コネ

 

 メノウの家を出て、探索魔法を使いながらルネの居る場所を目指す。


 いまは昼間だから仕事中の奴らが多いのだろう。道に人はあまりいない。走るのに邪魔が入らないから助かった。


 すぐに冒険者ギルドの建物に着く。どこの冒険者ギルドも造りは同じだな。


 建物に入り、カウンターを見た。受付の女性が引きつった顔でこちらを見ている。建物内にいる冒険者たちもこちらを見て驚いていた。


「え、えっと、ぼ、冒険者ギルドへようこそ……」


 受付嬢は気丈にも声をかけてきた。いきなり魔族が駆け込んで来たら怖いだろうに。悪いことをしてしまったが、緊急事態だ。許せ。


「ギルドマスターの部屋は二階か?」


「え、はい。ですが、今は来客中でして……」


 メノウの事だな? よし、すぐに向かおう。


「え! あの、だから来客中――」


 受付嬢の制止を振り切って二階に上がる。ルネの反応は奥の部屋からだ。


 部屋の扉を開けようとするが開かない。どうやら結界を張っているようだ。面倒だから扉ごと殴った。


 ガラスが割れるような音がして、扉が部屋の中に吹っ飛ぶ。よく考えたらメノウたちがいたんだ。ぶつかってなければいいけど。


 開いた場所から中に入ると、ルネとメノウがいた。どうやら扉には当たらなかったようだ。


「無事か?」


「大丈夫です! 扉に当たりそうになりましたけど!」


「フェルさん!」


 見た限り怪我とかはなさそうだ。なら問題はないだろう。


 そして部屋の中にいるもう二人を見てみる。


 横に広いというかなんというか、太めの男が一人と、狼の毛皮を頭からすっぽりかぶった奴がいる。


 太めの奴がギルドマスターで、毛皮の奴が狼舞とかいうアダマンタイトか?


「魔族が二人もいるんじゃ、流石に無理だぜ、旦那」


「くそ! 忌々しい!」


 なんだろう? 太めの奴はゴールドのゴテゴテな装飾品を色々と身につけていて、なんというか下品だ。


「お前がギルドマスターか?」


「だったらなんだね? 君はギルドマスターの部屋に扉を壊して入り込んだ犯罪者なんだが?」


 確かにその通りなんだけど、それはお前が無実だったらだな。


「メノウ、何があった?」


 一応知ってるけど、念のため確認。


「あの像をカラオに渡したのはギルドマスターなんです。それを問い詰めに来たのですが、覚えがない、と」


 ギルドマスターに視線を移す。


「覚えていないのか?」


「そんな像は知らん。何を言っているのか全く分からんな」


 魔眼を使えばすぐに分かるんだけど、今日はもう使わない方がいいだろう。ここで気絶したら洒落にならん。となれば、なんとか自白させたいけど、像のことで追及するのは厳しいか?


