73話 第一種目 学園周回リレー

 俺は指示通り校門前にいた。


(相変わらずデケェなぁ)


 心の中でそう声が漏れてしまうほど、大きさは尋常じゃない。

 そして校門前には俺以外にもいろんな生徒が集まっていた。


「ではまず一年生から行いますので準備してください!」


(一年からか……。まあ妥当だよな)


 全員呼ばれたからもう直ぐに始まると思っていたんだが……。

 しばし休憩という面で観察でもするか。


「それでは……レディー……」


 その合図でみんな走り出す構えを取る。


「ゴー!」


 そしてこの合図で一斉に飛び出していった。


(……勇者って微妙なところで文化を伝えるよなぁ……)


 いただきますは日本人ならあるのは当然で、レディーゴーはあり、カレーはない……。


(なんか基準が分からなくなってきたなぁ……)


 まあそんなことより、観察だ観察。

 どれどれ~?

 俺は校門前にも設置されている巨大な観戦用の魔導具では、中継が放送されていた。


(アイツは早いな)


 流石はマンモス校。

 早い生徒はたくさんいるってか?


「早い早い!1年Sクラスのリーバー君、どんどん二位との差を伸ばしていきます!」


(これは……すごいな……)


 どんな魔法を使っているのかよく分からないが、スピード勝負になると今の俺なら勝つのは……難しいだろうなぁ……。


「そしてあっという間に4分の1へ到達し、また走っていった!」


(このリーバーという男は2度走るということか)


 Sクラスは人数が少ない。

 だから、同じ競技に複数回出場しなければならないこともある。


 まぁまだスピードが全然落ちていない風を見ると、一人で走りきりそうだがな。


「そしてリーバー君以外にも4分の1へと到達したクラスがあります!Bクラスです!速さ自慢のガレス君が今、次の走者にバトンを渡しました!」


(速さ自慢って……。思いっきり抜かされてますやん?)


 そうは思ったものの実際速いのは事実。

 あのリーバーが速すぎるだけだ。


「次々に4分の1を走りきり、バトンを渡していきます!」


 これで全員バトンが渡ったな……と思った時、リーバーが半分を突破した。


「リーバー君!まだ走る!しかも全然いきも切れていない!流石だ!」


 ……いや、これ普通にすげぇな。

 走力もだが、体力も尋常じゃないほどあるぞ、コイツ……。


 それからリーバーは1分もせずに全長5キロ以上はある学園を一周した。

 順位はもちろんダントツの一位。

 二位が戻ってきたのはリーバーが到着してから10分以上後のことだった。


「結果発表です!一年学園周回リレーは三位はAクラス!二位はBクラス!一位はSクラスとなりました!」


 結果発表は上位三クラスだけが発表されている。

 このクラスの後についている“1”というのはクラスのチームの番号だ。

 俺のチーム名はEクラス3だ。


「では次に2年生です。準備してください!」


 係の先生からの指示で俺は並びに行く。


「トオル君、この勝負負けないぞ」


 俺にそう言ってきたのはこの種目に出場すると思っていたカーマだった。


「僕には全然敵いませんよ。〈雷人のカーマ〉さん」


「……ちょっとそれは恥ずかしいからやめてくれ……」


 やっぱりこういう二つ名ってみんな恥ずかしいもんなんだな。

 俺もあんな二つ名をつけられたら恥ずかしくて生きていけない!


「今回はルーナに出せる全力を出すって言ってしまったからな。悪いが、手加減は出来ない」


「逆に手加減してたら楓さんたちに怒られると思うよ?」


「……それもそうだな……」


 手を抜いていたらなんて言われるか……。


「えーっと……。ここで特別ルールです!」


 係の先生が急にそう言った。


「この中にカネヤマ トオルという生徒はいますか?」


「……はい、俺ですけど?」


 俺は先生の前に出る。


「君は理事長からの指示で一位の人が半分を通過するまでは動いてはいけないハンデを設けないといけない……って書いてあるんだけど大丈夫?」


「俺は全然問題ないですよ」


 むしろありがたいぐらいだ。

 いきなり独走トップとか面白くないしな。


「……大丈夫か?これ、楓さんも出るんだよ?しかもアンカーで」


「問題ない。まぁ手加減でもして、一番最後からきた俺に抜かされることがないようにするんだな」


「当たり前だ!」


 そしてみんなは位置に着く。

 当然俺は一番端だ。


「レディー……ゴーッ!!」


 合図があり、俺以外が一斉に走り出した。


(やっぱりカーマが独走状態か……。ま、想定の範囲内だな)


