作戦の確認

 

 メーデイアを出て三日目。特に何の問題もなく、目的地へ着いた。


 途中でロック鳥に襲われたり、ケンタウロスに追い掛け回されたりしたけど、従魔達が撃退したから些細な事だ。


 皆が野営の準備をしているので手伝おうとしたら、「その辺に座っていてください」と怒られた。邪魔者扱いしなくてもいいと思うのだが。


 仕方がないので、邪魔しないように近くにあった石に座る。そして周囲を見た。


 ここは何かの遺跡なのだろうか。目の前にある門はボロボロだけど原型は残っている。ここから中に入るのだろう。周囲はそれなりに高い壁に覆われているからな。


 門から中を見ると、何やら寂れた感じのものがたくさんある。


 あれは巨大なカップか? それが円形の台座に沢山置かれている。あれで飲み物は飲めないだろう。むしろカップに私が入れるくらいだし。


 あとは作り物の馬や馬車があるが、同じ場所をぐるぐる回りそうで何の役にも立ちそうにない。他にも巨大な船の模型や、風車みたいな巨大な建造物があるけど、なんなのかさっぱり分からないな。


「ディア、この遺跡はなんなんだ?」


「さあ? 私も詳しくは知らないんだ。確か名前はパンドラだったかな? パンドラ遺跡」


「パンドラ?」


 あれ? どこかで聞いたことがあるけど、どこでだっけ?


「ここにはもう金目の物がないみたいだからね、冒険者ギルドも無用な立ち入りを禁じているんだよ」


「そうなのか。結構広そうだけど、既に探索が終わっている遺跡なんだな」


「うん。かなり昔からあるからね。魔物もいないけど、お宝もない。そういう遺跡には学者さんくらいしか来ないよ。ほら、以前、村に来た遺跡機関の人とか」


 遺跡機関か。たしかアビスもその機関に所属することになったんだよな。とくに機関の仕事をしているようには見えないけど、何かやっているのだろうか。


 あ、思い出した。アビスがパンドラというダンジョンコアがあるような事を言っていたはずだ。


「ここはダンジョンなのか?」


「え? それはないんじゃない? 地下に入れるような場所はないはずだけど?」


「ちょっとアビスに確認してみる」


 アビスに念話を送ると直ぐに返信が来た。


「パンドラって遺跡の近くにいるのだが、これもダンジョンコアが作っているのか?」


『座標を見た限りですと間違いないですね。その遺跡はアトラクション型ダンジョンコア、パンドラです』


「そうか。随分と寂れているところだが、ここもアビスと同じダンジョンなんだな」


『寂れている? おかしいですね。以前調べた時は利用者数が二千はいました。魔力が枯渇するような状況にはならないはずですが』


 よく分からないがアビスがそう言うならそうなのだろう。でも、利用者数ってなんだ?


