正座

 

 食堂を出て、村の広場を横切ろうとすると、スライムちゃん達が村の入り口を修理しているのが見えた。


 前から不思議だったのだが、あの黄色い動く植物ってヒマワリなのかな? ちょっと聞いてみよう。魔物だから話せるよな?


 ヒマワリで良いのか聞いてみると、「今、大事なところなので後にしてください」と言われた。スライムちゃんの影響だろうか。


 しかし、ヒマワリもそうだが、アルラウネとかマンドラゴラってどういう扱いになるのだろう? ジョゼフィーヌが育てていたから、あいつの従魔になるのか? もしかして、私には命令権がない? うーん?


 まあ、いいか。後で考えよう。村長の家に行くか。




「たのもー」


 村長の家に入ると、四人が正座していた。まだ、説教中だったようだ。


「遅いよ、フェルちゃん! 足がもう無理! 限界! 折れちゃう!」


 大丈夫だ、折れそうじゃない。私の魔眼はごまかせない。


「折れるわけないだろ。罰がそんなもので済むなら良かったじゃないか。それにアンリは何も言わずに堪えているぞ?」


「正座には慣れてる。それに、多分、麻痺耐性スキルを覚えた。アンリには効かない」


 状態耐性スキルって結構重宝されるんだけど。でも、あれって正座のしびれにも効くのか? というか、それじゃ何の罰にもなっていない気がする。


「フェルさんが来たので、罰はここまでだ。皆、正座を解きなさい」


 ディアとヴァイアは、なんだか生まれたばかりの山羊みたいに足がふらついている。ヤトとアンリは大丈夫なようだ。アンリは麻痺耐性のおかげだろうが、ヤトは多分、座りながら影移動で足だけ影に入れていたのだろう。足に体重が掛かっていないから痺れない。ヤトをじっと見つめると、目を逸らした。間違いないな。


「さて、フェルさん。だいたいの話は伺いました。とりあえず、エルフ達との誤解が解けて何よりでしたな」


「色々あったが、終わりよければ全て良しだ」


 昨日の襲撃が無かったらもっと楽だった気がするけど。


「ところで、エルフの方がこの村に食べ物を売りに来るというような話を聞いたのですが?」


「エルフの森にあるリンゴという果物なんだが、私が食べたいからこの村で売ってくれと頼んだ。硬貨が使えないので、何かと物々交換になるが」


「なんと。エルフと交易する者などほとんどいませんぞ。市場に出回るエルフの食べ物は、ほとんどが盗品と相場が決まっていますからな」


「そうなのか? 私以外でもエルフが欲しい物を持っていれば、取引してくれると思うぞ」


 チャラい奴が居るから女性なら絶対に取引してくれると思う。


「そうですか。それなら是非取引させて頂きますかな」


 なんとなく村長は嬉しそうだ。私の分のリンゴがあるなら、好きにしてくれて構わないぞ。


「エルフが欲しがるものは、宝石や装飾品、あとは、ハチミツとかワインとか言っていた。それらを揃えられるならまず大丈夫だと思う。もしかしたら他にも何か欲しがるかもしれないから、それは個人で交渉してくれ」


「ううむ、どれもこの村では難しいですな」


 確かに。宝石や装飾品は魔界の宝物庫にはあるかもしれないが今は持っていない。もしかしてエルフが来ても、なにも交換できずに持って帰ってしまうかもしれないな。他に欲しいものを何か言っていたっけ?


「そういえば、ヴァイアの作った魔道具をエルフが欲しがったな」


「え? 私?」


「詳しくは知らんが、魔道具と食糧を交換してくれたんだろ?」


「うん。使い捨てだけど、暴風の魔法を付与した石が欲しいっていうから。なんだか矢じりに使いたいみたい」


 やっぱりか。魔導矢とかいうのを作るのかな。カマキリと戦っていた時の矢よりも、ヴァイアの作った石の方が、威力が高いからな。


「ヴァイアが作る魔道具なら、エルフは取引に応じてくれるかもしれないぞ」


「なるほど。ヴァイア君が魔道具が作れるようになっていたことにも驚きましたが、そういうことであれば、エルフとのやり取りに関してはヴァイア君に任せますかな。雑貨屋を営んでいることもありますし、丁度良いかもしれません」


「え? え? 村長さん、何の話ですか?」


「ヴァイア君。この村でのエルフとのやり取りに関しては君に任せよう。この村のエルフ親善大使ということで頑張ってくれ」


「えーと、何をすれば良いですか?」


「エルフが持ってきたものに関して、ヴァイア君が欲しいものが無くても、出来るだけ魔道具で食糧と交換しなさい。それを村の人達に売ってくれればいい。エルフにお金は価値がないが、君になら価値はあるだろう?」


 卸売り業者みたいなことをするのかな?


「私がエルフさんの売り物を仲介する形ですか。ほとんどはニアさんに売る形になるのかな? それなら楽かも」


「ヴァイアちゃん、値段設定なら任せて! 私の目利きで完璧な値段にするよ! でも、ちょっと割り増しするから、売り上げの一割を報酬として――」


 正直なのは美徳だけど、この場で言うのはどうなんだろう? テンション上がりすぎだ。


「ディア君。君がそんなに正座好きだとは知らなかった。もう三十分追加だ」


 ディアの顔が絶望に染まった。なんとなく、ざまぁな感じがする。ちょっと気分が良い。


「そんな! 村長! これ以上正座したら、足が折れちゃう!」


「折れたら、司祭様に直してもらうから安心しなさい。アンリ、手を貸してあげなさい」


「ディア姉ちゃん。大丈夫。足はなかなか折れない」


 私を基準に考えるなよ。私の骨は結構固いぞ。


「フェルちゃん、助けて!」


「ギルドに依頼してくれ。小金貨一枚ぐらいで引き受けよう」


「あー!」


 アンリに強制的に正座させられたようだ。たまにはその軽率な行動を反省するといい。


「えっと……」


「値段に関しては、ニアさんと決めなさい。多くの食材を使った経験があるから適正価格も分かるだろう」


「分かりました」


「さて、話はこれぐらいですかな。しかし、フェルさんが来てから、村が色々と忙しくなりましたな。畑の方でも賑わっていますし」


 畑の方はノータッチだ。スライムちゃん達に聞いてくれ。


「なんだか、すまんな」


「ははは、責めているのではありませんよ。村に活気があってありがたい、ということです。では、今日はお疲れでしょう。宿でゆっくりお休みください」


「わかった。では、宿に戻る」


「じゃあ、村長さん、失礼します」


「失礼するニャ」


 ヴァイアもヤトも村長にお辞儀して、一緒に付いて来た。さあ、宿に戻ろう。


「皆! 置いていかないで! 足が! 足が!」


 ディアの心がすこしでも入れ替わってくれるといいんだけどな。無理かな?

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