60話 原炎の龍の正体

(ふぅ……何とかなったな)


 ドラゴンを全て倒しきった俺は、飛翔を用いゆっくり降下していった。


(それにしてもあれなんだったんだ?)


 急に湧いて降ったドラゴン。

 別に弱かったからいいものの、俺がいなかったら大惨事確定だぞ。


「あの……助けていただいたことはありがたいんですけど、……そろそろ降ろしてくれませんか?」


「ああ!ごめん」


 俺の今の状況は片手で彼女を抱えながら飛行しているという、他人から見たらそういう関係に見られてもおかしくない体勢だった。


「いえ……」


 彼女は真っ赤な顔をしながら俺から目を逸らした。


「大丈夫だったか?」


「はい……何とか」


 ところどころ傷跡が見えるが、どれも深くはない。

 あの数を相手に致命傷を負わないのは流石S級冒険者といったところか。

 俺は一応回復魔法をかけておく。


「……わざわざありがとうございます」


「いいんだ。俺が好きでやってることだから」


 ……なんか俺ってお礼言われるとこのセリフをよく使っている気がするんだけど……。

 事実だから言葉を変えようにも他の言葉が考え付かないんだけどな……。


 それから俺たちは一度冒険者ギルドに戻ろうとすると、


『待たれよ』


 頭の中に直接声が響いた。

 そう思った瞬間辺りに風が吹き荒れた。


『先程は私の部下が失礼した』


 そこには原炎の龍がいた。


「そうだぞ。まさか人里まで出てくるとは思ってなかったけどな」


『それは面目ない……。完全にこちらの不手際だ』


 龍はこちらに向かって頭を下げていた。


「そうだな……なら俺と一緒に来てくれないか?」


 ギルドに説明したいこともあるしな。

 俺だけだったら現実味が無い話もS級冒険者やこいつが居れば上手く伝わるはずだからな。

 ……余程の頑固者ではない限り。


『承知した』


(……ん?こいつをどうやって街に入れればいいんだ?)


 流石にこのままの状態で入れるわけにも行かないし、だからと言ってガルドさんをここに連れてくるのもなぁ……。


『街に入れないと考えているのか?それならいい方法があるぞ』


 ドラゴンは自身の中に魔力を集め、魔力を凝縮して人のサイズまで変わった。

 もちろん服は着ている。それと男だ。


(おおー!これが本当の変身!実際に見るのは初めてだなぁ……)


 ファフニールから龍は上位の個体になると人化が可能になると聞いた。

 え?ファフニールの変身は見てないのかって?

 本人が嫌がっていたからやめたんだよ。


「これでどうだろうか?」


 先程のドラゴンのような雰囲気はあまり醸しておらず、ほぼ完璧に人間に擬態していた。


「それで……名前が無いと不便だな……。少なくとも人間の時には名前という枠は作っておきたいし……」


「おお!ならばお主がつけてくれ!」


「いいのか?なら……」


 そこで俺は思考タイムに入る。


(考えるなら○○=○○の形にしたいからな。まずは上からだが……)


 いかんせん、俺はネーミングセンスは殆ど無いと言っても過言では無い。


(始まりという意味のオリジナルからもじってオジルと、炎っていう意味のフレイム……それじゃあ簡単すぎるか。……そういえばあれも炎だったな)


「よし!決めた。お前の名前はオジル=ブレイズだ!」


「ふむ……良い名だ!これからこの姿の時はオジル=ブレイズと名乗ることにしよう!」


(ほっ……気に入ってもらえたようで何よりだ)


 はっきり言って、ちょっと変かな?と思ったけど彼が良いと言うのならそれでいいんだろう。

 ……よくよく見るとオジルってイケメンなんだよな……。

 えーっと……真っ赤な髪の毛に大きな目。

 瞳は一見厳しそうに見えるが、優しくも見える。

 つまり、一年前、俺がこの世界に来る時だったら絶対中指が反射的に突き立ってしまうな!


