傭兵団との戦い

 

 大きな門を通り、広場に出る。全員が広場に来たところで入り口が閉まった。


 そして広場には傭兵団と思われる奴らが整列して待機していた。待ち構えていたのだろう。


 その傭兵達の真ん中から一人、前に出てきた。さっき逃げた奴だな。私に矢を撃ってきた奴でもある。


「はじめまして、傭兵団『暁』の団長、レオールです。一応、冒険者ギルドのアダマンタイトでもあります」


 よく見ると女神教の爺さんみたいな格好をしているな。もしかして女神教徒なのか?


「念のため、貴方の名前を伺っても?」


 例え敵でも名乗っておかないとな。戦場でも礼儀は必要だ。


「魔族のフェルだ」


「やはりそうでしたか。冒険者ギルドからアダマンタイト限定で狙われていますね? それに何人かは返り討ちにしたとか」


「そうだな。だが、その依頼は現在凍結しているはずだ」


 それでも襲ってくる奴がいるけど。強い奴には冒険者ギルドも強く出れないのか、それとも舐められているのか……どっちもかな。


「やったもの勝ちでしょう。魔族を倒したなんてことになったら英雄ですから」


「ならやってみろ。遠慮はいらないぞ、こっちも遠慮するつもりはないからな」


「そうさせていただきましょう。ちょうど時間稼ぎも終わりましたしね」


 時間稼ぎ? 何かしていたのか?


「破邪結界を発動しなさい!」


 広場の地面に魔法陣のようなものが現れて地面いっぱいに広がった。そしてドームのように薄い膜が広場を覆う。うお、気持ち悪い。


 もしかして魔族の力を抑える結界か。以前、似たようなことをされた気がする。でも気持ちが悪くなるくらいで私に弱体効果はないな。


「二十人掛かりで作った対魔族用の結界です。効き目はどうですか?」


「そうだな、気持ち悪い。だが、それだけだ」


 以前よりも効果は高そうだが、それでも大したことはないな。


「ふむ、やはり駄目ですか。効き目が薄いとは事前に聞いていましたが、貴方にはほとんど効果がないようですね」


 知っててやったのか? 二十人も使ったのに意味のないことをするんだな。


「ですが、あなた以外には効果的なようだ」


 後ろを振り向くと、魔物達が苦しそうにしてた。ルネはちょっと渋い顔をしている感じで、ヴァイア達は全く問題なさそう。


「お前達、大丈夫か?」


 ジョゼフィーヌ達がこちらを見るが、返事は無かった。返事が出来ない程か。


「ルネは大丈夫か?」


「気持ち悪いです。二日酔いになった感じですね。お酒も飲んでないのに二日酔いって酒飲みへの冒涜です……!」


 それは知らん。


「さて、動けるのは数人といったところでしょうか。魔族は確かに強い。ですが、二人だけならなんとかなるでしょう」


 レオールが両手を空に掲げ、天に向かって「女神様、ここに魔族の魂を捧げます!」と叫んだ。なにあれ怖い。


「あー、あれは狂信者だな。たまにいるんだよ。熱狂的な女神教の信者が。半分ぐらい洗脳されているんだけど、困ったもんだよな」


 リエルがそんなことを言い出した。何を他人ごとみたいに言ってんだ。


「お前が所属している組織だろ、なんとかしろよ」


「今は無理だな。そのうち何とかする」


 頑張ってもらいたいところだ。


「さあ、戦いましょう! 突撃しなさい! 【軍団同盟】!」


 傭兵達の先頭が盾を持ち、その後ろから槍を突き出す感じで向かってきた。だが、気になるのはレオールが何かのスキルを使ったことだ。


「ヴァイア、結界を張ってくれ」


 ヴァイアが頷くと石を相手に放り投げた。私達と傭兵達の間に結界ができる。


 傭兵達の最初の突撃で結界にヒビが入った。ヴァイアの結界に傷を入れるとは相当なものだ。だが、人数が多いとは言え、人族にヴァイアの結界を壊せるものか?


 さっき使ったスキルの影響かな。念のため、レオールを見ておこう。


 ……スキル『軍団同盟』か。周囲の味方に対して能力を向上させるの効果、しかも広範囲念話による情報展開と同期が可能ときた。距離的な制限はあるけど、人数に制限なし。うーん、もっと広い場所なら分散させるとかでスキルをなんとかできるかもしれないが、ここじゃ無理だな。


