32話 ドラゴンとパンケーキ

 俺と天谷たちは特に苦戦することなく(俺がほとんど1人で倒したから)、セーフティゾーンに着くことができた。

 天谷は何やら砂?みたいなものを転移結晶の中に入れていた。

 すると、転移結晶の数字が書かれているところに、61と書き換わった。


「よし!これで登録完了っと」


「それが転移結晶の登録の仕方なのか?」


「そうだよ。ダンジョンは各階層ごとに微妙に砂の成分が違うから、それを利用してどこまで行ったのかを記憶させることが出来るんだよ」


「なるほど」


 これ考えたやつ天才だな。

 たしかにその方法なら転移の魔法がかかった石に場所を記憶させると可能だな。


「じゃあ僕たちは一旦戻るけど、透たちはどうする?別に王城に泊まってもいいんだよ」


 天谷たちはこのアルスター帝国の勇者になっている。


「いや、俺たちはいい。あそこにいると気分が悪くなるからな」


「そうなんだ……。うん、わかった。明日の10時ごろにはこっちに向かうから待っててくれない?」


「ああ、いいぞ」


「じゃあ、また」


「おう」


「お兄ちゃん、守ってくれてありがと!」


「気にするな。兄は妹を守るものだと俺の中では決まっていることだからな」


 逆に守らない奴がいたら俺がボコボコにしてやるから出てこい!


「じゃあまた明日」


「おう」


 2人に挨拶を済ませ、天谷と奏音は転移結晶を使って、帝国へ戻った。



「あの2人ってご主人様と仲良いんだね!」


「ああ、そうだな。奏音は俺の妹だし、天谷は楓と同じ幼稚園からの親友だからな」


「そっか……、私に友達はいなかったなー」


「いなくてもこれから作ればいいだろう。今からだって時間はあるんだから」


「うん!ありがとう、ご主人様!」


「それより晩御飯だな」


「そうだね!」


 エルは早速アイテムボックスから食材を取り出し、料理を始める。


「じゃあ、しばらく寝るからご飯ができたら起こしてくれ」


「うん、分かった!」


 あー、眠い。ちょっと疲れたかな……。

 俺はエルが組み立てていたテントに入り、そのまま寝るのだった。



「…………て!……きて!起きて!ご主人様!」


 耳元でエルが大声で俺を呼んでくる。

 あれ?これなんかルーナにもやられたような気がするのは俺の気のせいなのか?


「……おう。ご飯できたか?」


「出来てなかったら呼ばないよ……」


「わざわざありがとうな」


「私はご主人様の奴隷だから!こんなのは当たり前」


 俺は寝ていた体を起こしてテントの外に出る。


「あー、いい匂いだな」


「今日はちょっと奮発しちゃった!」


 そこに並んでいたのはカツ丼とステーキだった。


「……念のために聞いておくが、これなんの肉を使ってるんだ?」


 奮発したというのならよっぽどのやつだろう。

 もしかして……。


「ドラゴンの肉だよ」


 やっぱりかー!

 ていうか俺のボックスの中で奮発できるような食材ってドラゴンの肉しかないんだけど。

 ちゃっかり五体とってといていたのを忘れていたから別にいいんだけど。

 出来れば俺だけじゃなくて、楓やルーナたちと一緒に食べたいからな。全部は使い切って欲しくない。


「「いただきます」」


 早速試食といきましょうか。いざという時に食べれませんでした、とかでは話にならない。

 テンプレでは究極に美味いとされているけど、ここではどうか……。

 ゴクリと思わず喉がなる。

 とりあえず、ステーキの方から食べるとするか。

 俺は置いてあったナイフで切り分け、フォークで刺し、口に入れる。

 その瞬間、俺の口の中で肉汁が爆発した。


「旨っ!!」


 何この牛でも豚でも鳥でもない新感覚。それでいて不味くもない。

 むしろどの肉よりも美味いくらいだ。

 それぐらいレベルが違う。


「美味しいね!頑張った甲斐があるよ!」


「これはしばらく禁止だな」


「えー!なんで!?」


「こればっかり食ってたらすぐ無くなるからに決まってるだろ!」


 ……あれ?でも、これを創造で生み出せば別にいいんじゃね?

