第54話 第三結界都市
第四結界都市を後にした僕たちは、次に第三結界都市にやってきていた。ここは僕が育った場所でもあり、そして……彼らと過ごした場所でもある。何も思わないわけではないが、僕は仕事でやってきたのだ。今更あの時の感情を引き摺るべきではない。
「今回は誰もいないのね」
「まぁ今までタイミングが良かっただけだしね」
検問を通過し、僕とシェリーは第四結界都市に入っていた。しかし、今回は今までのように誰かが出迎えてくれているわけでもない。それに今はもう夜も遅い時刻だ。早く宿舎に行って、休むべきだろう。
「え? 部屋がない?」
「すいません……今日は何かと来客が多くて……」
宿舎に着くと、案内をしてくれた軍の人がそう言ってくる。ちょうど来客があり、僕たち二人ぶんの部屋が用意できないらしい。と言ってもどこか別の宿に泊まってもいいのだが、相手の人は一部屋なら用意できると言ってくる。ベッドも二つあり別に寝る分には何の問題もないらしいが……。
僕は別にいいが……シェリーは男性と寝床を共にするのは嫌だろう。そう思っていたが、シェリーが口にしたのは予想とは異なるものだった。
「別に構いません。ユリアもいい?」
「うん……いいけど」
毅然とした態度でシェリーはそう応じる。そして僕とシェリーは第三結界都市では同じ部屋で過ごすことになった。色々と思うところはあるが、今更外で宿を取るのも手間だし、シェリーがいいのなら僕も構わない。
「よっと……先にシャワー浴びたら?」
「……ユリアが先でいいわ」
「そう? ならお言葉に甘えて」
時間も遅いのでもう大浴場は閉まっている。そのため、部屋にあるシャワーを使うことになるのだが、どうやら僕に先を譲ってくれるらしい。僕は衣服を脱ぎ捨てると、シャワーを浴びる。
「……」
いつもよりも熱いシャワーを浴びる。今の所、何の問題もない。僕たちは順調にここまでやってきた。特級対魔師の人たちともうまくやっている。それでも、誰かが……人類に対して敵対しているだなんて……考えたくはない。でもそれは現実逃避だ。僕たちは現実を見つめ、裏切り者を見つける必要があるのだ。
そしてシャワーを浴び終えると、僕は部屋に戻ってシェリーに上がったことを伝える。
「上がったよ」
「……うん。じゃあ、私も入るわね」
少し顔を赤くして、下を向いたまま素早く去っていくシェリー。
体調でも悪いのだろうか? と思うが……あとで話を聞くと、別に体調が悪いわけではなかったようだ。
◇
「ユリア、起きてる?」
「うん……どうかしたの?」
ベッドが離れているとはいえ、それなりに距離は近い。もともと一人用の部屋に無理やりベッドを二つ置いているのだ。少し手狭になるのも当然である。そしてシェリーの言葉に僕は応じる。
「ユリアはどう思うの?」
「裏切り者の件?」
「うん」
「分からない……僕は2年間黄昏にいたしね。特級対魔師、それに軍の上層部のことはよく分からない、悔しいことに……」
「そう……私ね、こんな状況になるまで裏切り者の可能性なんて考えたこともなかった。いつか、こうしたい。いつか、強くなればいい。ずっとね、ずっとそう思ってた。それでいざこんな状況になって、そのいつかを今にするために努力を続けて……ユリアの隣にいる。でも私は……ユリアの隣にいていいほど強いのかな?」
「……」
僕の隣にいていいほど強いのか? 僕の隣にいるのに、別に強さなど関係ない……そう言いたいところだが、彼女が言っているのはそういうことではないのだろう。僕を目標としての言葉だと思うが。
僕に匹敵するほど、強いのか? そう問われれば……分からない。本気の彼女は見たことはない。でも、シェリーよりも強いという自負は……ある。自分の強さはある程度把握している。だからこそ、僕は彼女に言うべき言葉は……。
「強さに関して言えば、分からない……というのが僕の意見。それにそれを判断するのは上だよ。いつか僕たちは別々の都市での勤務になる可能性もある。シェリーは別に僕の隣に縛られる必要はないよ」
「……でも私は……ユリアを目標としていて……」
「目標にするのはいいよ。でもシェリーは僕じゃない。君が僕になれないように、僕もシェリーにはなれない。こう言うのも難だけど……正しい道を進むべきだよ。誰かになるんじゃなく、自分で自分を認められる人間に」
「……」
何を言っても抽象的で、誰かに何かを諭すような人間ではないのは知っている。それでも、僕は今の自分に言えることを彼女に伝えたつもりだ。これで何かのきっかけになってくれればいいのだが……。
「……ユリアはやっぱ大人ね」
「子どもだよ、まだまだ未熟な」
「はぁ……でも、ユリアの言いたいことも分かる。私はずっと誰かを追いかけてた。自分の前に見えない、でも確かにそこにいる誰かを。それをユリアに見立ていたけど……」
それから先、僕たちは軽く雑談をしてから寝た。シェリーもまた、成長の途中だ。そして僕もまた、まだ途上だ。互いを高めているけるような関係になればいい……僕はそんなことを思いながら、睡魔に身を任せるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます