【WEB版】追放された落ちこぼれ、辺境で生き抜いてSランク対魔師に成り上がる

御子柴奈々

第一章 Twilight World

第1話 そして少年は、見捨てられる

 

⚠︎WEB版と書籍版ではストーリー展開が大幅に異なります。コミカライズは書籍版準拠ですので、ご理解いただければ幸いです。特に二章からは完全に別ものです。



 ◇



 僕はただ、誰かを助けられる人になりたかった。この世界を守るために戦った偉大な父のように。英雄になりたいわけではなかった。ただ……誰かを守れるような人間になりたかった。



「おいッ! ユリアッ! お前が敵を引きつけろッ!」

「で、でも数が多いよッ!」

「いいからお前がやるんだよ! このままだと俺たちは全滅だッ!」

「う……うん」



 僕たちは結界都市の外で魔物狩りをしていた。でもこんな森の奥まで来る必要はなかった。でもリーダーであるダンが、ここまで来ようと提案したのでやって来たのだ。


「よし、二人とも……ユリアを置いて逃げよう」

「いいの? 死ぬんじゃないの?」

「私も、死ぬのはかわいそうだと思うけど……」

「いいだろう、別に。あいつには親もいねぇし、心配する奴なんていねぇよ。それに、あいつは弱すぎる。いてもいなくても、同じさ。むしろ、黄昏に連れて来たやったことを感謝して欲しいくらいだ。それに、また代わりを見つければいい。劣等生のあいつをここまで連れて来たんだ。それだけでも十分だろう」

「そうね」

「うん……ま、仕方ないよね」



 そんな声が聞こえた気がした。いや、きっと気のせいだろう。僕にこの場を任せてくれたのだ。ならば、しっかりと義務を果たすべきだ。



 でも彼らが戻ってくることはなかった。





 ◇




 ピピピピピピピピピ、という音が室内に響き渡る。


「う……ううぅぅ……眠い」


 早朝。僕はいつも通り起きると、いそいそと準備を始める。窓を開けると、空には黄昏(たそがれ)が広がっている。そう、この世界は黄昏に支配されている。


 150年前に人類は魔族に敗北し、局地に追いやられた。そこで結界都市を築いて、魔族へ対抗するために対魔師を育成している。いつかこの空に光を取り戻すために。


 現在世界には七つの結界都市があり、僕は第三結界都市で暮らしている。またそこにはとある組織がある。対魔学院は育成機関、対魔軍は文字通り育成した対魔師を実際に使う場所である。僕はその対魔師育成のための学院に通っているのだ。対魔学院は六年制で、僕は今二年生。まだまだ弱いけれど、いつか父のような立派な対魔師になりたいと思っている。



「行ってくるよ、お父さん。お母さん」



 父は対魔師として魔族と戦い、幼い頃に死んでしまった。母もほぼ同じ時期で病気で他界。でも、寂しくはなかった。だって僕には、対魔師になるという立派な使命があるのだから。



「じゃ、行って来ます」



 二人の写っている写真に挨拶をして、僕は家を出て行った。



 学院に向かう。すでに二年生になって二週間が経った。今は学院で実戦の授業も始まっているので、かなり緊張している。この外の世界に行くのは、本当に危険なことだ。外に出れば魔物が多くいて、普通の人ならば瞬く間に殺されてしまう。



 初めて結界都市に出た時は、その黄昏に圧倒された。でもパーティーメンバーと力を合わせて、指定された魔物を狩ることができた。


 なんだ、意外に簡単じゃないか。それが僕とみんなの感想だった。今日も外に狩りに行く。リーダーのダンが正式に許可を取って来たというので、全員で行くことにしたのだ。



 大丈夫、僕たちならきっとやれる……そう、そう思っていた。




「おっす、ユリア! 今日は頼むぜ!」

「うん、わかったよ!」



 僕たちは放課後、外に来ていた。ここに来るのは2度目だ。外の世界は都市の中よりも黄昏が濃いみたいでその赤黒い光に圧倒される。といっても、別に人体に影響はないので大丈夫だ。



