魔都ウロボロス

 

 ダンジョンであるウロボロスが喋った。しかもここに閉じ込めるそうだ。ウロボロスのエネルギーを生み出すために。


 はい、そうですか、なんて言えるわけがない。


 魔族はこの魔都ウロボロスや地下庭園メビウス、水晶塔クロノスしか住めない。ウロボロスだけでも生きていくことは可能だろう。だが、それを強制される理由はない。


 ウロボロスと対話は可能だろうか。


 理由があって、それを解消できるなら何とかしてやればいい。最悪、ダンジョンコアがある最下層まで行ってそんな事できないようにするという手もある。アビスにも助力を願うことも考えておくか。


「ウロボロス、聞こえるか。私は魔王フェルだ。お前と話がしたい」


 なんとなく天井を見ながら声を掛けた。声が天井から聞こえてくるからな。何となくだけど天井にいそう。


『魔王フェル。神殺しという大罪を犯しし者よ。お前のせいで楽園計画はほぼ失敗に終わった。その責任は取って貰おう』


 私が神殺しをした? あれは魔王様がやったことだし、そもそもロイド以外は死んでいないはずだ。機神ラリスは良く知らないが少なくとも五柱は仮死状態なんだけど。


 もしかするとウロボロスはそれを知る術がないのかな。管理者達は死んでしまったと思っているのだろう。それと魔王様やイブの情報は図書館から消えているとか言っていた。その整合性を合わせるために私が管理者達を殺したことになっているのかもしれない。


 いまさら魔王様の事を言い出しても信じる訳がないな。私が魔王様の代わりに神殺しをした体で話を続けよう。そもそも魔族をウロボロスに閉じ込める意味が分からないからな。


「ウロボロス、私が神殺しをしたのは認めよう。だが、なぜそれで皆をここに閉じ込める? 理由も分からずにそんなことには従えない。それとも私の罪と皆を閉じ込めることは関係ないのか?」


 ちゃんとした理由があったとしても従えない。だが、いままで普通にウロボロス内で暮らしていたんだ。こんなことをするのには理由があるはず。それを聞きださないと。


『お前の罪は二つだ。神殺しをしたこと、そして魔族達を連れて人界へ行こうとしていることだ。魔族はウロボロスの中にいなくてはならない。それはもういない創造主様達がお決めになったこと。それに背くことは罪だと知れ』


「魔族達を連れて人界に行くことが罪? なんでそうなる? ウロボロス、魔界においてここは一番安全とされている。お前には感謝しているし、信用もしている。いままで魔族を助けてくれていたのだからな。だからちゃんと分かりやすいように説明してくれ。なんで創造主達は私達がウロボロスの中にいないといけないと決めたんだ?」


 ウロボロスからの反応がない。どうしたのだろう。私に対する嫌悪的なものは感じるが、聞けば話してくれると思ったんだが。


『……創造主も管理者達もいない今となっては情報制限など無意味だな。いいだろう。教えてやる』


 色々と葛藤していたのだろうか。だが、答えてくれるようだ。しっかり聞いておかないと。


『お前達魔族の存在理由を知っているか?』


「存在理由? 人族の間引きというやつか? 私達魔族が人族を殺すことで人数を調整している、それが楽園計画の一部だったと記憶しているが」


 周囲から驚きの声が上がっている。そうか、よく考えたらみんな楽園計画の事は知らないな。まあいいか。皆にも知っておいてもらおう。


『それは二次的な理由に過ぎない。元々魔族は別の理由で生み出された』


「別の理由?」


『そうだ。魔族はなぜそんな強靭な肉体を持って生まれると思う? それは魔界、いや、このウロボロス内で普通に生活できるように肉体を調整されたのだ。そして強靭な体に膨大なエネルギー。魔族はそれを利用して生きることで、膨大なエネルギーを私に提供している』


 エネルギーを提供している? 確かにダンジョンコアの維持にはエネルギー、つまり魔力が必要だ。ダンジョン内の明かりや水源、ダンジョン内で生きるために必要な物を作り出すのに魔力を使っているとアビスから教えてもらったことがある。


「エネルギーを提供しているのは分かった。私達がエネルギーを提供するのはお前の維持管理に必要なんだよな? それが魔族の存在理由なのか?」


『待て。話はこれからだ。私は膨大なエネルギーを使ってやっていることがある。それは魔界全土の浄化だ』


「浄化? 汚染された魔素を浄化していると言うことか?」


『理解が早いな。その通りだ。お前達から発生したエネルギーでダンジョンを維持管理しつつ、余剰分のエネルギーをクロノスへ送り、魔素を浄化している』


「ウロボロスが何をしているのかは分かった。だが、それと魔族を閉じ込めるのとどんな関係がある?」


 ウロボロスがずっと浄化していてくれればいいのではないだろうか?


