処遇会議

 

 さすがに地下で話をするのは危険だ。地下にはレオやジェイ、他にもインテリジェンス系の奴らがいる。何をされるかわからない。なので、地上にある店で話をすることにした。


 すでに店にはアンリがいた。頼んでおいた様に普通の服だ。王様のような恰好で来られたら困るからな。


 他にもヴァイアとスザンナ、それに村長もいる。おそらくスザンナと村長は護衛なのだろう。まあ、この二人やヴァイアになら話をしても大丈夫だ。ダズマに会わせよう。


「アンリ、遠い所まですまなかったな」


 そう言った直後、アンリが泣き顔になり抱き着いて来た。ものすごく痛い。


「ごめんなさい、フェル姉ちゃん! 私の、私のせいで……!」


「だからもう謝るな。念話で何度も言っただろう? 私は怒ってない。アンリを手伝ったのは私の意思だ。だから暴走したのも私の責任だ。アンリのせいじゃない」


 そう言ってアンリを引きはがそうとしたら、今度はヴァイアとスザンナも特攻してきた。さらに痛い。


「ごめんね、フェルちゃん! 私達、フェルちゃんがあんなことになるなんて全く考えてなくて! あんなに頑なにアンリちゃんを手伝わないって言ってたのに、無理やりやらせちゃって!」


「いや、だからな――」


「本当にごめんなさい。フェルが心配していたことが現実になってものすごく後悔した。ゴーレム兵だけだったから大丈夫だと思っていたけど、ラーファは人族。油断しちゃいけなかった」


 三人に抱き着かれると、かなり痛い。病み上がりなのに。それにこの状態は不安だ。早く離れて貰わないと。


「お前ら、いい加減にしろ。あれは油断した私が悪いんだ。お前らの責任じゃない。それとも何か? 私がやることは全部お前らの責任なのか? いいから離れろ。しつこいと本当に怒るぞ?」


 そう言うと三人は離れた。私の方もこれで安心だ。


 顔には出せないが、皆に触れられているのが怖い。そんなことはあり得ないと思うが、また暴走してしまうんじゃないかと不安になる。でも、それは悟られないようにしないと。そんなことを言ったりしたらまた謝罪される。


 色々とバレる前に、とっととやることをやってしまおう。


「アンリ、それに村長。念話で伝えた通り、ここへ来てもらったのは話しておきたい事があるからだ」


 村長が頷く。


「はい。とても重要な事だと伺いました。一体、どんな話なのでしょう。それになぜここで?」


「会わせたい奴がいる。トランに連れて行くと色々問題がありそうだったからな。だから来てもらった。ちなみに会わせたい奴は何も知らない。それを踏まえた上で会ってやってくれ」


「フェルさんのお願いです。それは構わないのですが、一体誰と会えばいいのでしょうか?」


「今、呼ぶからちょっと待ってくれ。おい、アモン。連れて来てくれ」


 階段の方へそう呼びかけると、階段を上がってくる足音が聞こえて来た。


 アモンにダズマ、それにレオとジェイだ。レオとジェイは護衛ということなのだろう。その二人を見て、アンリ達は訝し気な顔をしている。


 アモンは頭を下げた。


「初めまして、アンリ様、シャスラ様。私はこの店の店主、アモンです」


 そしてアモンはダズマに「さあ、挨拶しなさい」と促した。


「は、初めまして! ダ、ダズマです! ほ、本日はお日柄も良く!」


 なんの挨拶だ。だが、それはいい。


 当然の反応と言うか、アンリと村長、それにスザンナが目を見開いて驚いている。ヴァイアだけはよく分かっていないようだが。


 最初に立ち直ったのは村長のようだ。


「フェ、フェルさん、これは一体……!」


「事情はこれから話す。それじゃ、ダズマ、まあまあの挨拶だった。あとはジェイとでも話をしていてくれ」


「えー?」


「ちょっとダズマ? さっきも言ったけど、マジ笑わすから。マジ本気出すから。私をつまらないと言ったことを後悔させてやるから!」


 そんなことを言いながら、ジェイとレオはダズマを地下へ連れて行った。あっちはあれでいいだろう。問題はこっちだ。


 アモンが改めて頭を下げた。


「私はノマの弟です。これから何があったのかを説明致しますので、少しの間、お時間を頂きたいと思います」


 ノマの弟。それだけで色々と察したらしい。アンリが頷いた。


「わかった。話を聞かせて」


 店の中にテーブルや椅子を用意してそこに全員が座る。そしてアモンが説明を始めた。




 アモンはアンリ達に事情を説明した。


 途中、質問や非難の声はない。アンリ達は淡々とその話を聞いていた。


 皆はどう思うだろうか。ダズマはアンリに子供が生まれない限りは継承権が第一位となる。生きているのならば、それは未来の火種になりかねない。


 そしてダズマはラーファの子供だ。仇であるラーファは私を暴走させるために自害した。ダズマに直接の罪はないだろうが、ラーファがやったことを考えると、その子供を処刑する理由にはなるだろう。


