ワーカホリックとダンジョンコアとトラン
あのドワーフが鍛冶師ギルドのグランドマスター? あ、いや、元か。
「あのおっさん、偉かったのか?」
「なんじゃ、知っておるのか? 当然、偉かった。ドワーフで職人なら誰もが憧れる。ただのう……」
「何かあるのか?」
「鍛冶以外が全くダメじゃった。鍛冶以外でまともにできるのは酒を飲むことだけと言われておったからのう」
その洗礼は食事で受けた。でも掃除は得意だったような気がする。部屋にホコリとかなかったし、ベッドメイクも良かった。
職人だから一つの事を極めるのは得意なのかもしれないな。だが、掃除じゃなくて、先に料理を極めろと言いたい。
まあいい。謎は解けた。鍛冶師ギルドが私を支持するのは、あのおっさんの影響か。でも、元グランドマスターの肩書でギルド全体の方針的な物を決めることができるのだろうか。
「あのおっさんは鍛冶師ギルドに影響を与えることができるのか?」
「さっきも言ったじゃろう? ドワーフで職人なら誰もが憧れると。現在のグランドマスターも憧れておるんじゃないか?」
想像できん。ものすごく面倒くさいおっさんだという認識しかないんだけど。
「若くしてグランドマスターになったんじゃが、色々あってな。引退して宿の経営を引き継いだんじゃ。それが無ければ今でもグランドマスターだったはずじゃ」
「そうなのか。まあ、その辺りに踏み込むつもりはない。理由がわかっただけで十分だ。さて、そろそろ戻る。邪魔して悪かったな」
「なに。お主のためなら時間を作るからいつでも来てくれ。できれば酒を持ってきてくれると嬉しいぞ?」
「しれっと土産を要求するな。だが、考えておいてやる。じゃあな」
残っていたお茶を飲みほしてから席を立った。ドワーフのおっさんも「いつでも来いよ!」といって手を振っている。
まあ、今度は酒でも持ってきてやるか。それで頑張ってくれるなら安い物だ。さて、次はどこに行こうかな。
考えながらエントランスまで戻って来た。特に行く場所は思いつかなかったな。なら、これで終わりでもいいか。あとは魔界に連絡してルネの安否確認とオリハルコンと革を持ってきてもらおう。
「フェル様」
エントランスから外に出ようとしたところでドレアに背中から声を掛けられた。いつの間に。部長クラスは素で探索魔法に引っかからないから困る。
「ドレアか、どうした?」
「ダンジョンコアの確認も終わりましたし、ルハラへ向かおうと思いまして挨拶を」
「もう行くのか? まあ、もうすることがないのかも知れないが、少しぐらいゆっくりしててもいいぞ。ニアに許してもらっているのだから遠慮する必要はない」
「ここでの生活は居心地が良すぎて堕落しそうですから。どちらかと言えば仕事をしていた方がいいですな」
ワーカホリックというやつかな。まあ、居心地がいいと言うのは分かる。堕落しそうというのも分かるな。
「行くのならカブトムシを使うか? 空の旅はなかなかいいぞ。慣れるまでは怖いかもしれないが」
「それはいいですな。なら早速頼みに行くとします。そうそう、獣人を何名か連れて行きますが、よろしいですか?」
それは私が提案した内容だったと思う。ウゲン共和国と和解するなら獣人がいた方が何かとやりやすいはずだ。でも、獣人達はヤトに恩義を感じているようだから、行きたくないという奴もいるかもしれない。
「人選は任せるが、本人達が望んでいるというのが条件だな。あと獣人達はヤトに任せているから、そっちとも話をしておいてくれ」
「畏まりました。それと、ルハラで貰った牛と豚と鶏はジョゼフィーヌに預けておきましたので」
「……だれに預けたって?」
「ジョゼフィーヌですな」
終わった。多分、変な事になっているはず。いや、信じよう。まだ大丈夫だ。
「分かった。あとでジョゼフィーヌに確認しておく」
「お願いします。ではヤトと話をしてきます。連れて行く獣人が決まりましたら、今日にでもルハラへ向かいますので」
ドレアも忙しいな。本来ならもっと研究に浸りたいだろうに。
「分かった。ルハラでの対応よろしく頼む。これはお前に対する罰でもあるが、何かを学べる機会だとも思う。魔界に持ち帰りたい情報も多く見つかると思うから仕事として頑張ってくれ」
「ありがたきお言葉。必ず何かを得て魔界に持ち帰りましょう」
そう言うと、ドレアはすぐに外へ向かって出て行った。
私もそっちに行くんだけど、先に行かれたら出にくいな。よし、ジョゼフィーヌに会っておくか。ダンジョンにいるかな?