「ええと、利用者数っていうのがよく分からないのだが」


『そのダンジョン内にいる魔力を持つ生命体の数です。魔力が微量な虫とかは数に入りませんので、人型の魔物とかが多くいるはずなのですが』


「そうか。よく分からんがアビスからしたら不思議なんだな。でも、ちょっと思い出したから聞いただけで、このパンドラというのを調べるつもりは無いぞ」


『それはもちろんです。リエル様救出の対応中なのですから、そちらを最優先で対応してください』


 アビスはリエルとそれほど面識がないと思うのだが、心配してくれているのだろう。アビスもちゃんと村の住人ということか。いいことだ。


 そうだ。ついでで悪いが、従魔達は大丈夫だろうか。


「アビス、そっちにいる従魔達の怪我はどうだ? 治りにくいと聞いていたが、大丈夫なんだよな?」


『はい、問題ありません。順調に回復しています。もう二、三日もすれば完治できますのでご安心ください』


 それなら良かった。従魔達の誰かが死んでいたら、私自らの手で勇者の奴をボコボコにするつもりだったからな。問題がないなら、このままオリスアに任せよう。


『皆さんの方は問題ありませんか? 特にアンリ様はお元気ですか?』


「そこは嘘でも最初に私のことを聞けよ」


『えぇ? フェル様は魔王ですよね? 問題なんかあるわけないです。あ、ジョークでしたか? 笑った方がいいでしょうか?』


「普通に会話してただけなのに、なんで私がスベった感じになってるんだよ。とりあえず、アンリは無事だし、皆も無事だ」


『そうでしたか。村の皆さんも心配していましたので、連絡しておきます』


「ああ、それは頼む。それじゃ、また何かあったら連絡する」


『はい、お待ちしております』


 念話が切れた。結構話をしてしまっていたようだ。もう、日が落ちている。そしていい匂いが漂ってきた。野営の準備も終わったようだし、食事もできたようだ。


「フェルちゃん、アビスちゃんはなんだって? この遺跡になにかあるの?」


 しまった。ディアをほったらかしだった。


「アビスとしては何か引っかかるものがあるらしい。でも、リエル救出を優先してくれと言っていた。なにもしないで放っておくのが一番だろうな」


「まあ、そうだね。それじゃ早速食事をしながらミーティングをしよう!」


「今日もやるのか?」


 特に話し合うことは、もうないと思うんだけど。


「今日は、作戦の確認をしようと思うんだ。色々と順番通りにやらないと面倒そうだから……フェルちゃん、いきなり聖都へ突撃かましちゃだめだよ?」


「気持ち的にはやりたいのだが、色々と守らなければいけないルールがあるからな。そんなことはしない」


 人族を殺しちゃいけないとか、怖がらせちゃいけないとか、色々と制限がある。面倒くさいと思う事もあるが、ルールを破るともっと面倒くさいことになる。


 ちょっとした手間を掛けるだけで面倒を回避できるなら、それはしっかりやらないといけない。大きな面倒事を起こさないために、小さな面倒事を対処する。人生の基本だ。


 いつものように車座になって座った。皆に食事が配られる。今日はホットドッグにコーンスープ。悪くない組み合わせだ。


 食べ始めて少し時間が経つと、ディアが立ち上がった。


「はい、それじゃ今日のミーティングは、今後の予定を確認します。リエルちゃん救出作戦には皆との連携が必要だから、個人プレーに走らないように注意してね!」


 皆が頷く。頷いてはいるけれど、何となく心配なのは内緒だ。


「えー、では、まず明日だけど、夜遅くに聖都へ着きます。でも、潜んでいるのがバレるとまずいので、聖都からかなり離れた場所で野営することになるよ」


 まあ、そうだろうな。聖都の近くで戦ったらすぐに増援が来る。戦闘は避けないと。


「そして明後日、施設襲撃チームは担当の施設付近で待機。襲撃時刻は十時だから急いで配置につくようにお願いね」


「なんで十時なんだ?」


「降神の儀が十時からなんだよね。その時に教皇が大聖堂の入り口付近で挨拶をするんだ。その時を狙った方が格好いいでしょ」


 格好いいってなんだ? もしかしてチューニ病的な演出なのか?


「それにルハラやオリン、各ギルドから声明がでるのが十時なんだよね。その時間にお願いしているんだ。降神の儀が始まった瞬間に、聖都を一気に混乱の渦に叩き込むよ!」


 なるほど、全部一気にやった方が混乱するという事か。


「もちろんフェルちゃんも、南門を壊すのは十時だからね。派手にやって」


「南門? 東や西じゃダメなのか?」


「大聖堂は南側が正面なんだよね。それに女神教徒達を避難誘導させるときは、大聖堂の正面にいる人達を東と西の道へ避難させるから、南から来てもらった方が何かと都合がいいんだ」


「そういうことか。分かった。なら南門を破壊して、そこから乗り込むことにしよう」


「うん、よろしくね。それじゃ避難誘導チームだけど、八時頃には聖都へ入り込むからね。降神の儀を見に来た一般客として紛れ込む形かな」


 ほとんどが女神教徒だろうが、一般客もいるらしい。ディア達がいたとしても問題ないそうだ。


「それで、十時になったら派手な音が聞こえるので、魔族の襲撃だと騒ぐ。さらに、勇者達に任せようと扇動するわけだね」


 ディアが爺さんとアミィの方を見た。


「うむ、それなら任せてもらおう。迫真の演技を見せてやるわい」


「私は女神教徒である前に女優……そういう事ですね?」


 大丈夫だろうか。自信満々なのが逆に怖い。


「うん、そうなったら、今度はメイドさん達が現れて避難をさせます。さっき言った通り、南側の道にいる人たちを、西と東に避難させれば十分かな。メノウちゃん、メイドギルドの人達は大丈夫なんだよね?」


「お任せください。メイドとして完璧に任務を遂行します」


「うん、よろしくね。ペルさんとライルさんもそのサポートをお願いね。さて、ここまで来たら後はフェルちゃん達に頑張ってもらうしかないよ。つまり、四賢相手に勝利する、だね。まあ、心配はしていないけど」


 オリスア達が頷いている。まあ、四賢の奴らは問題ないだろう。問題は教皇だ。


「一つ確認したいのだが、教皇は強いのか?」


「教皇が強い? そんな話は聞いたことないかな。脅せばすぐにリエルちゃんを返してくれると思うよ。リエルちゃんが体を乗っ取られているのは、フェルちゃんが何とかできるんだよね?」


「ああ、そうだな」


 それは魔王様にやって貰おう。教皇に関しても、魔王様にやって貰った方が早い気がする。体はアンリの乳母だとしても、中身は女神だからな。


 あれ? 私って南門を壊すだけか? まあ、リエルが助け出せるなら何でもいいな。大事なのは過程じゃない、結果だ……と思う。


「大体の予定はこんな感じだね。トラブルがあった時はヴァイアちゃんが作ってくれた念話用魔道具で皆と情報を共有すること。ヴァイアちゃんが作戦の全体を把握して、色々サポートしてくれるからね!」


「うん、頑張るよ! いざとなったら私が大聖堂ごと爆発させるから!」


「リエルを巻き込むからやめろ」


「冗談だってば。えっと、魔物の皆にも念話用魔道具を渡しておくよ。基本的に素の念話は使わないようにして、この魔道具を使ってね。これなら盗聴されたりしないから」


 ヴァイアが従魔達へ一個一個、腕輪の魔道具を渡していく。


「それと、施設の認識阻害を見破る魔道具も渡しておくね。えっと、スライムちゃん達に渡しておけばいいかな? 皆、襲撃する施設がそれぞれ違うよね?」


 スライムちゃん達は頷いてから、大事そうに魔道具を受け取った。あれってメガネか? レンズが入っていないメガネ。


 ヴァイアが魔道具を渡し終わり、座っていた場所に戻ってくると、ディアが全体を見渡した。


「うん、こんなところかな。予定はこんな感じだけど、明日は一日移動だから、作戦の穴とかに気付いたらすぐに相談してね。まだ調整はできると思うから」


 全員が頷く。うん、皆、気合が入った顔をしているな。私も頑張らないと。


「それじゃ、明日も早いから、今日も早めに寝るよ。後二日、協力してリエルちゃんを救い出そう!」


 ディアがそう言って片手を握ったまま空に掲げた。皆も「おー!」と言いながら片手を掲げる。もちろん私も。


 ディアに仕切って貰って助かったな。色々と順調な気がする。


 あと二日か。待ってろよ、リエル。皆で助けてやるからな。

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