 そう思い、俺はドラゴンの肉を作ってみる。

 するとゴトッと音を立て、テーブルの上に肉が落ちた。

 作れるんかい!


「ご主人様……それってもしかして……」


「ああ、ドラゴンの肉だな。なんか作れたわ」


「ご主人様……なんでもありだね」


「そりゃ全スキ持ちだからな」


 俺はそう言いながら、ドラゴンの肉をアイテムボックスにしまう。

 これでたくさん食べても問題ないということが証明されたな。


「それより、食べるか」


「そうだね!」


 俺たちは気を取り直して、ステーキを食べ始めた。

 ……やっぱりこれは俺が今まで食ってきた肉の中で一番美味いやつだ。

 黒毛和牛とかも食ったことがあるけど、断然こっちの方が美味しい。

 脂身が少なく、身が引き締まっている。それなのに、肉汁が溢れるように出てくる。

 これを美味いと言わず何というか?

 あっという間にステーキを食べ終え、今度はカツ丼を食べた。


「これも美味いな!」


「でしょ!」


 エルもこれは自信作のようだ。

 この衣。サクサクしていて普通に美味しい。さらにその肉がドラゴンの肉ときた。

 これは上手くないわけがない。

 カツ丼を一心不乱に食べていると、すぐに無くなってしまった。


「ご馳走様でした」


「お粗末様です。もう寝るの?」


「ああ、そうさせてもらうわ。自分でも自堕落な生活って分かってるんだけどな……、眠いものは仕方がない」


「うん、わかった。おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 俺はテントに戻り、そのまま毛布を被って寝るのだった。


 そして翌朝。


「起きな……さい!」


「グハッ!」


 新たな起こされ方だな。

 この起こし方……まさか!


「やっと起きた?」


 そこには俺にダイブしてきた張本人、奏音がいた。


「その起こし方やめろっていつも言ってるだろ!」


「お兄ちゃんが起きないのがダメなんだよ!エルさんが起こしても起きないって言うから私が起こしてあげたの!」


「お前な……」


 もうちょっとエルやルーナみたいに優しく起こしてくれよ。

 流石にこの腹の衝撃は俺がしんどいわ!


「何よ……!」


「いや、昨日は可愛げあったのになーと」


「何?今日は可愛くないと?」


「痛い痛い!ギブギブ!」


 思いっきりプロレスの関節技のようなものをやられ、悲鳴をあげる。

 いや、何するの!?痛いんだけど!これ、地球でやったらタダじゃ済まないぞ!?


「ふん!このくらいやらないとお兄ちゃんは分からないでしょ!」


「ごめんごめん」


「それより、もうご飯できてるって。早く来て」


「なんで命令口調なんだよ」


「なんか言った?」


「いえ、何でもないです」


 女性って怖い。

 そう妹に実感させられた瞬間だった。


「今日の朝ごはんはホットケーキだよ!」


 そうエルに言われて俺の取り皿にホットケーキが5枚ほど積まれた。


「……あの、エルさん?僕こんなに食べれないんですが?」


「知りません!一人で食べてください!」


 エルがぷくっとした顔で俺から顔を背ける。

 エルが可愛いけどこれは鬼畜すぎる!

 昨日のアレを食ってその翌日に5枚は流石に死ぬ。俺は食えない。


「仕方がないなー。僕も手伝ってあげるよ」


「天谷ー!」


 マジ神です。

 と思ったら……。


「ごめん僕はこれでお腹いっぱいだよ」


 と一枚食ったところでギブアップした。

 テメエええ!もうちょっとは食べてくれよ!3枚が限界だぞ!


「この裏切り者が!」


「ごめんごめん。でも僕も朝食とってきたから……」


 何で今日に限って食ってきてんだよ!いつもはそこまで食べてないから腹が減るって自分で言ってるだろ!(日本での話)

 とりあえず俺は死ぬ気で食べた。

 そしたらなんとか4枚完食することができた。


「じゃあもう行こうか」


「そうだね!」


「うん!」


「もうちょっと……待ってください……」


 腹が……今動いたら死ぬ!


「仕方ないなー。もうちょっとだけだよ」


 貴様ぁぁ!何上から目線なんだよ!

 そして五分間、全力で動けるようになってから、71階層へと俺たちは目指すのだった。

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