「ユリアってば、ちゃんと回復よろしくね?」

「そうよ、ユリアが頼りなんだから!」



 リーダーのダンとサブリーダーのレベッカが前衛。その後ろで遊撃をするのが、アリア。そして、ユリアこと僕は後方で魔法による支援だ。攻撃魔法は得意ではないけれど、治癒魔法は得意なので僕はパーティーの中でも頼りにされている。



「ねぇ、ダン。こんな森の奥まで来て大丈夫なの?」

「あぁ。俺たちならやれるさ」



 ダンは歩みを止めることなく、どんどん進んで行く。レベッカとアリアもそれに続いて行く。僕だけが不安なのだろうか? でも、みんなはしっかりとした足取りで進んでいる。


 うん。僕もしっかりしないと……。


 そして僕たちは魔物と遭遇することになった。



「……みろ、ホワイトウルフだ」

「そうね……」



 そこにいたのはホワイトウルフの群れだった。元は寒冷地方にいた魔物だが、黄昏に覆われてから魔物は急激に強くなり、どこにでも現れるようになった。



「行くぞッ!!」

「うん……!!」



 僕たちは戦い始めた。大丈夫やれるさ。きっと、大丈夫。でもそれはただの希望的観測に過ぎないことを僕は後に知ることになる。




「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ちょっと、数が多いわね……」

「どうするの!?」



 そしてダンの指示で、僕は前線を維持することになった。みんなは助けを呼びにいってくれるらしい。治癒魔法も使える僕なら、長く持ちこたえることができる。任せたぞ、と言われた僕は嬉しかった。今まではどのパーティーにいても邪険にされるだけだった。でも、今は違う。みんなと力を合わせて、戦えるんだ。



「はぁ……はぁ……はぁ……」



 みんなはまだなの? 僕がここで足止めをしてすでに一時間は経ったと思う。でも誰もこない。おかしい。そろそろ来てもおかしくはないと思うのに……。



 僕はすでにボロボロだった。身体中には切り傷があり、治癒魔法を使っても血を止めるので精一杯。それに魔力も尽きそうだった。



 それでも戦わなくちゃ。だって、僕は任されたのだから……。



「これで……終わりだ……」



 やっと最後のホワイトウルフを倒した。何とか、僕一人でも倒すことができた。といって治癒魔法を無理やり使って、戦い続けただけ。僕が強いというわけではない。


「も、戻ろう……」



 フラフラとした足取りで僕は前に進む。でも、何か違和感を感じた。



「結界が張られている? それにここは?」



 そう。なぜか結界が張られていて、出ることができない。確か、結界の魔法はレベッカが得意としていたはずだけど、一体……。



 そして僕は森の中を彷徨い続けた。歩いて、歩いて、歩き続けた。でも、外に出れない。むしろ、森の深みにさらに嵌ってくようだった。



「う……目眩が……」



 魔力の使いすぎで、僕は欠乏症を起こしていた。それに血も足りない。塞いだだけで、抜け落ちた血は取り戻せないのだ。



 そして僕は近くに水場を見つけて、そこで一旦休むことにした。その時にやっと冷静になって来て、あの時の言葉を思い出していた。ヒソヒソと話している言葉。あの時は戦闘の興奮のせいで、聞こえないふりをしていたけど……やっぱり思い出すと結論は一つしかなかった。



「よし、二人とも……ユリアを置いて逃げよう」

「いいの? 死ぬんじゃないの?」

「私も、死ぬのはかわいそうだと思うけど……」

「いいだろう。別に、あいつは弱すぎる。いてもいなくても、同じさ。また代わりを見つければいい。それに劣等生のあいつをここまで連れて来たんだ。それだけでも十分だろう」

「そうね」

「うん……ま、仕方ないよね」



 そう、みんなは僕を囮にして逃げたのだ。それが事実。何よりも、間違いない事実だった。僕は学院では最下位の成績で劣等生だった。誰もパーティーに入れてくれない。ただの落ちこぼれ。でも、ダンたちは受け入れてくれた……そう思っていた。



 けど実際はこうして置き去りにされている。


 

 僕は偉大な父のような人間になりたかった。でもおそらく、もうすぐ死ぬんだと思う。僕に生き残る術はない。でも……最後に、どこまで足掻けるか試してみたい。



「行くしかないか……」



 僕は虚ろな目でそう呟くと、そのまま森の奥に進んで行くのだった。

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