 カーマは二つ名の通り、雷属性の魔法を使う。

 雷を自身に付与して、大幅に身体能力を上昇させているのだ。


(これは……リーバー並みに速いな。戦闘訓練の時は一撃で撃沈していたのに……。強くなったんだなぁ……)


 そしてカーマは2分もせずに4分の1を走りきった。


(次は……誰だ?見たことないな)


 多分クラス替えの試験の時に、結果を残して俺の代わりにSクラスに入ったやつだろうな。


(それで俺のクラスは……)


 しっかり特訓の成果が出ているようで1が、三位、2が二位と順調な滑り出しだった。


「おっと!!これは誰が予想できたでしょうっ!!まさかのEクラスが二位と三位についています!」


「まだ出発していないチームはトオルさんだけのチームですからね。Eクラスが首位あたりを独占するかもしれませんね」


 まさかの女王様が実況をしていた。

 ……娘が出るからだろうか?

 さっきはしていなかったよな?


「みんなも頑張っているな……」


 これは俺も全力で頑張らねば!

 みんなが頑張って俺だけが頑張らないのは気がひける。


 そして数分後、新しい人が半分のラインまでやって来た。


(次は……またもや知らない人物だ……)


 何人Sクラスに入ったんだ?

 ……そこら辺詳しく聞いておくべきだったな……。


(じゃあ行くか!)


「〈飛翔〉!」


 その言葉を唱えるだけで俺の体は軽く浮き上がり、ゆっくり進み始めた。


(今全力出したら数秒で到着しちゃうからな。最初ぐらいはゆっくりでいいだろう)


 そうしてだんだんスピードを上げていく。

 今の先頭のスピードは時速約50キロと言ったところだ。

 というわけで、俺は楓にバトンが渡るまでは100キロで行こうと思う。


(やっぱり飛ぶってきもちいなぁ……)


 思いっきり風が俺にぶつかってすり抜けていく。

 涼しいっ!

 そしてあっという間に4分の1を走り(飛び)終わった。


 そして俺が半分ぐらいに到着した頃に楓にバトンが渡ったのが実況で理解した。


(全力で行くか)


 楓に遠慮は無用!

 そして今まで温存しまくっていた魔力を使い、時速約500キロ以上の速さで飛ぶことになった。

 もうこうなったら4分の3のコーナーを通過するのに10秒もかかっていなかった。

 今ぐらいにみんなとすれ違ったが、俺は何も言わずに全力(封印状態)で飛んだ。

 ぐんぐん進み、ようやく楓の背中を捉えた。


「はぁぁぁぁぁぁあああっ!!」


 俺は最後の追い上げを見せ、楓を抜かしたその瞬間にゴールした。


「今!激しい激闘を制し、勝者が帰ってきた!半分遅れというハンデを物ともせず最後には一位でゴーーーール!!」


 俺は飛翔を解除して地面に降りる。


「……やっぱり透は凄いよ……」


「大丈夫だ。楓も鍛えればこれぐらいになるから」


「ふふっ、透みたいにはなりたくないね……」


「ちょっ!?それどういうことだ!?」


「そのまんまの意味だよ……。やっぱり負けちゃったか……」


「当たり前だ。久しぶりにこのモードで飛んだからな」


「……ていうかあの魔法はアリなの?」


「みんなだって魔法を使っているんだ!俺だけ使えないは不公平だぞ!」


 こっちはハンデもあるんだ!

 それでいちゃもんつけられても知るか!


「そして今!Eクラス2と1が同着で帰ってきた!まさかのどんでん返し!Eクラスが上位を占めるという結果になりました!」


「これは後が楽しみですね」


「2年生の結果は三位で同着!Eクラス1&2!二位はSクラス!一位はEクラス3だ〜〜っ!!」


 こうして俺たちの初戦は好成績を収める結果となった。

 その次に行われた三年生の試合は特に代わり映えもなく、S、A、Bという順に並んだのであった。

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