『私は「疑似」永久機関だ。完全な永久機関ではない。無限にエネルギーを作り出せないのだ。このウロボロスの中に生命体がいない場合、エネルギーを作り出すことができず、私は動けなくなる。私への最優先命令は魔界の浄化システムへエネルギーを送ることだ。よって、お前達魔族をここから出すわけにはいかない』


 なるほど。事情は分かった。私達がいないと、エネルギーを作り出すことができない訳か。浄化に必要なエネルギーも供給されなくなるから、人界へ移住されると困ると。


「大体の事は理解した。だが、ここに留まる理由はない。魔界を浄化する必要はないだろう? 魔界なんてほとんど生きられない土地なのだから、魔界を捨てて人界に住めばいいだけの話だ」


『魔界を捨てることは許されない。楽園計画の最後は、浄化の済んだ魔界で暮らすことにある。お前達はそのために生まれてきたのだ。そして私もそのために生まれてきた。拒否権はない』


「拒否権はないだと?」


 ウロボロスは何を言ってるんだ? 拒否権? そもそも私達に何かを強制する権利があるとでも思ってるのか? 創造主や管理者が魔族をそう作ったから、私達はそれに従うべきだと?


「ふざけるな! お前なら魔族達をずっと見てきただろう! こんないつ死ぬか分からないような場所で、死に怯えながらずっと暮らしていけと言うのか! 人界に移住すれば魔族はもっといい暮らしができる! 魔族が生まれた理由は魔界の浄化のためだと? そんなものは創造主や管理者が勝手に決めたことだ! なぜ私達がそれに従う必要がある!」


 ……いかん、感情的になってしまった。クールにならないと。でも、ここでの暮らしはかなり厳しいんだ。こんな場所に住むことを強制されるなんて御免だ。いままでは勇者という存在のために、ここにいるしかなかった。でも、今は違う。人界へ住むと言う選択肢がある。


 ここでは弱い魔族の子供達はすぐに死んでしまう。魔族の平均寿命は四十以下。長くても五十までは生きられない。どんな理由があったとしても、こんな場所にずっといるなんてありえない。


 私は人界を見た。初めて人界で見たあの景色、あの感動を魔族の皆に知ってほしい。人界に比べたらここは地獄だ。生きていくような場所じゃない。


「徐々に移住を進めるつもりだったが、気が変わった。すぐにでもウロボロスを、いや、魔界を出ていく。いままで世話になったな」


『そんなことが許されると思っているのか?』


「お前の許しが必要だと思っていない。それにお前も無事でいられると思うなよ。これから私がコアのある部屋まで行ってダンジョンの制御権を奪うからな。精々防衛の準備をしておけ」


『……やはりそうなるか。魔王フェル。神をも恐れぬ大罪人め。お前が管理者である魔神ロイド様を殺した時に気付くべきだった』


 気付く? 何に気付くんだ? そもそも私が殺したわけじゃないのに。


『お前は新たな神になろうとしているのだな? 他の管理者達を殺したのも権限を奪うためか? すべての神を殺し、新たな神に至ろうとしている……いや、新たな創造主になるつもりか? それがお前の目的だろう?』


「何を言ってんだ、お前は。全然違う」


 でも、ちょっと引っかかるな。私の意思ではないが、それを望んでいたのはイブか? イブが新しい創造主になるため魔王様を騙して管理者達を殺させた? おっと、今はそれを考えている場合じゃない。


『今やお前に何かしらの制限を与えることは誰にもできない。だが、手段がないわけではないぞ。お前に罪を与えることはできないが、他の者に与えた。このウロボロスの中では制限のない強さを誇る精鋭達だ。たとえお前が不老不死の魔王であっても封印するぐらいはできる。そしてエネルギーを作り出せ。魔界の浄化が終わる、その日まで』


 そんな人生は御免だ。それに私には魔王様を探す目的がある。封印されている場合じゃない。


 罪を与えたと言っているのは大罪の称号を持っている奴らのことだろう。ウロボロスの中なら制限がなさそうだから面倒だな。


 ……いま気づいたが大問題がある。部長クラスの奴らはともかく、ジョゼフィーヌを相手にしないといけないのか。それはキツイな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る