72話 魔導演武祭開幕!
単騎出場が決まり、俺は英気を養う為に王城へと戻った。
「一人で出場するなんて……流石だね」
何故かルーナが俺の部屋にいた。
「だから何でいるんだ!!」
俺は思わず叫んでしまう。
(いつもいつも……。俺のプライバシーは存在しないのかっ!?せめて鍵ぐらいはつけておいてくれよ!)
俺は部屋に鍵も取り付けないこの文明を呪った。
「?今日は自主練だったから帰ってきただけだよ?」
「……余裕だな」
「そりゃあね。トオルには敵わないけど、他のクラスには負ける気はしないから」
「ふっ。その一瞬の油断が命取りにならないように気をつけるんだな」
「……そういえばトオルはEクラスだったよね?」
「そうだが?」
「……なるほど。トオルが直々に鍛え直したのね?」
「そういうことだ。しっかりSクラスの連中にも伝えておいた方がいいぞ。昔とは比べ物にならないほど強く育てたからな」
「……それは厄介だね」
「ふはは!俺が育てたんだ。短い間でもしっかり結果を出してくれるよ」
自慢の生徒だからな。
教師を気取っているのは変かもしれないが、俺にはこれぐらいはしてもいいと思う。
「それでトオルはどうするの?」
「うーん……。ルールで一回は出ないといけないっていうルールがあるから出ているだけで、はっきり言ってどうでもいいんだよなぁ……」
これは半ばあの理事長に強制されてやっていることだ。
「そう?なら今回は私たちが優勝で間違いないようね」
イラッ。
別に楓やルーナに負けるのは特に問題ないんだが、カーマに負けると腹がたつ。
「その勝負乗ってやらぁぁ!!」
またもや思わずそう言ってしまった。
「ふふっ。なら本番を楽しみにしてるから、頑張ってね」
「ちょっ!?」
ルーナは俺に弁解の余地を与える暇もなく去っていった。
(また罠に嵌ってしまった……)
「はぁ……」
もうこれは全力でやるしかないな……。
不本意だが勝負に乗った以上、ここで勝たないと勇者の恥だ。
みんなにはゴメンだが、ここでやらないとまた面倒くさくなる予感が……。
「もう寝るか……」
俺は明日に備えて、早めに寝るのだった。
そして魔導演武祭当日がやってきた。
「ふぁ~~」
あれ?……おかしいな。
昨日しっかり寝たはずなのにすげぇ眠い……。
これはシャワー(冷水)を浴びてくるか。
それで目も覚めるはずだし。
シャワーを上がると俺は気に入っている服に着替え、軽く飯を取った後学園へと向かうのだった。
学園はものすごい盛り上がりを見せていて、すでに中にはたくさんの人がいた。
(……これどれだけいるんだよ……)
まだ始まってすらいないのに、学園の中には100人以上の観客が集まっている。
俺は人混みに飲まれながらもなんとかEクラスのところへたどり着いた。
「はぁ……」
「やっぱりこの人混みは疲れた?」
俺に話しかけてきたのはミサタだった。
「ああ……。流石に多すぎだろ、まだ始まってもいないのに……」
「ははっ、この行事はとても人気で早く来ないと席に座れないんだよ」
まあ椅子に座って試合を見たいというのは分からなくもないんだけど……。
「それでトオルは誰と組むの?」
「あれ?聞いていないのか?」
てっきり先生から聞いているものだと思っていたんだけど……。
「何を?」
「俺、一人で出場することになったんだよ」
「え!?どうして!?」
「人数の問題だな。このクラス全員で21人だろ?普通で言ったら3チームに分れるべきだ。だけど、3チーム目は一人だけの出場になる」
「それならもっとグループを増やせばいいんじゃないか?」
「それだと人数が分散してしまう」
「それでいいじゃん!」
「それで勝てるほど楓たちは甘くないぞ」
はっきり言ってSクラスの連中は各々の秀でているところがあった。
今から一年。どのように変わっているのかは知らないが基本は変わらないはず。
人数を分けて適材適所にならない分が出てくるのならそこは確実に勝てないだろう。
