死にたガールと死神
隅田 天美
死にたガールと死神
私は、この町で一番大きな建物の一番上にいた。
眼下には街が見える。
そこには私の存在を知らないように人々が往来をしている。
ここがどこで、どういう理由でここにいるかは語らない。
そんなの何の足しにもならないから。
そう、私が死んでも何の足しにもならない。
下を見る。
人が豆粒のように小さい。
「落ちたら、いてぇだろうなあ」
横から声がした。
そこには人の骨格標本にフードを被って大鎌を持った、コッテコテの死神がいた。
「はろー」
中身も軽ければ威厳も軽いらしい。
「あなたは?」
「俺、死神だよ。あんたが死ぬのを止めに来た」
「は? 死神って人を殺すのが仕事でしょ?」
「馬鹿言うなよ、縁起でもねぇ。死神の役目は成熟した魂を運ぶのがお役目。勝手に死んだり殺されたりした魂は回収できないの」
「そうなの?」
「そうなの……ついでに言っておく。回収できない魂は腐っていくんだ。肉体と同じね」
なんか、イメージと違う。
「腐った魂はどうなるの?」
「まあ、大抵は長い年月をかけて発酵して自他無くなって自然消滅するけど、悪霊とかになることもある。そういう時は専門の担当部署が強制消滅させるよ」
どうも、あの世の世知辛い。
「わかっただろ? 死んでもいいことはない。さっさと降りて、日常に戻りな」
「嫌よ‼」
私は叫んだ。
「私のこと、何も知らないのに……」
「じゃあ、教えてくれ」
そう言って死神は両手を広げた。
私は涙が溢れた。
私は死神の腕の中で子供のように泣いた。
胸の内を叫んだ。
言葉にするたびに、死神は私を撫でてくれた。
「よく頑張ったな」
泣き止むと、私の気持ちもだいぶ落ち着いてきた。
「私、もう少しだけ生きてみる」
「それがいい」
死神は消えた。
それから、私は生きた。
長かったのかもしれない。
短かったのかもしれない。
私はベットの上にいた。
もう、手も足も骨と皮だけになった。
一人になった時に、あの死神が現れた。
「よう、おひさ」
「あなたが担当?」
「そう……どうだい、死ぬ覚悟はできた?」
「ええ、何とか……幸せな人生だったわ。あの時死なないでよかった」
「じゃあ、最後に一つ。ご褒美をあげよう」
「何かしら?」
「一つだけ、願いを叶える」
「まあ……」
私は驚いた。
「前に俺に色々教えてくれただろ? あれのご褒美。何だっていいぜ。過去に戻ってやり直しもOK。若返り……」
死神の言葉に私は首を振った。
「いいわ。それより、お願いがあるの」
「何だよ?」
「私、人間になった貴方と恋愛をして結婚して子供が欲しい」
「はぁ!?」
流石に死神も戸惑っていた。
「あのな、死神だぞ。普通に考えよう。お前には、金持ちでも国家元首でも彼氏にできるんだぞ!」
「そんなの嫌よ。あなたとがいいの」
死神は唖然とし、そして、迷い、跪いた。
「ありがとう、俺も愛しています」
今度は私が驚いた。
「ただ、一つ言っておく。来世、俺とお前は確かに恋愛をして結婚して子をなすだろうけど、それが幸せとは限らないぜ」
でも、嬉しかった。
「私はあなたが好きなの。あなたがいない世界はつまらないわ」
これが私の遺言になった。
死にたガールと死神 隅田 天美 @sumida-amami
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