 それに公式にはダズマは死んだとされている。死んでいる人物を改めて殺しても何の問題もない。それにいつかダズマが真相を知った時、逆恨みをする可能性がある。


 これらの理由から、アンリ達にとってダズマを生かしておくのは百害あって一利なし。単純に考えれば、ダズマを生かしておく理由がない。


 アンリ達はどう答えを出すのだろうな。


 アモンの話が終わり、全員が沈黙している。最初に口を開いたのはスザンナだ。


「事情は分かったけど、はい、そうですかって訳にはいかない。ラーファとノマは多くのトラン国の民に多くの犠牲を出した。そのツケは全部アンリがトラン王として背負っている。さらに大きな問題を抱えている余裕はない。今はいいけど、ダズマが大きくなったら問題が発生する可能性が高いと思う。それにダズマを利用するような奴が現れるかも。それを踏まえたら――」


 スザンナの言葉をアンリが右手で制した。


「スザンナ姉さん、ありがとう。でも、私のために悪役をする必要はない。これは私が決めることだから」


 アンリは村長の方へ視線を向けた。


「おじいちゃん、宰相としてではなく、母マユラの父親として聞きたい。ダズマを許せる?」


「……気持ち的には許せる。子を失う気持ちは痛いほどわかるからね。ラーファは最後までダズマの事だけを考えていたのだろう。言いたいことはあるが、その気持ちだけは汲んでやりたいと思う」


「なら宰相としては?」


「許せる許せないではなく危険すぎます。スザンナ君も言いましたが、いつかダズマを利用しようとする者が現れるかもしれません。もしアンリ陛下に何かがあれば継承権を主張できる。つまり、ダズマが生きているだけで、アンリ陛下は狙われる可能性があるのです。アンリ陛下に子供がいれば、また話は別ですが、現時点でいない以上は殺してしまうのが安全でしょう」


 多分だけど、アンリには彼氏とかいないよな? 自分で言っていてあれだけど、アンリの子供か。まったく想像できない。


 アンリは私の方を見つめた。


「フェル姉ちゃん、意見を聞きたい。フェル姉ちゃんはどう考えている? ダズマを殺した方がいい?」


「悪いが意見はない。アンリが決める事に賛成しよう。ただ、お願いはある。もし殺すなら何も教えずに殺してほしい。親の罪、そして自分がどのような形で生きているのかを知るのは、まだ子供であるダズマにとっては辛い事だろう。さっきダズマと話したが、アイツは頭がいい。説明すればきちんと理解できるだけの頭はある。だからその辺りには慈悲は与えてやってくれ」


 そう言って頭を下げた。どうやらアモンも一緒に頭を下げているようだな。


「頭を上げてフェル姉ちゃん、そしてアモンも。その願いは聞き届ける。まだ決めていないけど、命を絶つときは何も言わずに苦痛も与えないから安心して」


 アンリは次にアモンを見た。アモンは目を瞑っているが、顔はアンリの方を向いている。


「話を聞いている時から気になっていたけど、アモンは目が……?」


「はい、見えません。特殊な目を持っていましたが、その状況に耐えられず潰してしまいました」


「そう……その件は分かった。聞きたいのはダズマの事。ダズマの両親については何て説明しているの?」


「亡くなったとだけ伝えています。そして私は叔父であると説明しました」


「ラーファやノマ、それに貴方の血縁者はどこかにいる? ダズマを担ぎ上げそうな人がいるか、という質問に置き換えてもいい」


「いえ、私やノマに子供や妻はおりません。ラーファに関しては詳しく知らないのですが、ジェイが血縁関係だったと聞いています」


 ジェイがラーファの血縁関係? そんなわけがあるか。アイツはタダのインテリジェンス系アイテムだ。人族じゃない……ああ、そうか。本物のジェイの事か。


 アモンがジェイから聞いた話では、本物のジェイは元々トラン国の出身らしい。冒険者として国を出てとあるダンジョンで、今のジェイに会った。そして意気投合して一緒に冒険をする。本物のジェイが歳を取り衰えてきたので、延命や不老不死の技術があるというトランへ戻って来たそうだ。


 残念ながらそんな技術はなく本物のジェイは亡くなってしまうが、亡くなる前に自分の遠い親戚であるラーファの事を可能なら気にしてやってくれと、今のジェイにお願いしていたらしい。


 仮面だけになって動けなくなったところに現れたのがノマだ。体を与える代わりにトランのために働けと言われ、働くことになった。その体を使ってジェイとの約束を守ろうとしたらしい。そして、偶然にもノマの紹介でラーファに会う。そこから積極的に手伝いをするようになったとのことだ。


 そういえば、以前、そんな話を聞いた気がする。十数年前だからよく覚えてないけど。


「本物のジェイがトラン国出身だったのは知らなかったが、今のジェイの生い立ちに関しては以前似たような事を聞いていたから間違いないと思うぞ」


「そうなんだ。なら信じる。他にラーファの血縁はいない?」


 その問いにアモンは首を横に振った。知らない、ということだろう。次にアンリは村長の方へ視線を移す。


 村長は腕を組んで目を瞑ったが、すぐに目を開けた。


「調べてみないと分かりませんが、両親は既に他界しているはずです。それに兄弟や姉妹もいなかったはず。その辺りを不遇だと思い、当時のトラン王であるザラス様が娶った形になりましたからな。ラーファは大貴族の血筋でしたのでそれなりに親族はいるのでしょうが、今回の件でラーファの親族だと名乗り上げるような者はいないでしょう」


「そう……」


 アンリはさっきから色々と聞いているようだが、そろそろ結論を出すのだろうか。


「アモン、もう一度ダズマに会わせて。ダズマに質問をして、その答えで結論を出す」

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