39話 異世界のG

 94階層に到着した。


「シャルアアアアアアアッッ」


 そこにはみんなの敵であるあいつがいた。

 そうGことゴキブリである!

 みんなの敵ではなくても、俺の敵だ!

 あいつにはどれほどのトラウマを植え付けられたか……。

 この恨み返してやるから覚悟しろや!


「はあッッ」


 俺はトルリオンでこっちに猛スピードで向かってくるGに斬りかかった。

 ガキンッ!!


(嘘だろ!?)


 今まで弾かれたことなんてなかったのに。

 ……それほどまでにGは硬いということか。

 全ての戦いにおいて斬れないものはないとされていたトルリオンの無敗伝説に傷がついた瞬間だった。

 ……仕方ない。これまで見るからに危険そうだったから使うことを辞めていたあの技を使うしかないか。

 そう思った俺はトルリオンを鞘に仕舞い、代わりにダインスレイブを抜いた。


「〈血壊魔法〉ブラッドボム!」


 そう、今使ったのはあの禁呪レベルで危険な血壊魔法だ。

 血壊魔法ということしか俺は知らなかったけど、呪文を唱える前に自然と頭の中にそう言葉が浮かんだ。

 手をGに伸ばしGが内側から吹き飛びようにイメージすると、Gにも血があったのか黄色の血がまるで爆弾のように内側から吹っ飛んだ。

 ……うわー、やっぱりGはグロい。

 こいつってほんと俺からしたら害悪しか振りまいてないよな。

 良いって感じたことが一つもない。

 ……ふぅ。これでこの世界にいるGは1匹消滅したな!

 よし、この調子で出会ったら即刻潰してあげることにするか!


(ていうか血壊魔法強すぎな。これ耐えられる奴がいるのか?いたら普通に尊敬するわ)


「ご主人様、これどうするの?」


 エルは黄色の血で染まっていたGを指差した。


「うーん、これは触りたくないよな……」


 俺だったら絶対に触りたくない。

 ……だけど、ここは俺がやらなければならないだろうな……。

 女子にこれを触らすというのは鬼畜すぎるし。


「〈重力魔法〉」


 これで浮かして、アイテムボックスの中に触らず入れる手段を行った。

 それは普通にうまくいった。

 そして俺たちは奥の階段を登っていった。


 95階層。


「ヴルルルルルルルルッッ!」


 95階層にいくと、なんか見たこともない生物がそこには鎮座していた。

 青色の肌をしていて、目と鼻と口は無い。

 まるでのっぺら坊をモンスター化した様な感じだ。

 しかも俺たちが扉を開けた瞬間からずっと唸ってるし……。


「ウラッ!」


 奴が急に黄色い球を吐き出して来た。


「やっば!」


 俺は慌ててトルリオンで斬りつける。

 球は真っ二つに分かれ、地面に落ちた。

 その球は案の定、電気の球、もしくは痺れ用の球だった。

 その証拠に地面に極小の雷が発生している。


(……あの雷は厄介だな)


 多分奴の体自体に雷の特性を持っている。

 もし引っ付かれて放電でもされたら俺も流石に耐えられる自信はないぞ……。


「ソーーーーレッッ!」


 俺はダーインスレイブの方を全力投球した。

 いや、もうこいつ倒すのに近距離は難いだろう。

 だから遠距離でやる。

 ガルバドメスは倒しきることはできない。

 ということで、最終的には投擲に至った。


「ヴルル……ルルルル…………ル…………」


 奴は飛んでいくダーインスレイブに電撃を浴びせるが、傷が付くどころか何も変わることなく直撃した。

 思ったより皮は柔らかかったのか、速度を落とすことなく奴を貫通させた。


「……いきなり飛んできた電気の球は驚いたね」


「そうだな。俺もまさかこんな攻撃するとは思ってなかったわ」


 まあ、そんな予感がしなくもなかったけど。

 だって今まで電気系の魔物って出て来たことなかったし、そろそろ来るかな?と思ってた矢先に来たから少し焦った。


「ご主人様!片付け終わったよ!」


「ありがとな」


 エルは俺たちが話している間に素材を回収し終わっていた様だ。

 ……エルにはちょっと軍手作ってあげたほうがいいよな?素手で触るのはなんか可哀想だ。

 俺はいつも頑張ってくれてるエルにお礼を言い、さらに上を目指すのだった。


 96階層。

 そこはただ通路があるだけで何もなかった。


(ボスはどこ行ったんだ?)


