雨降り列車の青い傘
齋藤瑞穂
present:どうしてこうなった!?
preface
「初めまして! 一之瀬大学教育学部4年の
秋なんて微塵も感じさせない9月初頭のSHR。教卓を背にしているのは、はきはきと話す教育実習生。外ハネ気味のショートボブ、実習生らしい黒のリクルートスーツ。緊張感を感じさせない、見る者にエネルギーを与えてくれるような笑顔。
俺は彼女を見かけたことがある。いや、見かけたことがあるレベルじゃない。知っている。彼女は芸能人でも著名人でもないのに。本名や通っている大学を知ったのは今でこそあるが、俺は彼女の知り合いなのだ。
でも。
彼女との出会いや今までに話したこと――さまざまな思い出が走馬灯のごとく駆けめぐる。その間1秒ほど。そして俺は心の中で大きく息を吸い込み、心の中で叫ぶ。
「どうしてこうなった!?」
「ん、
間延びした先生の声と、
「いえ、何でもないです!」
弁解しようと顔を上げた俺と、教育実習生の市原先生とでしっかり目が合う。ばちんと音がした気がした。その音で彼女は瞬時ににっこにっこに笑う。
やばいってやばいってやばいって……。
それを見た担任は、何を思ったか俺の他己紹介を始める。
「あのうるさいの
これはかなりまずい。学校にいるときの向なずなは彼女が知ってる俺じゃない。
ってか面白い奴だから頼るって何だし。
「はい、わかりました」
素直に返事する教育実習生。先生の雑な他己紹介を聞いて笑うクラスメート。
どうしてこうなった!?
今度はちゃんと心の中で叫んでいると、隣の席の理菜がノートの切れ端を俺の机に置いてくる。すっと目に入ってくる、女子らしい丸文字。
“この教育実習生ってなずなの元カノなの? なんか今朝、情報屋が「2-5に来る教育実習生はなずなの元カノ」ってみんなに言いふらしてたけど”
俺は条件反射でそれを握りつぶし、理菜をにらみつけてぶんぶん首を左右にふる。
どうしてこうなった!?
俺は冷静になろうと、1秒で駆けめぐらせてしまった走馬灯を呼び戻す。どこから話せばいいのだろう。そうだな、梅雨入り宣言がされたあの日でいいか。俺らが出会った、どんよりする雨の日。もう3ヶ月も前のことだ――。
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