(……コイツを街に連れ回したら何が起こるやら……)


 流石に楓達のようなことは起こるはずはないが、それでも何かやらかしてしまうかもしれない。

 ここは慎重に行かなければ。

 下手したらこいつ目当てで人(女性)が群がるかもしれないからな。


「じゃあそろそろ向かうか」


 俺はそう言って二人の肩を触れる。

 ……しかし、彼女とオジルの身長差ってエグいんだな。

 えー、目測で彼女が160台前半ぐらい。

 オジルは190台後半。

 ざっと30後半の差があるんだよね。


「〈転移〉」


 俺がそう唱えると、景色が一瞬で入れ替わり、ギルドマスターの部屋の中にたどり着いた。


「ただいま帰りました」


「うわっ!?いつ扉を開けたの?」


「開けてなんかいませんよ」


「……そうだった」


 理解してくれたようだ。


「あ!ウルティマさん!どうだったの?」


「私は……せいぜい半分ぐらいしか削ることが出来ませんでした」


(そんなに悲観しなくても良いことなのにな……)


 この人は楓とエルを除いて女性最強と言っても過言では無い。

 しかもまだまだ伸びしろはある。

 油断してたらエルは越されるだろうな。


「後を引き受けてくれたのがここにいる……誰でしたって?」


「ああ、トオル君だよ。君も噂には聞いているでしょ?あの勇者様」


「まさか……あの人が帰ってきていたんですか!?」


(……あれ?俺ってそんなに影が薄かったっけな?みんなに認知されていない気がするんだけど……)


 もう帰ってきて一週間ぐらいは経ったはずなのに……。

 そうなんだ……俺の知名度って所詮こんなもんなんだな……。


「ま、まあトオル君のお陰で無事に帰ってこれたんだからいいんじゃないの?」


「……どうして私が助けられたと思ったんですか?」


 余程自分に自信があったのか、怒気を含んだ声でガルドさんに問いただしている。


「それは君が獲物を譲ることをしないからに決まってるからだよ。それに君よりトオル君の方がずっと強い。

 予想するに、君が倒しきれなかったドラゴンをトオル君が倒したと言ったところかな?」


(うわぉ……流石はギルドマスターになる程だな。流石の推理力だな)


「……分かりました。私より遥かに強いというのは彼の戦いを見て分かりましたし」


「それで……そちらの方は?」


 ようやくガルドさんが突っ込んでくれた。


「彼はこの事情を知る人だ。詳しい説明よろ」


「我は原炎の龍。又の名を倶利伽羅龍王という者だ」


 俺はその事を聞いた時、ものすごく驚いた。


(はぁっ!?あの倶利伽羅龍王なのか?不動明王の化身とされている?)


 つまり、オジルは自身の体を剣にもすることができる……と思う。

 日本と同じ伝承なのならそれが可能になる!


「そうですか……あなたが原炎の龍……」


「いかにも。先日は我が部下どもが失礼をした」


 そう言ってオジルは頭を下げる。


「頭をあげてください。私たちに被害はなかったんですから」


「それでもだ。今回は我の不手際で迷惑をかけた」


「じゃあそう言うわけでこの件は終わりでいい?」


「あ、ああ」


「私も……」


 みんなも同意してくれたようだ。

 はっきり言ってこれ以上話を引き延ばすと何やら面倒くさい気がしてな。


「じゃあ行くとするかオジル」


「む?どこに行くのだ?」


「面白い所に連れて行ってやるよ」


「……分かった。お主に付き合おう」


「じゃあ失礼しました!」


 そう言って俺はギルドから出て行った。



「で?面白いこととは何なのだ?」


 俺たちはカフェでお茶をしながら今後について話をしていた。


「いや……そこまでは考えていない」


「失礼する」


「いや、ちょっと待って!?」


「むぅ……」


「オジル……これから俺たちと一緒に過ごすのはどうか?はっきり言ってお前、全力で戦えにいだろう?」


「むっ……確かに我もストレスを解放したい時はあるが……可能なのか?」


「ふっ、俺を誰だと心得る?これでも神だからな」


「ブッ……」


 オジルは自身の口に含んでいたコーヒーを吹いてしまった。


「……お、お主は何を言っておる!?」


「いや、だって事実だし」


「そうじゃないわ!この馬鹿たれが!……はぁ、我の残りの部下はしっかりしておる。100年くらいは大丈夫であろう」


「決まりだな!」


 こうして俺たちの仲間、オジル=ブレイズが仲間に加わるのだった。


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