第15話 王族との邂逅



「や、やった……か、勝ったわ……」

「いや無理……流石に鉛筆一本は無理……指も使えないとか……まじ、無理……はぁ……はぁ……はぁ……」



 最後の試合。シェリーとの試合は苛烈を極めた。互いに全戦全勝。すでに3位は確定しており、3位はソフィアさんだった。そして1位か、2位を決める戦いが僕とシェリーの試合だった。本当はもう疲れていたので、やる必要ないよね? と思っていたけど、「逃げるのかー!」「最後までやれー!」「ユリアー、勝てよー!」などと野次が飛んできたのでやむなく続行。


 ただし、僕の魔眼は一試合目以降使うなとサイラスさんに言われ、本当に鉛筆一本だけで戦うことになった。それでも、ここまでは勝てたけど流石にシェリーの相手は厳しかった。


 決着は僕の敗北。あまりの疲労に不可視刀剣インヴィジブルブレードを維持できず、その瞬間に僕は負けを認めた。試合はあまりにも辛かった。ここまで制限して戦うことはないので、とても勉強になったが……それなりに悔しい想いはあった。



「ぐ……負けたかぁ……くそおお……」

「はぁ……はぁ……鉛筆一本でやっと勝てるって、あなた本当に化け物ね」



 僕は地面に大の字になって寝ていると、周囲に生徒たちが集まってくる。



「おいユリア、お前って本当にすごいやつなんだな! 感動したぞ!」

「私も、私も……ちょっとかっこいいというか、すごいよかったよ!」

「同じクラスメイトとして、誇らしいぞ!」

「はぁ……はぁ……尊い……」



 ガヤガヤとする中、サイラスさんがこっちに近寄ってくる。


「では、シェリーさん。ユリアくん。ソフィアさんを今回の選別メンバーとします。出発は明日。それと、今晩は3人には少しやることがあるので、空けておくように。ユリアくん、あの場所に二人を連れてきてください。そうですねぇ……20時くらいでお願いします」

「あ、はい。分かりました」



 解散……となるはずだったが、僕は後ろから声をかけられる。今はすでに人はいなく、ここにいるのは僕と……キースだけだった。



「ユリア……」

「キース、何か用?」



 報復でもしてくるのだろうか? でも今の僕に制限はない。ナイフもあるし、魔眼も使える。次何かをしてきたら、容赦はしない。そう考えて身構えるも、予想とは違うことが起きる。



「すまなかった……!!」

「え……?」

「俺はその……お前にひどいことを……」

「……もういいけど。どうして、あんなことしていたの? やるにも妙に中途半端だし」

「俺はその……」

「?」

「シェリーのことが好きなんだ」

「わぉ。ってことは、嫉妬……とか? 僕とシェリー、たまに練習してたから」

「……すまん。狭量なのは自覚している。だが急にやってきたお前に取られるかもしれないと思うと……つい……周りのやつにも謝るように言っておくが、俺が先導したことだ。ここはひとつ、これで許してほしい」



 そう言ってキースは土下座の体勢に入ろうとするので、僕は慌てて止める。



「ちょ!? 良いってば、別に……いいよ。終わったことだし」

「すまない……本当にすまない」

「それに今後、シェリーと練習する機会があったなら、キースも誘うよ」

「いいのか!?」

「まぁ別にいいよ。人の恋路を邪魔する気は無いし。応援するよ」

「あぁ……ユリアこそが……神だったんだな……」

「ちょ!? 土下座はやめてよッ!」



 恋する気持ちのあまり、嫉妬して僕に嫌がらせをした。おそらく余りやりすぎると、目立ってシェリーに嫌われると思っていたのだろう。可愛いものじゃ無いか。でもそれと同時に思い出していた。今回の件は別に毎日冷水を浴びていただけだから、許した。でも……もしかして、今後あの3人と……ダン、レベッカ、アリアの3人に会うことになったら僕はどうするのだろう?



 ◇



「へぇ……ここが」

「小さいわね」

「うん、思ったよりも」



 夜、サイラスさんのいう通りこの家にやってきた。ちなみに、それなりに仲良くなったきたので、ソフィアとは呼び捨てで呼び合う中になった。


 それにしても、一体用事とはなんだろうか。そう思いながらドアを開けると、サイラスさんがにっこりと微笑みながら中に招いてくれる。



「やぁ、よくきたね3人とも。さ、入ってほしい」

「「「失礼します」」」



 声を合わせて中に入ると、そこには……目を完全に奪われるほどの美女がいた。いやあれは人形……? でもじっとこっちを見て、にっこりと微笑んでいる。人間だ。でもあれほど顔のバランスがいい人間は見たことがない。不均一さなどない、どこまでも整った、左右対称の顔。それに肩まで伸びている薄い白金プラチナの髪はまるでの絹ように滑らかだった。それに、何よりもその圧倒的な胸部は流石の僕も注視せざるを得ない。ゴクリ、と生唾を吞み込むとサイラスさんが口を開いた。



「紹介しよう。第三王女の、リアーヌ王女だ」

「初めまして。リアーヌと申します……」



 可憐だ。僕は完全に目を奪われてボーッとしていた。すると、急に足に鋭い痛みが走る。


「……痛ッ!」

「鼻の下伸ばしすぎ……」


 シェリーに一喝されてしまった。でも確かにその通りだ。シャキッとしないと、そして僕たちは挨拶をした。その後、サイラスさんが本題を告げる。


「今回はこの人の護衛を、3人に頼みたい。僕は先頭を誘導するから、黄昏の中では彼女をしっかりと守ってほしい。と言っても一緒の馬車に乗るだけでいい。何かあれば、命に代えても守るように。でもまぁ、ユリアくんだけでも十分だと思うけど、一応ね」

「そういうことだったんですね。分かりました。その大役、承りました」



 伝える件はそれだけだったようで、シェリーとソフィアは帰って行った。一方の僕は居残り。内密にしたい話があるそうだ。



「ユリアくん、こちらのリアーヌ王女は黄昏の濃度を感じることができるんだ。特異能力エクストラの一種だけど……診てもらわないかい?」

「いいんですか?」

「彼女からの要望だ。君は人類の希望になり得るからね」

「ユリアさん、安心してください。害はありませんので」

「わ、分かりました」


 瞬間、リアーヌ王女の周囲が赤く発光する。そして彼女は僕の姿をじっと見ながら、こう話した。


「サイラスよりも……濃い。濃すぎますね。体にまとわりついている感じじゃない。完全に一体化している……そんな感覚です……驚きました、人類がここまで黄昏と一体化できるなんて。普通ならとっくに絶命しています」

「……僕は死ぬんでしょうか?」

「いえ、むしろ長生きするでしょう。どちらかといえば、サイラスやあなたの体は魔族に近いものになっています」

「やっぱり……そうですか……」



 それほどショックは大きくなかった。もともと予想していたことだ。大切なのは、これを知っても先に進むということ。人類のために、魔族と戦うということなのだ。



「ありがとうございます。それが知れただけでも、良かったです」

「いえこちらこそ、わざわざお越しいただいてありがとうございます……ううぅ……」


 こうして僕は自分の現状を把握するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る