第19話 第一結界都市


 あれから僕たちは第一結界都市へとやってきていた。ちょうど先ほど着いたばかりで、今はこれから泊まる宿泊先にやってきている。



「はぁ……あいつらってホント最悪。普通に犯罪者じゃん」

「まぁそうだね」



 あれから僕はソフィアに全てを話した。どうして僕が二年もの間、黄昏にいることになったのかを。でも彼女はあのやり取りから元々察していたらしく、だからこそ助け舟を出してくれたのだ。その優しさには素直に感謝したい。



「それにしてもあいつらが一緒とかホントやだなぁ……これからパーティとかもあるみたいだし……」

「ソフィアもそう思うわよね? 私もユリアから話を聞いてずっとそう思ってたの!」



 シェリーとソフィアは彼らの悪口で盛り上がるも、僕はずっと気落ちしていた。そもそも、僕が弱くなければあんなことは起きていなかった。僕が昔から強かったなら、彼らの要求を拒否する勇気があれば、あんなことにはなっていなかったかもしれない。


 そう考えると、ダンたちを非難することは僕には躊躇われた。確かに恨みはある。この体の奥から燃え上がるような憎しみが確かに存在しているも、僕の良心はそれを押さえつける。僕は何よりも、彼らと同じ存在になりたくなかった。


 強いからといって、弱者を虐げるその思想が嫌いだった。確かに、黄昏の世界ではそれが真理だった。でも人間の世界でもそれが当てはまるとは限らない。僕は、強い人間は、弱い人を守るためにいるのだと思う。だって弱い人は自分で自分の身を守ることはできない。だから強い人が守らなければ、死んでしまう。僕はそう思っていた。この力を使うのなら、誰かのために。昔の僕のような人にこそ、今の僕はいるのだ。



「ふぅ……」

「どうしたのユリア?」

「いや別になんでもないよ、シェリー。それで、確か今日は夜からパーティだったよね?」

「うん」


 

 そして僕たち3人はまた夜にここに集まることにして別れた。シェリー、ソフィア共に、何か用事があるらしい。幸い、パーティは夜からなので別に大丈夫だろうが……一方の僕は手持ち無沙汰になってしまった。


 せっかくだからこの結界都市を見て回ろう。


 そう決めて、僕は街に繰り出すのだった。



 ◇



 結界都市にはその名の通り、結界が存在する。その結界は魔族を退かせる効果があるらしい。人間には無害で、それは全ての都市に存在している。だがこの第一結界都市には、もっと特別な結界がある。それは中央に位置している王城にあるのだ。



 王城。それは王族が住まう場所。王族とは特別な存在で、この結界都市を維持している一族だ。彼、彼女らのおかげで結界は維持されている。しかし、どう言う理屈かは不明だが結界は第一結界都市からしか維持できないらしい。直接その都市にいなくとも、全ての結界都市は第一結界都市によって管理されている。


 だからこそ、この場所は特別なのだ。



「おい、テメェ……ぶつかっておいてなんだその態度は!? あぁ!!?」



 街を歩いていると、そんな声が路地裏から聞こえてくる。そしてよく見ると、そこにいたのは女の子だった。髪はツインテールに纏められており、あどけない表情をしている少女。でもどちらかといえば、可愛いと言うより美人と形容すべき見た目だった。


 また見た目からして、年下だろうが……彼女は大柄の男3人に囲まれている。どうやら揉め事のようだ。



「はぁ……あの、どいてくれない?」

「おいおいおい、そっちからぶつかってきたんだろ?」

「そうだてめぇ……あんまりふざけてると……」



 そして男は腰にある剣を抜こうとする。おそらく3人とも対魔師なのだろうが、人間に対する攻撃は犯罪だ。それにあの少女がこの男たちをどうにかできるはずもない。



「すいません……この子が何か失礼をしましたか?」

「あ? テメェは誰だ?」

「えっと……兄です」

「ほう、兄貴か……」



 いや信じるんかーい。かなりお粗末な言い分だと思ったけど、通じるんかーい。


 僕とこの少女の見た目は似ても似つかない。まずは髪の色がだいぶ違う。僕は真っ白なのに対して、彼女は薄い桃色だ。それに顔も全く似ていない。完全に赤の他人なのだが、男はそんなことはどうでもいいのだろう。とりあえず、フラステレーションを発散したいようだ。それなら、僕が相手になってもいいだろう。



