うちの執事はドM

紫斬武

うちの執事はドM

とある国のとある公爵家に、とても美しく気高い公爵令嬢がいました。


金髪縦ロールを大きな真っ赤なリボンでくくり、ド派手なドレスに身を包んだ令嬢の名はエルザ・ルーカス・ウィズリム。


金の瞳をし、つり目のキツイ表情をしてはいますが14歳にしては色気を持ち出る所は出て引っ込む所は引っ込む少女、よく噂で聞く悪役令嬢の様な身なり、雰囲気ですが理不尽な我が儘等は全く言わない中身はしっかりとした令嬢らしい令嬢。


エルザは花やダンスレッスン、刺繍と令嬢らしい稽古を終え、午後のお茶をしようと美しい薔薇で埋め尽くされた庭へと足を運ぶ。


そこへ、心地好い声でエルザに声を掛ける者が。


「御嬢様、紅茶をお入れ致しました」


「あら、ありがとう、ラングル」


青い髪にアイスブルーの瞳、優しい笑顔でエルザを見詰めながら、テーブルの上に紅茶の入ったティーカップを置くのはエルザの執事ラングル。


ウィズリム家の最強執事と言われているラングルに、エルザは薔薇に向けていた瞳を向け直し笑みを浮かべる。


ラングルから紅茶へ視線を向け、美しい手を紅茶の入ったティーカップに伸ばすと、不意にエルザは視線を感じ顔を上げた。


視線の主はラングル。


「御嬢様、紅茶を入れました」


「ええ、そうみたいね」


「はい、紅茶でございます」


「………………」


とても熱いを強調したラングル、エルザは紅茶とラングルを交互に見詰めてから、紅茶の入ったティーカップから手を離す。


「御嬢様……」


何処か悲しげな表情をするラングル、もし周りにエルザ以外の者がその表情を見たならば、惚けて溜め息を出すくらいの美しさ。


生憎、エルザには見慣れた光景な為に効果はない。


「熱いなら冷ませば良いのよ、ラングル」


「……御嬢様、発言をお許し頂けますか?」


「…………ええ、許すわ」


一瞬、躊躇ったエルザだが、世話になっているラングルに許可を出す。それが毎回後悔をする事になっても。


「御嬢様、何故ですか?執事が熱い紅茶を淹れたのですよ?ここは悪役令嬢っぽく、熱い紅茶を私にぶっかけ、いや、失礼致しました、私に熱い紅茶を浴びせながら『熱くて飲めないじゃないの!わたくしの舌に火傷を負わす気!?』って言う所です、御嬢様」


「……折角淹れた紅茶だわ、私がする訳ないじゃない。さっきも言ったけれど、冷ませば飲めるのよ、熱いからって人に浴びせる物じゃないわ」


「……御嬢様、私は、浴びせて欲しいのです、ぶっかけて欲しいのです!そして罵られたいのです!!御嬢様に!!!」


見た目冷静なクールビューティなラングル、後半の語尾は右肩上がりで悲痛な叫びが庭に木霊する。


ただし、これは日常茶飯事なために誰かが駆け付けるといった事は起こらなかった。


エルザは毎回、諭す様に、ラングルへとゆっくりとした口調で話す。


「浴びせないわ、ラングル。紅茶を折角淹れてくれたのだから、冷まして飲むわ」


「御嬢様……」


「…………」


再度、悲しげな表情を見せるラングル、しかしエルザは気にする事もなく、黙ったまま視線を薔薇へと向けた。


またもや感じる視線、見なきゃ良いがエルザは見た目とは裏腹に優しく、視線を向けるラングルへと再度視線を向けた。


そして、また後悔。


ラングルの表情は、恍惚な表情を見せていた。ドン引きするエルザ。


「……放置、プレイでございますね」


御嬢様の名はエルザ、最強執事の名はラングル。


真面目で見た目とは違うしっかり者の御嬢様とドMな最強執事の日常の幕開け。

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