(その点、俺が一人だけだったらみんなで補えるからな)
幸いにもこのクラスは21人。
桁違いな俺が単騎出場するのが俺の中では最適という判断に至った。
「それだとトオルが絶対に優勝しちまうよな?」
「本当はするつもりはなかったんだが、どうしてもSクラスの連中には負けたくない理由ができたからな」
「そうか……」
「俺の個人的な理由にみんなを付き合わせるわけにはいかないからな」
「……でも頼ってくれよ!」
「その時は頼むよ」
「分かった」
ミサタは優しいな。
俺の心配をしてくれるなんて、俺が強すぎるせいかあまり心配されないんだよなぁ……。
「じゃあもうそろそろ開会式だし、闘技場に行くか」
「そうだな!」
俺たちは開会式の為、闘技場というこの施設最大の訓練場所へと出向くのだった。
俺たちが着く頃には客席はまさかの人で埋まっていた。
(どれだけ人気なんだよ……)
あまりの多さに俺は唖然としていた。
「そういやトオルは魔導演武祭に参加したことなかったんだよな?こんなもんだぞ?」
「マジか……」
もうちょっと体育大会のような小規模な行事だと思っていたのに……!
これ何人いるんだ?
ざっと1000人は超えてるぞ!?
「それではこれから開会式を始めますので生徒の皆さんは待機場所へとやってきてください」
魔導マイクによるアナウンスがあったので俺たちは指定されていた場所へと向かう。
すると、入りきるか分からないぐらいの人数が入場してきた。
(多すぎだろ!)
もともとこの学園の人数が多いのは知っていたけど、これはどうなんだ?
もうちょっと分けてやったほうがいいんじゃないんですかね!?
「えー、諸君!これからは祭りだ!だが正々堂々やってくれよ?そうじゃないと盛り上がりにかけるからね!それじゃあこれぐらいで、魔導演武祭開幕っ!!!」
『おおおおぉぉぉぉおおおっ!!!』
簡単な理事長の挨拶が終わり、それに続いて、生徒、観客どちらも大きな叫び声をあげた。
「それじゃあ選手宣誓!」
「はい!」
大きな声で挨拶をした生徒が壇上へと上がっていった。
(金髪で綺麗な人だなぁ……)
俺のストライクゾーンど真ん中とはいかないものの可愛い、いや、これは美しいと言った方が正しいのか?
まぁそんな人が宣誓を始めた。
「宣誓っ!私たち生徒一同は正々堂々戦い、素晴らしい魔導演武祭を成功させるとここに誓います!三年Sクラス生徒会長ミーナ=アストベルト!」
言い終わると拍手の喝采が場を支配した。
「ありがとうございました!それでは次に諸注意です。ーー」
諸注意は特に注意すべきことはなかった。
競技の種目に関しても余程のことがない限り魔法も使用してOKなのだそうだ。
(……みんな正々堂々って言っちゃってるけど、俺が全力出したらそれこそ大問題になるぞ……)
心の中、一人でツッコんでいる俺であった。
「それではここで特別ゲストをご紹介したいと思います!どうぞ!」
「こんにちは」
(……はっ?)
この声はもしや……、いやこれは……!
「本日は女王陛下にご来賓としてお越し頂いております!」
(……やっぱりか……)
動揺は伝わったようで、辺りザワザワしている。
……ていうか女王がこんな祭りに来ていいのかよ……。
「本日は来賓として伺わさせていただきました。私は一観客として皆様を見ますので、どうか緊張なさらないでください」
「というわけでみんな緊張しないでよー!」
理事長が笑いを取りにいっているのからしれないけど、これは普通に笑えない……。
「それでは早速競技に移っていきましょう!」
(良かった……。この世界にはラジオ体操という文化はないんだな……)
この大勢の中でラジオ体操とか、どんな苦痛だよ。
「学園周回リレーに出場する生徒は校門前に集まってください」
(早速か……。指示があったので行くとしますか……)
俺はあまり軽くない足取りで校門前へと向かった。
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