サテライトレーザー

 

 魔王様が砂柱に飲み込まれた。そして魔王様を飲み込んだ砂は球体になり宙に浮いている。砂漠から砂を吸い上げて徐々に大きくなっているようだ。魔王様のことだから心配する必要は無いと思うが、どういうことなのだろう?


 ントゥは砂を操れる。距離の制限に関しては聞いていないが、あんなに離れていても操れるものなのか? ントゥの本体は魔王様からかなり離れていたはず――あれ? なんでントゥの本体はむき出しなんだ?


 砂の巨人がいたところ、直前まで私がいたところにントゥの本体だけが浮いていた。


 ……もしかして、コントロールコアを魔王様の近くへ移動させていたのか? コントロールコアは三つ。その内、二つは壊したが、もう一つのコアだけ魔王様の近くに忍ばせていた?


 でも、どうやって? 本体程ではないが、コアだって相当な大きさがある。気付かれずに魔王様の近くへ移動できるだろうか。


 いや、それはあとだ。魔王様の安否を確認しないと。


『魔王様、ご無事ですか?』


『ントゥにしてやられたね。まさか、砂漠の地下を通ってコントロールコアを僕の方へ移動しているとは思わなかったよ』


 よかった。魔王様は無事だ。


 でも、そうか。砂漠の地下をモグラみたいに移動していたという事だな。もしかすると、地下を移動しているのがばれないようにサンドゴーレム達を魔王様に向かわせたのかもしれない。


 あの時は相当な砂塵だった。何かが砂漠の下を移動していたとしても気付かないだろう。だから砂の量を減したスケルトン型のゴーレムを多く作ったのだろう。魔王様を攻めるためじゃなく、砂の中を移動するコアを砂塵で隠すために。やられた。


 念のため、思いついたことを少し端折って全員と共有した。


『ぬう、もしかすると、儂が飛び出すのも計算の内だったか!』


 まあ、そうだろうな。オルドが魔王様の近くにいたら、庇うなりなんなりしただろうから、サンドゴーレムで誘ったのだろう。


 宙に浮いているントゥ本体の球体が動き出した。魔王様を捕らえている砂の球体の方へ移動している。そして砂の球体も本体へ移動しているようだ。


『コントロールコアは二つ失ったが、代わりに創造主を捕らえた。創造主の攻撃以外で私の外装は壊せまい。この勝負、私の勝ちだ』


 ントゥが勝利宣言をする。


 そうなのか? 魔王様のメテオストライク以外では外装を壊せない?


『オルド、アビス、ドゥアト、だれでもいい、あの外装を壊せるか?』


 全員から無理という回答がきた。多分、私にも無理だろう。となると、魔王様にお願いするしかない。


『魔王様、内側から破壊できませんか?』


『すまない。砂に捕らわれた時の衝撃でスイッチを放してしまった上に、身動きが取れない。メテオストライクはできないし、他の武器も使えないみたいだ』


 万事休すか。どうすればいいのだろう。


 そうこうしている内にントゥ本体と砂の球体が接触した。砂の球体がントゥ本体を飲み込むと、スライムみたいにグニグニ動き、四足歩行の動物みたいな形になった。あれはスフィンクスという魔物だろうか。獅子の体に人のような顔。人面獅子だな。