 アダマンタイトを部屋に呼んでいるぐらいだし、メノウに何かしようとしたのは確実だ。有無を言わさず殴りたいが、とりあえず流れを確認しながら追い込まないと。


「メノウ、他には何があった?」


「いままでアイドルとして稼いできたお金を引き出そうとしたんです。でも、それは出来ないと言われました」


 ルネもそんなことを言ってたな。ギルドマスターができないと言ったのは初耳だけど。


 また、ギルドマスターに視線を移す。


「預かっている金は女神教に寄付するための金だ。もうすこしで聖女が呼べるのだから我慢しろという意味で言ったんだ」


 嘘をついたな? これなら簡単に追い込めそうだ。


「女神教に治癒を依頼するには、多額の寄付が必要という話だな?」


「そうだ。しかも聖女様に依頼するならかなりの額が必要。さらに現在、聖女様は療養中だ。相場の数倍は掛かるだろうな」


「私が聞いた話によると、多額の寄付は貴族向けで、庶民は安いそうだぞ? それに聖女に直接依頼はできないとも聞いてる」


「だれがそんな馬鹿なことを言ったんだ!?」


 言ったのは聖女だ。女神教のナンバースリーらしいから、結構偉い奴だぞ。


「仮にそうだったとしても、儂には女神教へのコネがある! 金さえ積めば療養中の聖女様にも依頼が出来るんだ!」


「奇遇だな。私にも女神教へのコネがある」


「ハッ! 魔族のお前が女神教の誰にコネがあるというのだ!」


「私の親友で聖女をやってる奴だ。お前も今日、メノウの家で会ったんじゃないのか?」


「な、なに?」


「そうそう、カラオの呪いや病気は聖女が治した。女神教に寄付する必要はもうない。だからメノウがお前に預けていた金を渡してやれ」


「そう、そうです! 女神教に寄付――いえ、ギルドマスターにお金を預ける必要は無くなりました! 引き出させてください!」


「お前たちは何を言っている! メノウの家にいたのが聖女様だと? そんな嘘を信じる訳ないだろうが!」


 見た目だけは完璧な聖女なんだけどな。


「そうだな、まあ、聖女の件が嘘だと思っていても構わないぞ。だが、メノウは女神教に寄付はしない、と言ってる。だから預けた金を返せという話だ。返せないなら理由を言えよ? 簡単だろ?」


 ギルドマスターは頬を痙攣させながらこちらを睨んでいる。


 多分だけど、コイツは女神教に寄付するとかいいながら、メノウの稼ぎを着服していたな?


 調べたら他にも色々出てきそうだ。冒険者ギルドのギルドマスターにはロクな奴がいないな。ディアはギリギリセーフ、かな。


「なあ、旦那。もういいだろ? 金を持ってとっととズラかろうぜ? アレを発動させてコイツらに全部擦り付ければいいじゃねぇか。その間に俺達は逃げればいいんだよ」


「くそ! せっかくあの遺跡を解明したのに!」


 何の話か知らないが逃げようとしているのは分かった。取り押さえよう。


 ギルドマスターの目前に転移して捕まえようとしたら、狼の奴に邪魔された。


「おっとぉ、聞いてるぜ? 転移を使うんだってな? でも視線の先だけとか? ならこれだな!」


 狼の奴が地面に何かを叩きつけた。白い煙が当たりを包む。ウルと同じように煙幕か。


 何かが壊れるような音がした。もしかして窓を壊した? 二階から外に逃げたのか?


「ルネ! 追えるか?」


「こんなこともあろうかと、町中に人形を置いておきました! この町はすでに私の支配下ですよ!」


「よし、二人とも逃がすなよ」


「分かり――あ、駄目です。一人は町の外の方へ向かっているのですが、一人は遺跡の方に向かいました。フェル様、どちらかを対応してくれませんか?」


 遺跡には魔王様がいるし、遺跡の中ならおそらく袋のネズミという奴だろう。ならそっちだな。


「遺跡の方に向かう。ルネは外に逃げようとしている奴を捕まえろ」


「了解です! こっちはギルドマスターですね。フェル様の方は狼野郎です!」


 煙幕で良く見えないが、ルネの気配が消えた。おそらく人形と入れ替わったのだろう。


「メノウ、お前はここで起こったことや今までの事を受付にでも話しておいてくれ。私は遺跡の方に行く」


「は、はい、分かりました!」


 壊れたと思われる窓に近づいて外を見る。そこから遺跡っぽい物が見えた。視線を遮るものはない。ちょっと遠いが見える範囲なら転移できるはずだ。


 遺跡に近そうな家の屋根に転移した。転移したとき、少し屋根を壊したけど仕方ない。ギルドマスターたちに弁償させよう。


 屋根の上から遺跡の中に入っていく狼の奴が見えた。走るのが速いな。しかし、なんでここに来たのだろう?


 まあいいか、追えば分かる。とっとと捕まえて夕食だ。

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