 そう思ってると右方向から強烈な打撃をくらった。


(クソッ、どうなってる!?こっちからじゃ何も見えないぞ!)


 俺がそう悪態をついていると、その打撃は止むことがなく俺に襲いかかる。


「〈千里眼〉赤外線タイプ!」


 この赤外線タイプというのは、相手の熱を感じ取り、それを見ることが出来る千里眼だ。

 普通に千里眼だけで言ったら他の機能も入ってくるからな。

 特化ならこれだけでいい。


(あれは……なんだ?)


 俺が見えた敵は、色が薄く、影の様なものを纏っていた。

 まあ、敵がステルスで攻めてくることは分かった。

 あとはこっちから迎え撃つだけだ!

 俺はガルバドメスを使ってどんどん撃っていく。

 だけど、あらかじめ飛んでくる軌跡が分かっているのか、簡単に避けられてしまう。


(これじゃ埒があかないな)


 そう思った俺はガルバドメスをしまい、トルリオンを取り出した。

 今回はダーインスレイブはNGだ。

 俺の予想ではあいつは死霊系の敵だと思う。

 つまり、血壊魔法も使うことができないし、血も出ないので鞘にしまうこともできない。

 流石の幽霊も俺の動きを読むことが出来なかったのか、俺を反応するのに一歩遅れてしまった。


(ふっ、俺に取ってはそれが命取り、だ!)


「はあああああぁッッ!!」


「グギャオオオオオオオッ」


 幽霊が奇声を発し、お互いの全力を出して攻撃する。

 軍配があがったのは俺だった。

 トルリオンは幽霊というほぼ実体を持たない敵も斬ることができる。

 幽霊の一撃が入るよりも、俺が切り裂くほうが一足早かった。

 そして幽霊はアイテムを落とし、消えた。


「お疲れ。さっきのは何があったの?」


「幽霊だな」


「え!?幽霊が見えたの!?」


「まあ、スキルを使ってだけどな」


「どんな姿してた?」


「ああ、ーー」


 そして俺たちはしばらく幽霊のことについて話していた。

 話が終わると、準備をしてくれた様ですぐ行くことになった。


 97階層。

 そこには体が灼熱地獄並みの熱さのドラゴンが現れた。

 ここで久しぶりに鑑定を使ってみることにした。

 つい最近まで鑑定という存在を忘れていたからな。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 <名前>炎龍王 バーレスト

 <レベル>762

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれ?コイツには名前とレベルしか出てこないぞ?どういうことなんだ?

 ……あ!多分阻害系のスキル持ってるのか。それで見えないと。

 ……じゃあ使う時がまた減るスキルになるな、これ。


「グギャアアアアアアアッッ!」


 自身のステータスを見ようとしたことに激怒した炎龍王さんは思いっきり俺にブレスを放ってきた。

 まあ、そんな遅いのくらうわけないけどな。

 俺はブレスを躱し、炎龍王へと距離を詰める。

 すると、


「ガルルルルルッッ!!」


 近づかれるのを嫌ったのか、全力でその場を踏み、俺の足場を無くそうとしていた。

 無駄な努力ありがとうございます!

 俺は踏んだことによって飛んだ岩に乗ってどんどん距離を縮めていった。

 だけど、近づいていくほど、熱量は増してくる。

 20メートル付近になってくると、あの火山エリアより熱い。

 というわけで消化活動を開始します。


「〈水魔法〉ビッグフラッド!」


 滝を直でくらった炎龍王は身動きが取れずにいた。

 普通の滝だったらものともしないだろうが、これは俺の滝だ。そう簡単に動けてたまるもんか。


 そして5分後。

 魔法を解除し、炎龍王を見ると、その名前の様な猛々しさはもう失っていた。


「とうっ!」


 俺は残りの距離を詰め、超至近距離からトルリオンを投げた。

 この巨躯にいくら傷つけたとしても致命傷は心臓なので俺は投げるしかない。

 投げるのが巨大な敵にとっては一番やりやすいんだよね。

 炎も無くなっていた炎龍王の体は簡単に貫くことができ、倒すことに成功した。

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