう」
「てことは、あれで一級対魔師なの?」
「おそらく」
「うへぇ……人間もなかなかにレベル高いねぇ」
「おい、殺気を隠せ。戻ってくるとも分からん」
「あははは、ごめんごめん」
クレアはユリアにも注目してたが、それと同じかそれ以上にシェリーにも注目していた。あの女は強い。彼女はそう見極めて、自身から溢れ出る殺気を抑え切ることはできなかった。
「はぁ……早く戦えないかなぁ」
「……どうだろうな。事が思い通りに済めば、戦うことはないだろうな」
「でも前回は失敗してるんでしょ? それにもう時間もないみたいだし。うまくいくのかなぁ……」
「それは向こう次第だな」
そして二人の魔人はそのままその場所に留まる。
ユリア、シェリー共に魔人と出会うことになるのはそう遠くない話であった。
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