『怖いのは創造主だけだ。お前達に興味はない。人族が減っていくのを見ているがいい』


 ントゥはそれだけ言うと、東の方を見てから走り出した。


『魔王様、どうすればいいでしょう? おそらくルハラの方へ向かっていると思います』


『悪いけど、足止めしてくれるかい。考える時間が欲しい』


『分かりました。アビス、ドゥアト、それにオルド、何とかしてアイツを止めるぞ』


 全員から肯定した旨の返事が届く。よし、まずは私が何とかしないとな。転移できるから追い付くのは早い。


 とりあえず、ントゥの背中に転移。それなりのスピードで走っているが、飛ばされてしまうほどでもないな。


 まずは、本当に破壊できないか確認だ。グローブに魔力を込める。


「【ロンギヌス】」


 ントゥの背中へロンギヌスを放った。


 少しだけ攻撃が通ったか? こぶし大の穴は開いた。


 だが、すぐに穴が閉じる。これじゃ意味がない。


『無駄だ、魔族よ。コントロールコアは壊せるだろうが、砂の外装は壊せん』


「まだ手はある」


 今度はジューダスによる連打で破壊を試みよう。魔力を込めてジューダスを放つ。


 ……くそ、ロンギヌスよりも駄目だ。すこしだけ当たった所がへこんだだけ。すぐに元に戻ってしまった。


『これで分かっただろう。もう、私を止めることはできん。私が人族を殺すのを見て、自分たちのやることを思い出すのだな』


「魔族が人族の脅威になる話か? 下らないな。思い出すも何も、私が皆にそんなことはさせない」


『お前がさせない……? 貴様! まさか魔王か!』


 ントゥが急に動きを止めた。止まった反動で私は背中から投げ飛ばされる。落ち着いて地面に転移した。そしてントゥの正面に移動する。


 理由は分からないが、私が魔王だと問題があるのだろうか。足止めができたからどんな理由でも構わないけど。


『答えろ、貴様は魔王なのか? いや、確認してやる』


 スフィンクスの顔が割れて、中からントゥ本体の球体が出てきた。そして球体の赤い部分が私の正面に来る。


『……本物の魔王か!』


 理由は分からないが怒っている感じだな。私に何か思うところがありそうだ。ならば話をして、できるだけ時間を稼ごう。話をしている間に魔王様が何か思いついてくれるだろうからな。


『貴様! 五十年も何をしていた! 貴様がやるべきことを果たしていれば、私が創造主を殺すことも無かった!』


 いきなり何を言ってるんだコイツは。五十年? そもそも私はそんなに生きていない。


「待て、五十年前に私がいるわけないだろう。二十年も生きていないことは見た目でわかるだろうが。それとも魔族の年齢を見て分からないのか?」


『何を言っている! 貴様は魔王だろう!』


「お前こそ何を言ってる。話がかみ合っていないだろうが。大体、私が魔王になったのは三年前だ。お前が何を怒っているのか知らないが、私のせいじゃないぞ?」


『三年前だと? なら、それまでの魔王はどうした?』


 コイツは本当に何を言っているのだろう? それまでの魔王? そんな者はいない。私が魔王になるまで、魔王はいなかった。


「三年前まで魔王はいなかった。私の前と言う意味なら、五十年前に勇者に倒された魔王だけだ」


『馬鹿な。ロイドからそんな報告は受けていない』


 ロイド? 魔神の事か?


『……いや、もうどうでもいい。いまさらだ。私は我が創造主を殺すという大罪を犯した。ならば、予定通りに計画を遂行するまでだ』


 くそ、何を言っているかよく分からないが、時間稼ぎはここまでか。


 ントゥの赤い部分が輝きを増した。


『だが、魔族の職務を放棄した貴様は許せん。砂の牢獄に閉じ込めてやる。そこで永遠に苦しむがいい』


「断る。砂の中なんてつまらなそうだ」


 だが、どうする? 私ではントゥに勝てそうにない。他の皆もようやく追いついたようだが、攻撃の手段がなさそうだ。


『魔王様、なにか対策は思いつきましたか?』


『すまない、まだ思いつかないんだ。それに僕のエネルギーを吸い取っている様でね、上手く思考がまとまらないんだよ』


 魔王様もピンチなのか。なら私が何とかしないと。でも、どうする? ントゥの外装はメテオストライクじゃないと破壊できない。それほどの破壊力があるものが別にあれば――あ!


『魔王様、メテオストライクの使い方を教えてください』


『メテオストライクを使うための物は僕と一緒に砂の中だ。使えないよ』


『いえ、魔王様。実は私もメテオストライクの魔道具を持っています。それを使えば、外装を壊すことができるかもしれません。そうすれば魔王様を救い出すことも可能なはずです』


『そんなはずは……そうか、それは僕の作った兵器のレプリカだね。サテライトレーザーと呼ばれる別のものだよ。基本は同じだけど、僕のオリジナルよりも威力は低い』


 そうだったのか。開発部の奴らはメテオストライクの魔道具だと言ってたけど、間違っていたようだな。それはともかく残念だ。いい案だと思ったんだけど。


『でも、ちょうどいいね。それは威力も場所も制御できないタイプの物だから、使い方は単純に必要なだけのエネルギー、えっと、魔力を込めるだけだ』


 おお、どうやらこれでもいいようだ。


『そうでしたか。なら早速使ってみます』


『フェル、待つんだ。それは攻撃する場所を制御できない。おそらく使った場所を攻撃するだけ。できるだけントゥの近くで使ってくれ。そして使ったらすぐに逃げるんだよ? 巻き込まれてしまうからね』


『分かりました』


『オルド、アビス、ドゥアト。フェルが攻撃をしたら、サテライトレーザーが当たる直前までントゥを足止めするんだ』


『それはいいが、アダム様は大丈夫なのか? 当たり所が悪いと、直撃するぞ?』


 オルドの疑問はもっともだ。しまったな。それを考慮してなかった。私の攻撃で魔王様に当たる可能性もあるんだ。


『僕は不老不死だよ? ダメージを受けてもすぐに元に戻る。当たっても構わないから撃つんだ。むしろ僕に当てて砂から出してくれた方が助かるよ』


 ずいぶんとワイルドな作戦になってしまったが、やるしかないだろう。まずは魔王様を救出しないとな。

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