 どれほど能力が向上しているか分からないけど、結構強くなっている気がする。


「お前のスキルはなかなか面白いな」


「卑怯とか言わないでくださいね? これは戦術というものです。ああ、このように上手くいったのは、すべて女神様のおかげです。女神様に感謝を」


 いきなりレオールは祈りだした。卑怯とは思わないが、いちいち女神のことを口に出すことがうざい。


 そうしている間にも傭兵達は結界を壊そうと突撃を繰り返している。後方は弓を構えているし、結界が壊れたら色々と面倒だ。


 魔物達の方を見ると、いまだに苦しそうにしていた。それに破邪結界という奴で能力が低下しているから体に力が入らないのだろう。


 なら強くなってもらうしかないな。


「お前達、普段通りに動ければ負けないな?」


 魔物達から返事はないけど、目が「負けない」と訴えている。


「ならお前達に力を貸してやる。普段よりも能力が向上し、魔力の出力が増えるが、制御できないとか言うなよ? 戦いながら感覚を身につけろ」


 大きく深呼吸する。このスキルを使うとものすごく疲れるし、一日一回が限度。それに制限時間は一時間。それまでに決着をつけてもらいたい。


「【百鬼夜行】」


 うお、魔力高炉を使ってないから魔力の消費が激しい。だが、泣き言は言ってられないな。


「行け、お前達。蹂躙を開始しろ」


 動けなかった魔物達が立ち上がり、雄叫びをあげた。そしてヴァイアの張った結界に内側から体当たりすると、結界は簡単に壊れた。


 そしてそのまま盾を持っている奴らにも突撃する。……あんな重そうな鎧を着ていても人って飛ぶんだな。後方にふっ飛ばされて弓を構えている奴らにぶつかった。


 それを見た傭兵達は一瞬ひるんだ。というより、何があったのか理解できなかったようで、動きが止まった。


「な、なんですか、そのスキルは! 破邪結界で魔物達の力は抑えたはずです!」


「そうだな。だが、私のスキルによってあらゆる弱体効果は無効化した。能力も向上し、魔力も増大している。……卑怯とか言うなよ? これが魔族の力だ」


「いえ、フェル様、こんなこと出来るのはフェル様だけなんで、魔族という括りにしないでください」


 なんでルネにツッコミを入れられたのだろうか。まあいいけど。


「ニアを奪われた時の屈辱を晴らせ。ここがお前たちの狩場だ」


 そういうと魔物達は傭兵達に襲い掛かり、あっという間に意識を奪っていった。うん、怒っていても殺しをするような真似はしてないな。


 四百人いた傭兵達は短い時間で三十人近くまで減ったようだ。


「そんな、私には女神様の加護があるというのに!」


 そんなもんないだろ。魔眼で見てもないぞ。


「こうなったら……!」


 レオールは残った傭兵達と共に後方へ下がりだした。そして閉まっている扉を何度か叩いた。もしかして温存部隊があるのかな。


「お前達、出番だ! 女神様の役に立て!」


 扉が開いて中から誰かが出てきた。……あれは獣人か?


「さあ、私のスキルで強化してやる! アイツ等を八つ裂きにしろ! 【軍団同盟】!」


 出てきた奴らは武器も持たずに突っ込んでくる。レオールはその間に城に入ってしまった。


 何人かは何の種類か分からないが、主に狼とか虎の獣人のようだ。似たような種族なのか狼達が戦いにくそうだ。


 しかし、なんで獣人がアイツ等の手助けをするんだ?


「フェル、あれは獣人の奴隷だ。首輪がついているだろう? あれに隷属の魔法が使われているんだ」


 私が不思議そうな顔をしていたのだろう。ロンが教えてくれた。そうか、ルハラは獣人を奴隷にしているのか。胸くそ悪いな。


「なら首輪を外してしまえばいい」


「駄目だ、無理に外すと爆発する。至近距離で爆発したら獣人でも助からん。何とか助けてやりたいのだが……」


 ロンはニアの事だけ考えてればいいのに、面識のない獣人に気を使っているのか。だが、そういうところはロンらしいと思う。ただの獣人好きなのかもしれないが。


 ただ、首輪が爆発か。どうしたものだろう? でも、どっかで似たようなことがあったような?


「フェ、フェルちゃん! 私が首輪を解除するから何とか動きを止めさせて!」


 そうか、ヴァイアがいた。術式を簡単に解除できる。なら簡単だな。


「お前達、獣人の動きを止めろ!」


 それを聞いた魔物達が獣人達を地面に押し付けたり、動けないように羽交い絞めにしたりした。


 ヴァイアが動きを止められた獣人に近づき、首輪の術式を解除する。


 獣人が驚いた顔をしてヴァイアを見つめた。


「これでもう大丈夫だよ。人族に恨みはあると思うけど、暴れたりしないでね」


 ヴァイアがそういうと、獣人は一度だけ頷いた。


 同じことを全部の獣人にやっていく。皆、同じ反応だな。


 全員の首輪を外すと獣人達は広場の一ヶ所に集められた。


「ロンとヴァイアに感謝するんだな。言っておくが人族や魔物を襲ったら許さんぞ」


 全員がコクコクと頷いた。そして一人が手を挙げた。何だろう、発言したいのだろうか。


「えーと、なんだ?」


「貴方がボスか? 実は城の中にまだ仲間がいるんだ。助けてやってくれないだろうか……?」


 獣人は座りながら上目遣いでこちらを見ている。助けてやりたいが、まだすることが残っている。駄目だな。


「いますぐには無理だ。これから領主とさっきの奴をぶちのめす。……助けるなら、それが終わってからだな」


「あ、ああ、もちろんだ。後で構わない。よろしく頼む」


 そういうと地面に座って頭を下げてきた。他の獣人達も同じようにしている。


 こっちはこれでいいかな。


「ロン、そろそろ出番だぞ。大丈夫だな?」


「もちろんだ。早く行かないとかみさんに怒られちまうからな。かみさんは時間にうるさいんだよ」


「よし、なら行くか。ロン、ヴァイア、リエルと私は城に入る。探索魔法で生体反応を見てもそれほどいないから、護衛は私だけで十分だろう。魔物達は出てきた奴等がいたら捕らえておけ。ルネは人形を使って周囲を確認しろ。誰も逃すな」


 皆が頷いた。


 とっととニアを取り返して食事にしよう。

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