61話 言い訳
「それで、これからどうするのだ?」
「俺はしばらく引きこもりたい!」
おっと。つい本音が漏れてしまったぜ……。
だけど、何か外に出たくないんだよねぇ……。
これが引きこもりマスターと呼ばれる俺の本性か(笑)。
「お主……それで生活して行けるのか?」
「安心しろ。これでも結構金持ちだ」
(……あ、そう言えば換金の話、完全に忘れてたわ。……まぁまた今度でいいか)
はっきり言ってまだまだお金はある。
足りないなんてことはないはずだ。
……逆に短期間で使い切る方がちょっと財布の管理をしっかりした方がいいんじゃないか?って思う。
「……お主がそう言うのなら我は止めはしないが……」
「暇だったのなら冒険者になってきたら?結構暇つぶしになると思うんだけど」
命かけて戦っている人たちからしたらとても不謹慎だが、事実俺たちのレベルからしたら暇つぶし程度にしかならない。
「……それも一興だな。じゃあ我は戻るとする」
「じゃあ夜になったら俺のところに来いよ。あそこの城にいるから」
「……通してもらえるのか?」
「そうだな……」
アポなしは無理だろう。ていうか行けたら逆に引く。
「じゃあ俺が話を通しておくが、いざという時のためにこれを持っておけ」
俺はメルトリリス王国の時計をオジルに渡す。
「これは国家の大事なものなのだろう?我に渡しても良いのか?」
「俺が渡していいって言ってるんだ。女王様も文句は言わないだろう」
未だに所有権は俺なんだしな。
「というわけで俺は帰る!帰ってきたら俺の部屋に通してもらってくれ」
「分かった」
オジルから了承を貰えたので、俺は城前に一旦転移した。
城に着くと、兵士がいた。
「すみません。後でこちらに時計を持った者が来るのでその時は透の部屋に通しておいてくれませんか?では!」
俺は伝えたいことだけ伝えると脱兎の如く近くの路地裏まで走り、場所に着くと転移を使って俺の部屋まで戻った。
部屋に着いた俺はとんでもない景色を見てしまった。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
まさかのアルスが俺の部屋にいた。
忘れている人もいるかもしれないので説明しておこう!
彼女、アルス=ナスラハ。
元魔王様直轄12護衛部隊第8部隊隊長という長い役職の人で、実質魔王軍幹部さんだ。
現在は俺のところでメイドをしている……という設定にしたはずなのだが。
「な、何してんの?」
「はい。ご主人様のお世話に参りました」
なんか動きが洗礼されている……だとっ!?
何という無駄のない動きなんだ!
……それは置いといて……。
「俺は別にそんなことしなくていいぞ。エルだってやっていないだろ?」
実質エルもメイドみたいな役職で間違いはないからな。
「そういうわけにはまいりません!師匠は違っても私がするのは当たり前!精一杯お世話にさせていただきます!」
「……だが断る!」
絶対メイドさんの世話になんてなるものか!
この歳になって世話されるとか恥ずかしすぎるわ!
(……ていうか師匠って……どれだけのことをやったんだよ……)
師匠とはもちろんエルのことである。
あれだけ自我が強かったアルスをこうして手懐けるなんて……エルって恐ろしい子!!
「というわけで、お帰りくださいませ」
俺は扉を開け、退出を勧める。
「……はーい……」
(そんなに不満そうな顔をしなくても……。ダメダメ!こういうところがあるから甘いって言われるんだ)
ガチャ。
と音がして扉が閉まった。
(それにしても今日はやけに眠いな……)
今日したことと言えばギルドまで行ってそこから転移して、数匹ドラゴンを斬ってからアトムディストラクションをぶっ放したぐらいだからな。
「……もう……寝よ」
そうして俺は眠りについた。
「……ん?」
(何やら今までにない感触が……。何だこれは……?妙に柔らかいぞ?)
俺は頭が朦朧としながら今までにない感触の根源を探した。
「……むぅ……」
ん!?これは誰の声だ!?
朦朧としていたものは一瞬で晴れ、意識が完全に覚醒した。
「うふふ。おはようございます。ご主人様」
まさかのアルスが俺のベッドに潜り込んでいた。
(何ちゅうことしてくれるんだ!?)
こんなところ誰かにでも見られたのなら……どうなることやら……。
「ご主人様………………。何故アルスがご主人様のベッドに潜り込んでいるんですか?」
ほら!言わんこっちゃない!
早速フラグ回収してくれたよ!
(後ろがっ!後ろに怪物が……っ!?)
俺の幻覚なのだろうか。
エルの後ろに様々な怪物が姿を現していた。
「ひっ……!アレだけはご勘弁を!師匠!」
「ダメです。許しません」
土下座している見た目年齢20代前半とそれを見下している見た目年齢10代前半の光景を見ていると、なんだかシュールだな……。
「それで、ご主人様。何があったの?」
「俺は悪くない!部屋の中にいたアルスを追い出してから寝たんだからな!」
「なるほど……つまりアルスはご主人様の命令を無視してご主人様のベッドに潜り込んだと」
エルの今の状態を擬音語で表すとしたら、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!だな。
(絶賛お怒り中と言うわけか……。よし、寝よう!)
この件に関しては俺の不可抗力だ!
俺は一切悪くない。それは断言できる。
目が覚めたらこのような状態が続いていないことを祈って俺は再び眠るのだった。
そして目が覚めた。
「……んぅ?ご主人様……」
「……………むぅ……」
(どういう状況!?)
俺は現在の状況を飲み込めていなかった。
何故かって?起きたら女子二人に抱きつかれているなんて誰が想像できる!?
女子っていうのはエルとアルスだ。
(ちょっとこれは……どうなんだ?)
流石にこの体勢はキツイので俺は転移で一瞬で外に移動した。
幸い、服はそのままで寝ていたため、わざわざ着替える必要もなかった。
「ふぅ……」
ちょっとあの空間は俺にとっては刺激が強すぎる。
「……ん?何だか外が騒がしいようだが……」
はっきりとは聞こえなかったけど、何か口論をしているような声が聞こえた。……ような気がした。
俺は騒がしいところまで移動してみる。
(あれ?こっちって確か……)
確か王城の門のところぐらいだったはず……。
なんでそんなに騒がしいんだ?
……まさか?いや、ちゃんと兵士には伝えたんだし大丈夫なはずなんだけどな……。
一応様子は見ていくか。
「おい!離せ!!」
騒ぎの正体は兵士に拘束されていたオジルだった。
「……何してるんだ?」
「おお!お主か!ここの兵士が我がこの時計を見せても中に入れてくれないのだぞ!?さらにトオルに合わせろと言ったら捕縛されかけたのだ!」
(本当に何やってるんだ?)
「これはトオル様!この者と知り合いなのですか?」
「ああ。仲間だ。通してやってくれ」
「かしこまりました」
オジルを掴んでいた腕は解放されて、俺の方にやって来た。
「本当に苦労したのだぞ……。何が言えば通してもらえるだ!?」
「悪りぃな。少し手違いっぽいな」
「全く……。それとこれ、返しておくぞ」
そう言ってオジルは時計を返してきた。
「ああ」
俺はしっかり受け取り、アイテムボックスの中にしまっておく。
「我が本気を出したのならあんな連中木っ端微塵だぞ……!」
「はい負け惜しみ乙~」
オジルの言い訳に少しイラッとしたから煽っておく。
「ほほう?我とやりあうって言うのか?」
「何言ってるんだ?当たり前だろ」
「よかろう!その勝負受けてたってやる!」
こうして俺とオジルの全力の試合が始まろうとしているのだった。
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