16
「お待たせ」
そう言って加奈が部屋に戻ってきた。
それから二人は、一緒に加奈の部屋を出て、加奈の家をあとにした。
二人は自然と手をつないで、文は加奈と一緒に一本の黄色い傘の下を歩いて、加奈と久しぶりに再会をした、最寄りの駅まで雨の中を移動をした。
「また、手紙書くね」
駅でさよならをするときに、加奈は文にそう言った。
「うん。私も書くよ。必ず書く」
文は加奈にそう返事をした。
それから二人は誰もいない駅の待合室の中でぎゅっとお互いの体を抱きしめ合って、小さく泣いた。
それから文は加奈にばいばいをして、改札を抜けて、駅のホームに移動した。
加奈は文が見えなくなるまで、改札のところから、小さく手を振って、文のことを見送ってくれた。
それから、すぐにやってきた(だいたい一時間に三本から四本の電車がやってくるのだけど、電車がくるぎりぎりの時間まで、二人はお別れを惜しんでいた)大宮行きの電車に文は一人で乗り込んだ。
そして文は雨降りの中、加奈の住んでいる北関東の街を、離れた。
帰りの電車の中で、大宮駅にたどり着いたときに、乗り換えを待っている間、文は一人で真っ暗な雨の降る夜を、ぼんやりと眺めていた。
そのとき、ふと、『もう私は二度と加奈に会うことができないんじゃないか』、とそんな思いが唐突に文の心の中に湧き上がってきた。
文はすごく不安になった。
そんなことない。加奈はあの街に住んでいるのだし、手紙を書いてくれるって約束してくれた、と文は思った。
でも、その文の不安は、なかなか文の心の中から消えてくれることは、なかった。
文はずっと加奈の手を握っていた、加奈と手をつないでいた、今はもう空っぽになってしまった、自分の手のひらを、じっと眺めた。
それからやってきた新宿行きの電車に乗った。
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