「兄貴なら、落とし前のつけ方はわかってるよな?」

「おい、やるぞ」

「いつものやつか?」


 この3人とも、常習的にこんなことをしているようだ。どうやらこいつらを野放しにしておくわけにはいかない。



「後ろに隠れていて……ここは僕がどうにかするよ」

「うんっ! お兄ちゃん、ありがとう!」



 おぉ……飲み込みのいい子だ。僕の下手な演技に合わせてくれている。


 そして3人をじっと見つめる。武器は全員ブロードソード。でもおそらく、魔法でも使ってくるのだろう。僕はすぐに黄昏眼トワイライトサイトを発動して、魔素の流れを確認。



 四大属性……氷か。なるほど、足元に氷を発生させて身動きを封じてあとはボコボコにするって感じか……でも。



「おらッ、くらえッ!!」



 男の1人がそう言って、魔法を発動。でも僕はそれを許さなかった。たった一歩で距離を詰めると、そのまま魔法を構築している魔素を右手の人差し指を起点とした不可視刀剣インヴィジブルブレードで切り裂く。魔法を発動するには、必ず魔素を収束させる必要がある。と言うことは、その収束を霧散させれば魔法の発動を妨害できるのだ。通常は、魔素は知覚できないのでそんな芸当は不可能。でも僕の黄昏眼トワイライトサイトはそれを捉える。



 そして、一閃。



「はぁ……!? 魔法が……!?」


 

 慌てているも、すでに僕は眼前。そしてそのまま不可視刀剣インヴィジブルブレードを首に突きつける。さらには左手の指でもまた、不可視刀剣インヴィジブルブレードを発動。それを残りの2人の首にも掠らせる。知覚できるようにわずかに皮膚を切り裂き、さらには壁に不可視の刃を食い込ませる。



「……もう何もしないなら、どこかに行ってくれない? もう危害は加えないから」

「「「……ひ、ヒィいいいいッ!!」」」



 まるで化け物でも見たような目をしながら去っていく3人の男。やっぱり、こんなことしてもいい気はしないなぁ……。そんなことを考えて、少女の方を振り向く。



「あなた、いいわね。とってもいい。それって幻影魔法? 系統外魔法、それも無属性は回復以外だと珍しいわね。見たところ、不可視の剣ってところかしら? 長さは任意で変えれるようだけど、まだ自由自在じゃない。得意な間合いに特化してるみたいね。今は指だったけど、それって指以外……何か棒状のものなら使えるんでしょ? どうやら起点がいるみたいだけど。普段は何使っているの?」

「え……と……そのナイフです……」



 雰囲気が違う。さっきよりも自信ありげに振舞っている。それに僕はなぜか敬語を使ってしまっている。この子は年下なのに、妙に気圧されるのだ。それに分析が的確すぎる。今の一瞬でそこまでわかるのか? この子は何者なんだ?


「ナイフ……なるほど。確かにナイフだとさっきの身のこなしも頷ける。でも見たことないわね、あなたみたいな手練れ……あ! もしかしてあなたがユリア?」

「え……確かに僕がユリアですけど、どうして知っているんですか?」

「私は第一城塞都市、対魔学院六年のエイラよ。対魔師としてのランクは……特級。特級対魔師のエイラ。よろしくね、ユリア」

「は……え!!?」



 こうして僕はまた新しく別の、特級対魔師と出会うのだった。

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