ダンジョン内でやみくもに探すのは無理だな。アビスに聞こう。
「アビス、聞こえるか?」
『フェル様。なにかご用ですか?』
「ジョゼフィーヌはダンジョン内にいるか?」
『はい、おります。そこまで転移しますか?』
たしか転移に金を取るとかいってたっけ? 余計な出費は避けたいな。
「金を取るだろ? 歩いていくから場所だけ教えてくれ」
『いえいえ、その必要はありません。今は生体エネルギーを使い放題なのでしばらくは無料で対応します』
そう言えばアビスはそんなことを良く言っている気がする。そういえば、セラをここへ連れて来た時、魔王様とアビスはなにか話をしていた気がする。なんとなく蚊帳の外だった。
「アビス、魔王様と話をしていた内容はどういう意味だったんだ?」
『魔王様との話ですか?』
「そうだ。セラを連れて来た時に魔王様と話をしていたようだが、私にはさっぱりだ。何の話をしていたんだ?」
『そうですね。まず、フェル様に楽園計画を知る権限がないと言う話をしたと思いますが、覚えていますか?』
そういえばそんなことがあったな。でも、それが何なのだろう?
「一応、覚えている」
『同じように魔王様とセラに関して、私はそれを知る権限がなかったのです』
たしか、アビスは魔王様とセラが誰だか分からないとか言っていたかな。
『それを知る権限を魔王様に頂きました。そして、本来管理者のみが使えるエネルギー高炉の使用許可を頂いた上に私自身の性能を上げてくれたのです。それにより、私は管理者達よりもちょっと劣る程度の力を手に入れたのです』
「よく分からんが魔物の進化みたいなものか? 性能が良くなるってそういうことだろ?」
『進化……おお、そうです。私はアンリ様から進化の芽をいただき、魔王様に進化を促された。私は他の同種よりも一歩進んだ疑似永久機関になったのです』
そこでなんでアンリが影響しているのだろうか。まあ、いいけど。
だが、要約すると魔王様はアビスを進化させたと言うことだ。魔王様は何でもできるんだな。あとで教えてほしい。
そうだ、進化したから人型になれたのかな。他のダンジョンコアもできるのだろうか。
「聞きたいんだが、人型のアビスを作れたのは進化したおかげなのか? 他のダンジョンコアもできるか?」
『進化したおかげですね。増えた権限で色々な情報へアクセスし魔素で作り出しました。他のダンジョンコアに関しては無理でしょう。管理者レベルの権限が必要ですから』
なるほど。アビスがおかしいのか。ウロボロスのダンジョンコアとかが人型にならなくてよかった。なんとなく危なそう。
「分かった。じゃあ、すまないがジョゼフィーヌのところまで転移してくれないか」
『畏まりました』
一瞬で景色が変わった。ここはジャングルだろうか?
周囲を見渡すと従魔達がいた。集まってなにかしているようだ。
「ジョゼフィーヌ、ちょっといいか?」
全員がこちらを見た。全員が振り向いたからビクッとなってしまった。
「フェル様、少しお待ちいただけますか。今、念話中でして」
「そうか、なら少し待とう」
ジョゼフィーヌは念話中か。誰と念話をしているのだろう?
ちょうどアラクネが暇そうにしているので聞いてみるか。
「ジョゼフィーヌは誰と念話しているんだ?」
「エリザですクモ」
エリザ? エリザベートのことか? そういえばズガルに残したままだったな。魔界から誰かが派遣されたなら帰って来てくれていいんだけど。ルネの安否確認をしたときに魔界から誰を送るかも聞いておくか。
少し待つとジョゼフィーヌの念話が終わったようだ。
「エリザベートは何か言っていたか?」
「はい、『私がいないのにトーナメントを開くなんてどういう了見だ』とものすごい剣幕で怒っていました」
ああ、そういう。でもエリザベートを怒らせたらだめじゃないか? アイツもシャルロット並みに危険だ。
「アンリ様の案だ、と言ったら落ち着きましたが」
「そんなんで落ち着くのか。まあ、いいけど。他には何か言ってたか?」
「他には特に……ああ、そういえばトランが攻め込んできたので撃退したとも言ってました」
「そっちを先に言えよ」
ルハラで皇帝が変わったから、ここぞとばかりにトランが攻め込んできたか。
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