うちの執事はドM 02
とある国のとある公爵令嬢、エルザ。金髪縦ロールを揺らし、学問を終えたエルザは優雅な足取りで廊下を歩く。
取り巻きと言われるような者を従える訳でもなく、一人学園の門へ向かう最中に声を掛けられたエルザ。
振り返ると、目線の先にはこの国の第二王子であるカイル・レジカ・リグナルードがいた。銀髪の髪が夕焼けに染められキラキラと光り、エルザは眩しそうな表情を見せ目を細める。
カイルは野性的な男らしい表情をエルザに見せ、ニヒルに笑う口元からはチャームポイントな八重歯が見えた。
「よォ、エルザ。今から帰りか?」
「ご機嫌麗しゅう、カイル様」
「堅苦しい呼び名は止めろよな、エルザ。昔からの呼び名で良いぜ?」
不服そうな表情を見せたカイル、複雑そうな表情を見せたエルザ。二人は所謂幼馴染の間柄であった。
「人目もありますし、第二王子であらせられるカイル様に一介の公爵令嬢でしかない私が気軽に出来る筈がないですわ」
「でも、あの糞野郎執事は俺に対して酷い扱いだぜ」
立ち止まっていたエルザに、頭の後ろで腕を組みながらカイルは隣へと近付く。隣に来たのを確認したエルザはゆっくり優雅に歩き、カイルと共に外への道へ。
「……ラングルは、少し特殊でございますから。私とカイル様を想っての行動ですわよ」
「うげ、そうか?あれ、どうみても超ドMでエルザに叱って欲しそうな表情見せてんだろ」
カイルの言葉に、エルザは何とも言えない微妙な表情を見せる。その歪まれた表情は美しく、カイルは少し照れ臭い表情を見せた。
「叱る……ラングルは完璧なウィズリム家の執事ですわ。褒める事があれど、叱る事はこざいません。ただ、カイル様への態度は改めさせますわ」
「それ、喜んだりしねーの?」
「…………主として、しなければなりません事は行うべきですの。例えラングルが喜びを感じても」
カイルと共に学園を出るエルザ、門にはウィズリム家の馬車が見えその近くにはエルザの完璧執事である最強執事のラングルが立っていた。
「御嬢様、御迎えに上がりました。……そして、カイル様お久しぶりでございます、馬車はあちらですので御嬢様から離れて下さい。令嬢である御嬢様とカイル様がご一緒などあらぬ誤解を招きますので」
ラングルは綺麗な笑みをエルザに向け、その後に無表情をカイルに向け淡々とした口調で話す。
「おいおい、ラングル、俺は王子!それにエルザと俺は一応、婚約関係だろーが。あらぬ誤解じゃなく、仲睦まじい姿だろ」
カイルがエルザの肩を抱こうと手を伸ばせば、それに素早く反応したラングルが王子であるカイルの手を掴み捻る。
「いたっ!ちょ、おまっ!俺は王子!」
「御嬢様に気安く触らぬよう、護衛も兼ねておりますので」
この国は例え婚約関係があろうとも、結婚前の令嬢には気安く触れてはならない暗黙の了解がある、ラングルの言う事は正しいが少しだけ遣り過ぎかも知れない。
しかしエルザは見た目とは違い、真面目で国の良識もある令嬢、視線をカイルとラングルへと向け諭すように優しい言葉を二人にかける。
「離して差し上げてラングル。カイル様、我が家の執事が大変失礼致しましたわ。ただ、婚約者だからと言って令嬢の肌に気安く触れては王子であるカイル様の品格を損なう事になってしまいます、多少乱暴な止め方ですがカイル様のためですわ。生憎今は誰も通っておりませんから、見られておりませんし今日の事は私達三人の胸の内に留めて下さらないかしら?」
優雅がに美しく、優しい声色で二人に話すとラングルがカイルから手を離してから悲しい表情を見せる。
嫌な予感しかしないエルザ。
「……御嬢様、発言をお許し頂けますか?」
「…………ええ、許すわ」
例え後悔しても、エルザはラングルの発言を許す。
「何故ですか、御嬢様。ここは『ラングル!王子であり私の婚約者であるカイル様に何をなさっているの!?この、ダメ執事!』と、悪役令嬢らしく、私を何度も何度もビンタするのが正解でございます!」
「……正解じゃないわ、ラングル。確かに強引だったけれど、正しい事をした、私を守ったラングルをビンタする訳がないじゃない」
「御嬢様、私はして欲しいのです、ビンタを。往復ビンタを!何度も!!何度も!!何度も!!!」
いつにも増して、興奮した面持ちでエルザを見詰めるラングル。
ドン引きするエルザとカイル。
「やっぱり、超ドMじゃねーか。大丈夫かよ、エルザ。けどよ、一回くらいしてやれば?」
カイルの言葉を聞いたラングルが、それはそれは嬉しそうな表情を見せた。
「やりませんわ」
しかし、エルザは即座に否定する。ただし、ラングルの表情はまだ嬉しそうである。
「上げて、落とす、技でございますね、御嬢様」
御嬢様の名はエルザ、最強執事の名はラングル、第二王子の名はカイル。
これが、いつもの日常。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます